日刊早坂ノボル新聞

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◎自ら飛び込む者はいない (あるいは「詐欺師のテクニック」)

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◎自ら飛び込む者はいない (あるいは「詐欺師のテクニック」)

 人は何故詐欺師に騙されるのか。

 その理由は、数々あるが、基本は詐欺師の語ることの六七割は真実を語るから、その真実に気を取られると知らぬ間に騙されている。

 あるいは、詐欺師にはそもそも詐欺を働くつもりはないが、そもそもが「出来ないものをやれる」と見込むから、結果的に詐欺になる、という場合もある。

 

 画像は、中国人が「買ってくれないか」と連絡して来たもの。概ね清代か明代のものだろうが、この他に宋代の白磁など焼き物(皿や壷)があった。こっちは北京の故宮博物院の鑑定書がついていたが、白磁の画像はどこかにやってしまった。

 経緯はこう。

 前提として、中国の「骨董商経由の品」ではもちろんない。こういう素性の品に本物は無いので、見なくともよい。

 照会されたルートは商業ルートとはまったく別だ。

 

 私には日本で旅行社を経営する中国人がいるが、元々、その知人は北京空港に勤務していた。その仕事を辞めて日本に着たのだが、当初から「日本で成功する」という野心を持っていた。昼に運送屋のバイトをやる傍ら、夜はスナックでバーテンをやった。

 その店を私が営業で使っていたから知り合ったので、およそ三十年来の知人だとも言える。その知人は十数年掛かってお金を貯め、日本の旅行代理店を買収した。

 専ら、中国人の留学生やビジネスマンにチケットを売るのが本業だ。

 だが、元が空港勤務だから、他にも様々なビジネスが出来る。通関の仕組みを熟知しているので、中国製品を日本で売るのも簡単だ。

 おそらく空港勤務当時の人脈で浮上したのが、「文化委員」氏だ。

 中国共産党の文化委員の肩書で、長らく故宮博物院に勤務していたのだという。

 

 この辺で、私の方はつい退いてしまった。

 日本でも諸外国でも、「肩書をざらざらと並べてみせる」のは、大体はロクデナシだ。バカと詐欺師ほど、数多くの肩書を誇る。内容のある者は、ひとつか二つしか書かなくてもよいし、業績も五つだけ書く。

 だが、最初は「古銭を買ってくれないか」という話だった。

 一枚千円で百枚、計十万円の小さな売買になる。

 「十万円くらいなら、飛び込んでみるか」とこれを買った。

 品が着いてみると、最も重要な品が何故か消えていたが、これも付き合いの内だ。

 「最初は幾らか相手に儲けさせる」のは商売の基本だ。それで「次」が生まれる。

 最初から値切りまくる者が居るが、そういう者には次の話が届くことはない。

 逆にいきなり儲けさせると、甘くみられるから、「少し」が基本だ。ご苦労賃だと思えばよい。

 ところで、中国では「百年以上経過した骨董品」は持ち出しが禁止となっており、これを破ると二十年から三十年の刑罰を食らうことになってしまう。

 この古銭も「現実には届かぬのではないか」と思っていたが、「古銭は貨幣であって骨董品ではない」とする解釈もある。日本では貨幣は通貨なので骨董品とは見なされない。また通貨なので、一般の封筒では古銭を送ることが出来ない。

 そういう事情の他に、あるいは「小さいからポケットに入れて持って来れば分からない」とも言える。現実にどうしたのかは知人だけが知る。

 内容が分かったのは一二年後だったが、古銭は総て本物だった。

 さすが故宮博物院の研究員が個人で集めたものだ。

 評価額が三千円から数万円の品が多かったから、少なくとも三倍くらいの利益が出た。

 やはり、中国本土の貨幣は憚られていたようで、西域など中心からずれた地域のものが多かった。もしくは太平天国など中国史の本筋ではない部分になる。

 「骨董品」の言い訳を準備してあったようだ。

 残念なことに、太平天国系の「中国銭譜には未掲載の品」があったのだが、私の室内で紛失してしまった。あれはおそらく試鋳貨だと思われるが、紛失する前はどういう貨幣かを知らなかったので、適当に部屋のどこかに置いた。以後出て来ない。

 

 これが伏線だ。

 その後、画像の骨董品や、白磁青磁の品の写真が届いたのだが、値段が無く「相談で」と言う。

 白磁は画像でもそれと分かる本物だった。

 宋代の白磁の名品なら、評価額が幾らになるか分からない。

 かなり前に三陸沿岸で、漁師が地引網を引いた時に、腰の高さもある白磁の壷が網の中に入っていた。海中から出たにしては、珍しく無傷だったので、漁師は道路に面した自分の家の前にそれを置いていた。

 たまたま東京の骨董商が前を通り掛かったのだが、余りの出来栄えに驚き、漁師に「百万で売ってくれ」と頼み、その日の内に現金を押し付けひったくるように持ち去った。

 もちろん、漁師にも異存は無い。海から拾った壷が百万に化けたのだから、当たり前だ。

 骨董商はその品を高額で売り出したが、すぐに売れたとのこと。値段は確か八千万くらいと聞くから、ほぼ国宝級の品だ。

 そんな実例もある。

 

 故宮博物院の研究員で、共産党の文化委員の「売主が個人で集めたものを売りたい」という。

 実際、「この白磁の皿を目の前に出されたら、細かい鑑定が出来なくとも、とりあえず二百万で買います」と言うと実感した。

 品物の詳細な鑑定はまったくしていないが、この段階での画像の品は総て本物だろうと思う。骨董商を一切経由していないのが利点だ。

 

 だが、もちろん、断った。

 取引条件を聞くと、「引き渡しは北京で」という話だった。

 今から二十五年は前だから、円元の貨幣価値は今とまるで違う。

 「骨董品」だから公での取引は出来ない。空港に持ち込んだところでアウトだ。

 知人に「買ったって持ち出せないだろ」と言うと、「大丈夫だ」と答える。

 はっきりとは言わぬが、そこは空港関係者だから、飛行機に載せる・降ろす前に扱いを別にするのだろう。通関自体をスルーするということだ。

 

 だが、それでは「私が現金を持って北京に行き、そこで金を払って、品物を受け取る」ということだ。国外に持ち出すのは「私」ということになる。

 これでは私のリスクが高すぎる。

 「現金を持って空港に降り立った時」から各段階で強奪される恐れがあるし、「金を渡した直後に当局に掴まる」という筋もありそうだ。

 ま、私が逆の立場で、そんなボケナスがのこのこと日本から現金を持って来たら、すぐに巻き上げて、本人を警察に渡すと思う。どうせボケナスは二十年は刑務所から出て来られない。

 画像の品はたぶん、総て本物だが、それなら写真だけで済む。

 典型的な詐欺のやり口だ。

 

 ちなみに、間に立つのが民間の人間なら「ほぼアウト」で例外は無い。中国には、骨董村があり、レプリカを散々作っている。もちろん、ボケナス相手には「本物だが事情が在って安く売る」と言う。びっくりするが、そんな話を信じる日本人もいる。

 古銭も同じで、こちらは「古銭村」があり、中国や日本の偽物を沢山作っている。

 最初はすぐにそれと分かる代物だったが、十年以上掛けて製作を学んだようだ。

 一時、「日本の素材を利用する」ことに気付いたのか、日本から雑銭(安価な古銭)を中国人が大量に買っていた時期がある。たぶん、それを潰して、皇朝銭を作っている。

 

 話を戻すと、その後、文化委員氏が唐突に日本を訪れたことがあり、知人に「日本刀を買いたいそうなので、今日、その人を案内してくれないか」という連絡が来た。

 だが、その日、私は予定があったので断った。

 後で「行ってみれば面白かったか」と、それをきっかけに「大々的に中国骨董を売買していたかもしれない」と思った。テレビの骨董鑑定家を「鼻で笑える」立場になるわけだが、しかし、二十年の刑で刑務所に入っていたかもしれんとも思う。

 十年くらい前に文化委員氏は亡くなったので、もはや「もう一度」の機会はない。

 死なずに済んだし、刑務所にも入らずに済んだから、これはこれで良い。 

 

 文化委員氏の古銭には「草書の大観通宝」の本銭と地方写しなど、希少品もかなりあったが、様々な古銭の集まりで回覧している間に持ち去られた。ま、これは出てくればそれと分かる。特定の「変化のある品」は日本では手に入らないからだ。

 その時は、友人のアモンという者が処理してくれると思う。

 

 ちなみに、当時は銅像に興味がなく白磁のみ注意していたが、こちらも幾つかは面白いものがあるようだ。金属製は手に取ってみないと分からぬが、今となってはどうでもよし。