◎夢の話 第1000夜 犬には分かる
私は目覚める前に観ていた夢を、ほぼ百㌫記憶している。そのうち、何かしらの示唆がありそうなものをメモすることにしている。
これは九日の午前三時に観た夢だ。
我に返ると、俺は見知らぬ部屋の中にいた。
玄関の天井と壁の境目くらいに頭があり、そこから家の中を眺めている。
「何でこんな高い位置から見てるんだろ」
ほんの少し疑問を覚えるが、しかし無感動にただ茫然と眺めている。
すると奥の方から軽い足音が聞こえ、小型犬がやって来た。
犬は玄関の上り端に座り、俺のことを見上げた。
「ふうん。俺のことが見えるのか」
犬は眼が良くない筈なのに、感じるものがあるのだな。
気配と言うか、心情というか。
犬が吠えると煩いので、俺は自分の心を穏やかなものにした。
それが効いたか、犬はじっと見ているだけだ。
その犬の眼の色を覗き込んだら、この家の主人が誰か分かった。
「俺の知るあの人だったか」
犬の周りに、その人物の気配が纏わりついていた。
すると、俺の意識がふっと飛んだ。
次に気が付くと、俺はその主人の傍にいた。
正確には「傍にいた」のではなく、「頭の中にいた」だ。
その主人の思考の中にスペースを作り、主人の意識を通じ外界を眺めている。
この主人が観ているのは、自分の家の中の様子だった。
「なるほど。あの犬が好きでたまらぬから、ビデオをセットして外から観察しているのだ」
ペット好きのやりそうなことだ。
主人が眺める画面では、犬が玄関に座り、上の方を見ている。
「うちのワンちゃんは何を見ているのかしら。全然動かないわ」
犬は玄関の上り端に座り、空中の一点を見詰めたままだった。
「ああ。あれは俺のことを見ているのだ」
ぼんやりとそう考える。
「この犬の主人は、何時そのことに気付くのか」
きっと気付かんだろうな。
それに、もし気付いたとしても、俺はもうここに立っている。
ここで覚醒。
夢の中に現れた「主人」は、起きている時の私の知人だ。と言っても殆ど話をしたことが無い。
夢の場合、最初に現れた異性は「夢を観ている本人の変化(へんげ)」であることが多いのだが、この主人自体は登場した(姿を現わした)わけではない。
「俺」がこの人の意識の中に入り込んだだけ。
あと数秒後、この人は仕事の仲間(か友人)に向かって、「オバケでもいるのかしら」と話す。
その犬が見ているのは「俺」なのだが、しかし「俺」は同時にその画面をこの人と一緒に眺めている。
たぶん、夢の中の「俺」は、「お迎え(死神)」の一種だ。
「俺」は目覚めている時の「私」ではなく、恐らく悪縁アモンの仲間だ。
「家の主人」は、現実に存在する人なので、その人に「気を付けろ。傍まで来ているぞ」と伝えたいが、しかし声を掛けられるほどの知人ではない。「会ったことがある」と言う程度だから、仮に警告したとしても、「ちょっとおかしい人」だと思われてしまう。他人の生き死にには、関わらぬ方が無難で、本人に任せるべきだと思う。
ちなみに、自分の傍にいる「何か」に気付き、なるべくそれを分離するように心掛ければ、生死を分かつ瞬間に「意識を掴まれる」リスクを減らせる。
夢の記録が一千に到達した。