◎再び十月桜が咲く(493)
看護師のKは、完全に私と同類だ。
本人が気付いているかどうかは知らないが、時々、幽界の住人を連れて歩いている。
おそらく寄り付かれ易いのだろう。
火曜日に病院に行き、Kを見たが、背後に「女」が寄り付いていた。
一瞬だが、鮮明な姿を目視したのだ。
「あれでは、さぞ体が重いだろう」
Kが近づいた時に、さりげなく声を掛けた。
「今は体調が悪かったりする?」
すると、Kは「そんなことはない」と言う。
「でも、皆に『顔色が悪いよ』と言われるんです。どうしてかな」
やっぱりね。
詳述するわけには行かない状況だから、ただ「気を付けろよ」とだけ伝えた。
病院を出て、買い物をしたが、やはり神社に行くことにした。
「今は『不要不急の外出を避けろ』と言われているが、要・急だろうな」
幸いそんなに離れていないし、この日は雨だし、人は少ない。
この日ははっきりと目視したのだが、目にしたのは髪がボサボサの女だった。
死んでから、割と長い時間が経過しているらしく、感情のようなものが薄れている。
「でも、俺が気付いたということは」
概ね先方もこっちに気付く。
「要・急」というのはそのことだ。私の存在に気付けば、大体はこっちに乗り換えて来る。「自分を見てくれる」のであれば、そっちの方が居心地が良い。
これは生きている人間と同じ。
神社の境内に人はまばらだった。
先日の雪の影響か、早くも桜が散り始めている。
おまけに十月桜も咲いていた。やはり降雪の影響なのか、スイッチが入ったらしい。
神殿前で写真を撮影したが、この時期だし、天気も悪い。
画像に「ここがこうで」と指示しても、それと分かる人はいないと思う。
だが、私の後ろには隊列をなしてついて来ている。
思わず苦笑した。
「Kどころか、俺の方が大変じゃないか」
いつも目視し難い画像を「ここがこうで」と指示するが、声も出ているということ。
視覚だけでなく、聴覚もほんの少し広いわけだが、そういうのは説明が困難だ。
真後ろには、やっぱりKの後ろにいた「女」が寄り付いていた。「ううう」みたいな唸り声が漏れているので、かたちがはっきりしなくともそれと分かる。
ま、こういう時にどうすればよいかは重々承知している。
もはやKには、具体的な対処の仕方を教えようと思う。
「さしたる理由が無く調子が悪い」みたいなことはそれで無くなる。
今のような時勢では、そのままにしておくと、いざという時に足を掬われることにもなりかねない。
画像で認識するのは難しいが、ひとまず記録として留める。