◎夢の話 第955夜 タージ・マハル
十六日の午前二時に観た夢です。
駅を降りると、仲間たちがロータリーに車を寄せて待っていた。
小さく手を振り、車に向かう。
仲間は男女一人ずつの計二人だ。
「随分、遅かったわね」と女が声を掛ける。
「なんだか遠回りをしちゃってね」
すると男の方が話を遮る。
「早く行かないと、閉まってしまう。さあ、乗って」
そこで車に乗り込み、出発。
小一時間ほど走ると、うっそうと木々の茂った森に着いた。
広い道路の先には、これまた大きな建物が見えていた。
「博物館か国会図書館みたいな建物だな」
あるいは、写真でしか見たことがないが、「タージ・マハル」のよう。
すぐ近くの入り口に向かうと、警備員がゲートを閉め始めるところだった。
「待ってください。僕らも入れて!」
「もう今日は終わりなんだよ。また来な。次はいつ開くか分らんけどね」
「そんなこと言わずにお願いしますよ。まだあと一分あるじゃないですか。ほら」
建物の正面に大きな時計が飾ってあるのだが、実際、その時計は五時の一分前を指していた。
警備員がもう一度ゲートを開ける。
「それなら入って。駐車スペースは右手ね。でも、あの建物の扉だって、もうすぐ閉まるよ。走った方がいいよ」
ダダっと車を入れ、三人で走り出す。
建物までは、ざっと百㍍ちょっとだ。
連れの二人は、物凄いスピードで走り、どんどん先に行く。
俺は半ばまで走ったが、途中で足が止まった。
「ダメじゃん。俺は心臓に持病があるから、そもそも走れない」
あと三十メートルのところで、女が振り返る。
俺は頭の中で「俺のせいで入れなくなったら嫌だな」と考え、「先に行け」と合図を送った。
「俺のことは自分でどうにかするから、お前たちは先に入れ」
二人の姿が扉の向こうに消えると、少しずつ扉が閉まり始めた。
「ギギギギギ」
「ああ不味い。間に合わねえぞ」
走りたいのだが、もはや足が前に出て行かない。
ここで覚醒。
目覚めて最初に思ったのは、「ああ良かった。俺は回収されなかった」ということだ。
既に夢の中で何となく感じていたのは、あの「タージ・マハル」みたいな外観の建物が「棺桶」の象徴だということだ。
数十年の間、繰り返し「電車に乗って長く旅をする」夢を観て来たが、ついに目的の駅に到着し、あの建物に向かうことになった。
入った先は「あの世」だから、事実上、あの建物は「棺桶」と同じ意味だ。
ひとは死に瀕すると、「暗いトンネルの中を光に向かって歩いたり」、「暗い峠道を越えたり」、「小さな川の前に出る」。
これは心象風景だから、そういう景色や事物が存在するのではなく、本人の心が生み出す景色だ。
私はまだ生きているのに、死出の道に「踏み込んでは戻る」を繰り返してきたような気がする。
だが、もはや電車を降り、いよいよあの建物が近くなった。
「仲間」の男女が誰なのかは、まったく覚えがない。見たことのない顔だった。
だが、両方とも私よりもひと足先にあそこに入るようだ。