◎夢の話 第940夜 あの世の一丁目
十九日は終日、酷い下痢に襲われ、ほぼ寝たり起きたり。
その日の午後十時に観た短い夢です。
我に返ると、岩山の中腹に立っていた。
細い山道があり、そこを伝ってここまで登って来たらしい。
目の前に広がるのは、峡谷のようだが、川が流れていなかった。
視線を反対側に向けると、まだ数十メートルくらい斜面が続いているようだ。
見渡す限りゴツゴツした岩が続く。
「ここは岩石砂漠じゃないか。まるであの世の一丁目だな」
ふと自分の手を見ると、ポリタンクをひとつ下げていた。
「湧き水でも汲みに来たのか」
きっとこの近くに清水が噴き出ているんだろうな。
「だがここには前にも来たことがある」
確か急に地震が起きてがらがらと岩が崩れたり、洪水が押し寄せて来て、今自分が立っている高さまで水浸しになった。
あれと同じ場所だった。益々怪しい。
「ここがあの世の一丁目なら、水なんか汲んでいる場合じゃない」
飲み食いしたら、そこでアウトだ。
そこでポリタンクを放り、来た道を戻ることにした。
山道を下ると、次第に道が広くなる。
車がかろうじてすれ違うことが出来るくらいの道幅になった。
「どこかに車を置いてあった筈だが」
駐車スペースなどどこにもないのだが、道肩が僅かに広くなっているところに車を停めた記憶がある。
だが、その車の場所には何もなかった。
「ありゃ。俺の車はどこに行ったのだろ」
これでは帰れないぞ。
道の片側は崖だから、そこまで行って周囲を眺めてみる。
すると、数キロ先に人家が幾つかあるようだ。あと小一時間も下ったところだ。
「俺が車を置いたのは、もしかするとあの近くだったかもしれんな」
この時、不意に背後でがさがさと草が描き分けられる音がした。
山側の草叢から男が出て来たのだ。
そこに現れたのは、見上げるほどの大男だった。
男は青黒い顔で、鬼のような形相をしている。
男は俺を見ると、いきなりこう言った。
「ここには入っちゃならね。もうひとが入れぬ場所だかんね」
そのひと言を言うと、青黒い男はまたどこかに去って行った。
「え。今のは何?俺の車が駐禁場所に置いてあったから、移動させたってこと?」
うまく頭が働かない。まるで死人並みの思考力の無さだ。
「違うよな。ここは人も車も入ってはならない場所だと言っているんだ」
自分の置かれた状況がちっとも理解できず、茫然と立ち尽くす。
ここで覚醒。