◎古貨幣迷宮事件簿 「桐極印と六出星極印の違い」
栗林製と浄法寺山内製の当百錢について、焦点は「極印の違い」だと述べたが、どこが違うのか。着眼点はいずれかということを補足しておく。
物事の眺め方の基本的姿勢は、「簡単そうに見えることは見落としがないか注意深く調べること」「難しそうに見えることは、原則論に立ち返って眺め直すこと」のふたつだ。
天保通寶には、後藤家の家紋である桐葉の極印が打たれているが、原則として諸藩および民鋳の天保銭にも、それに倣い桐(葉)極印が打たれている。これは贋金を円滑に流通させるためだ。
霧の葉の先は尖っているので、桐極印の葉の先は尖っている。
これに対し、六出星極印は、新渡戸によれば「花輪状(の中央)にキ」「ナ」と表現されている。要はツバキのような六弁の花をイメージすればよく、先が花弁のように丸い。(だが、当時の郷土史研究者たちが「星」と呼称しているので、極印型の名称は「六出星」だ。)
極印は斜めに打たれたものあり、打極を繰り返すことにより変形や摩耗が生じるので、判断は容易ではない。だが、「そもそもはこういう違いがある」という認識を持つと迷いが少なくなる。
古貨幣収集家は、ついつい「少ないものを探す」「珍しいものを有難がる」性癖があるが、珍品探査は目を曇らせる原因のひとつだ。
まずは、「何を目的に、どのように進めたか」という鋳銭の流れを観察軸に置くべきだ。