日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第1K19夜 烏賊漁師

夢の話 第1K19夜 烏賊漁師

 二十六日の午前二時に観た夢です。

 

 俺は東南アジアの港町の一角にある飯屋のオヤジだ。

 屋台同然の店で魚介料理を作り、客に出している。

 いつものように大鍋を温めていると、客が五六人入って来た。

 いずれも男で背広を着ている。

 この街の人間ではないところを見ると、女でも買いに来たのか。

 昔からここは漁業の町で、遠洋に出る船も多い。「港には女アリ」でここの外れには、そういう遠洋漁師を相手にする店もある。主に漁師だが、女目当てに都会からこんな男たちもやって来る。

 男たちは浮かれているのか、横柄な口ぶりだ。

 周りの客を押しのけ、小馬鹿にする素振りが見える。  

 「クズどもだな。身なりは立派でも心根は汚い」

 いずれ罰が当たるぞ。とりわけ死んだ後にな。

 

 店頭に籠を抱えた男がやって来た。

 漁師が魚を売りに来たのだ。俺は漁師の幾人かと懇意にしており、市場に行く前の魚を仕入れられる。

 一定量までなら全部を買うから、漁師の方も取引が楽だろう。

 だが、この日は見知らぬ漁師だった。

 男が「新鮮な魚を買ってくれると聞いて来た」と言う。

 籠を除くと、中身は氷詰めの生きた烏賊だった。

 氷の上で烏賊がうねうねと動いている。

 「いいね。幾ら」

 男が「初めてだからこれでいいよ」と値を言う。安い値段だ。

 「貰うよ。これからもよろしくな」

 次のことがあるから、少し色を付けて渡した。

 男が喜ぶ。

 「その烏賊は特別な烏賊なんだ。活きが良くてしぶとい。こうするとずっと死なずにいるし、苦しめずに済む」

 そう言う男も、まるで烏賊みたいに、どこかぬめぬめしている。

 男が一匹を手に取り、小刀で体の一部を切った。そしてその傷口からするすると糸を引っ張り出した。

 「これが中枢神経だ。これを抜くと烏賊は自分が死んだことを知らないから」

 そう伝えると、男はすぐに去った。

 

 調度さっきの都会者たちが烏賊料理を注文した。

 烏賊が入った話が聞こえていたのだ。

 「刺身にしてくれ」と言う。

 そこで俺はさっき聞いた通りに、烏賊の神経を抜いた。

 烏賊は苦しそうに蠢き、手足を揺らしている。

 「何だよ。苦しくないと言ってたのに」

 烏賊の断末魔の叫びが聞こえるようだ。

 これならきちんと絞めてからにすれば良かった。

 

 俺は日本人との混血で、昔は日本でも暮らしていた。

 板前の修業をしたことがあり、日本料理も出来る。

 それが「売り」となり、小さい店だが、俺の店は繁盛していた。

 ここであの客たちが「早く出してくれよな」と横柄な声を張り上げる。

 こいつら何様のつもりなんだろ。

 どういうわけか店では偉ぶるやつがいる。

 

 俺は捌いた烏賊を運んで行き、客の前に置いた。

 「おお。本当に生きている」と客たちが騒ぐ。

 俺はまた店頭に戻り、魚を捌き始める。

 

 しばらくすると、店の中が静かになった。

 「あれ。さっきまであんなに騒いでいたのに」

 あのバカ客たちめ。

 テーブルの方に目を遣ると、客たちの姿が見えぬ。

 そこでそっちに近寄ってみると、あの客たちが全員床に倒れていた

 既にこと切れていると見え、体が硬直していた。

 「うわ。何ということだ」

 上を向いた客の口からは何か白くてぬめぬめしたものが飛び出ていた。

 何だろ。氷なのか。

 そんな風な色合いだ。

 だがその白い物体は程なく動き出した。

 白いのは烏賊だったのだ。

 「あの烏賊男め。あいつが言っていたことは本当だったか」

 この烏賊は異様に生命力が強く、客の腹の中で暴れたのだった。

 ま、因果応報だ。ロクデナシどもにはちょうどよい。

 ここで覚醒。

 

 夢の終盤で、自分のお腹から「キーン」みたいな金属音が響いたので、それで目が覚めた。

 金属音というか、あるいは「きゃああああ」という女の悲鳴だ。

 少し驚くが、しかし、これからはきっとこういうのが増えるし、私も慣れて行くと思う。

 

 二十年近くの間、深夜に玄関の扉を叩く音が聞こえていた。

 それが聞こえなくなったら、家の中で人の気配がした。

 外ではなく、家の中に入ったから、ノックの音がしなくなったのだ。

 そして、今では家の中の人影もいなくなった。

 それもその筈だ。

 「女」は既に私の中に入り、私の一部になっているのだった。「でっかくて黒い女」の影がそれだ。

 この一年で、私は「自分が魔物(悪縁)の仲間ではないのか」と思うようになったのだが、私の中の「女」の自意識なのだろう。

 大きな黒い女は他の幽霊を取り込むのと同時に、生きた人間にも報いを与えるつもりでいる。

 人間(私)の中にいるので、その人間の眼で見て、耳で聞くことが出来るから、相手を選び特定出来る。

 私には自然に幽霊が寄って来るから、女にとっては重宝だろう。次々に取り込んで自分のものに出来る。そしてその影響は私にも及ぶ。

 

◎死期の迫った者が示す兆候(11

 他の者が見えぬものを「見て」、聞こえぬものを「聞く」ようになる。

 実際、今はひとの後ろにどんな奴が立っており、その人に手を掛けているかが何となく分かるようになった。聞かれればストレートに答えるが、ほぼ誰にとっても聞きたくない話だ。

 だが私は占い師でも霊能者でもないので、ひとの気持ちに配慮などしない。

 今は自分の死の間際で、果たして回避できるかどうか分からない。そんな状況で誰が他人のことなどを配慮する?

 腹の中から声が響くが、それはちょうど秩父で幽霊に差し込まれたのと同じ位置だ。

 このひと月でこの状況から脱さないと、おそらくは心不全が待っている。

 死ぬこと自体は怖ろしくはなく、幽霊(女など)も怖くはないのだが、死後の私自身がどのように変貌してしまうのかを考えるとひたすら怖ろしい。

 

 経過はこう。

 1)白い煙玉

 2)たまに人影を見たり、声を聞いたりする

 3)黒い人影、悪縁(霊)が近づく

 4)自分に似た人影が現れる

 5)黒い玉 

 6)いない筈の人影を頻繁に目視し、聞こえぬ筈の音を鮮明に聞く

 このステップに乗ったら、かなりヤバイ。もうその先はわずか。