日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎あの世を垣間見た瞬間

◎あの世を垣間見た瞬間

 昨日、友だち限定SNSに次のような日記を記した。その後起きた出来事について記す。

 

「嫌な感触」

 昨夜からどうにも嫌な感触がある。

 「胸騒ぎがする」「悪寒を覚える」みたいな感覚だ。

 持病があるし、心臓の不調を指摘されているから、私自身のことであれば当たり前なのだが、そうでない時も同じ感覚になる。

 「近いうちに倒れる」

 「地震が来る」

 みたいな出来事が起きる直前みたいな印象だ。

 ざわざわする。

 あるいは、例によって「あれの訪問」があったりして。

 これはこれで閉口する。

 (「あれ」とは、もちろん、幽霊のことだ。) (引用ここまで)

 

 その後、程なく理由が分かった。

 後で現実に来たのは発症の方だった。

 私は夕方七時頃に居間で座っていたが、そのまま後ろに倒れ、意識が無くなった。

 しばらくすると、意識は戻ったのだが、頭が起きていても体が動かない。寝たきりだ。

 周囲の音などはきちんと聞こえるのだが、手足を動かすことが出来ない。

 そのうち、三メートル離れた窓の外から物音が聞こえだした。水道の蛇口から水が落ち下のシンクで「サワサワ」と鳴る音のような、あるいは人の話し声のような「カヤカヤ」といった音だ。

 

 「不味いな。これはあの世と通じている時の音だ」

 そう気づいたが、まるで金縛りのような状況なので、何も出来ない。

 複数の人の声が聞こえるが、その中にはきちんと聞こえている声もあり、「翼賛会が※※したから、俺は▽▢で、※▢▼は」みたいなことをぶつぶつ話している。

 「翼賛会って、戦時中の話じゃねえか」と思うのだが、ただぼおっと男の話を聞いているだけだ。

 自分が心不全を発症し、動けなくなったのは分かったが、ここに至るともはや打つ手はない。

 既に「死出の山路」の途中まで入り込んでいるわけだ。

 自身の感覚としては二十分くらいの間、そのまま固まって過ごしていたが、じきに血流が戻って来て、それから四十分後くらいに起きられるようになった。

 陳腐な表現だが、まさに「体が氷のように冷たくなって」いた。

 

 「ああ良かった。もう少しで死ぬところだった」

 時計を見ると、本人は二十分くらいのつもりだったのに、実際には五時間が経過していた。

 死に至る道筋には、「トンネルを通って川を渡る」行き方と「暗い山道を歩き、峠を越える」行き方がある。

 前者は普通の死に方で、死後も彷徨うことなくあの世に入れる。

 後者は悪意を抱えた者が辿るルートで、周囲から物音が聞こえる。

 「ざっざっ」と歩く足音や話し声だ。

 後の方の「あの世の一丁目」は、自意識が描き出すイメージがそのままかたちになって現れるところだ。そこには執着心を抱えたままの幽霊や、その感情がかたちを変えたバケモノみたいなヤツが沢山いる。

 「死出の山路」は現実と繋がっている部分があるので、時々、まだ生きているのにそこに入り込んでしまう人がいる。これが「神隠し」で、当人は死んでいないのに、生きたまま、悪意に満ちた世界の中で彷徨う。

 この世界は心象がそのまま実体として現れるので、「何でもアリ」だ。妖怪みたいなヤツや鬼、腕や足だけのヤツまでいる。心がそのまま変化(げ)するわけだが、多くは醜い心根の持ち主だ。よって、そんな者たちが描き出す世界はやはり極端におどろおどろしいものになってしまう。

 これが悪意を抱えた者の向かう地獄だ。

 

 目覚めた後、私はえらく疲れていたが、しかしとにかく生き返ることが出来て幸いだった。

 一日前から尋常ならぬ感覚があり、周囲がざわざわしていた。もっと早い段階で気付き手を打たねばダメだと思う。

 この感覚は、なにか事件事故が起きる時も同じだから、始末に負えない。

 自分自身に起きることと、世間一般に起きることとの区別がつかない。

 

 本人には意識があり、周囲の状況が分かるのに、周囲に居る妻子には夫(父親)が「眠っている」ようにしか見えぬところが、少し怖ろしい。

 多くの場合、死んだ後にしばらくの間はこの世に留まるわけだが、死者の方からは状況が見えるのに、生きている方は死者のことにまったく気付かない。

 

 あのまま心臓が止まっても、それはごく普通に起こり得る事態だから、今回は戻って来られて本当に幸運だった。明日は状況を調べて貰い、ことによると入院することになるかもしれぬ。