日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第973夜 後ろに立つ女

夢の話 第973夜 後ろに立つ女

 十三日の午前三時に観た夢だ。それまで料理を作る夢を観ていたのに、それを分断してこの夢が始まった。

 

 病院の三階から、外を眺めている。

 下には駐車場が見える。

 車の前に、作務衣を着た男が立っていて、何やら携帯で話をしている。

 すぐ後ろには女が寄り添うように立っているから、おそらく夫婦なのだろう。

 

 何気ない日常のひとコマだが、ついその人たちを見てしまう。

 男は同じ病棟の患者だった。

 「何か込み入った話があり、外に出たのだな。仕事なのか家庭の話なのか」

 次に後ろの女に眼を向ける。

 女は背後から男の両肩に手を添えていた。

 「やや。あの女、でっかいぞ」

 三階から眺め下ろしているので、それまで分からなかったが、男の頭よりもかなり上の方に女の頭がある。前の患者は百七十五センチくらいだから、百九十くらいはありそうだ。

 「おまけに、白い着物を着てやがら」

 私にとっては、時々見掛ける「馴染みのある姿」だ。と言っても、人間ではなく、あくまで「人影」だ。

 

 「おいおい。死に装束を着たでっかい女があの患者の肩に手を添えているって・・・」

 生きている女じゃないな。

 画像ならともかく、ついに目視で鮮明に見るようになったのか。

 そこで、これも良い機会だから、女をよく観察することにした。

 身長はおそらく百九十センチ超。一枚着の白装束だ。髪の毛は肩までで、俯いているので顔の表情が見えない。

 「バレーボールやバスケの選手でも、さすがにあの身長はなかなかいない」

 疑いなく、生きた人間じゃない。

 

 ここで女の異様さに気付く。

 「ありゃりゃ。景色が歪んでいる」

 女の周囲五十センチくらいの景色(空間)が揺らいでいる。

 夏の日差しで、地面が熱されて、その熱気で上の景色が揺らぐときに似ている。

 ここで突然、背筋に戦慄が走る。

 「こりゃただの幽霊ではないな」

 普通の幽霊でも、周囲の景色が揺らぐが、これは光の波長域が普段目にするバランスと異なるせいだ。

 殆どの人は見えぬ筈だが、俺みたいに可視波長域の広い者は「どこか違う」と違和感を覚える。

 いわゆる「第六感」「霊感」みたいなものは、こういうほんのささいな違和感ということだ。

 

 かつて俺の前に二人組の幽霊が現れた時、俺はその二人を即座に「尋常ならぬ相手」だと思った。それは、その時の二人の周囲の空間がうねうねと歪んで見えたからだった。

 それがもの凄く怖い。

 「あれは間違いなく『お迎え』だった。とすると、この患者の後ろにいる女も、きっと」

 あの患者を連れ去りに来たのだ。  

 

 ざわざわと心が波立つ。

 「怖ろしい話だ。これから俺はのべつ幕なしにこんなのを見させられるのだろうか」

 俺が怖ろしく思うのは、あの「女」のことではない。これから始まる自分自身の境遇が怖ろしいのだ。

 「この世ならぬ者」が「気のせい」とか「妄想」などといった、別の言い訳のつかぬ状況で、ひとの生き死にに関わろうとする。そんな者を俺はこれから山ほど眼にすることになる。

 

 恐怖に打ち震えた瞬間、俺が見ている前で下の「女」がぴくんと動いた。

 「女」はゆっくりと顔を上げ、俺のことを見た。

 ここで覚醒。