◎夢の話 第1K31夜 巫女の宣託
十六日の午前四時に観た短い夢です。
コンサートを観に行った。
あるグループの解散ツアーに「元のメンバーが限定参加する」というから、最後にそのメンバーの踊りを観ようと思ったのだ。
二十分ほど観て、俺は満足し、会場を後にした。俺は病身で、人込みが堪える。間に混じっていられるのは、せいぜいそれくらいだ。
会場の外に出ると、道は真っ暗だった。
「これじゃあ、駅まではかなりあるよな。他の人たちは一体どうやってここに来たのだろ」
何気なく振り返ると、数十メートル後ろに、俺と同じように中途で会場を後にした者が後からついて来ていた。
白い小袖に袴を着た少女のよう。顔にはお面を被っている。
その扮装で電車に乗るとは、随分と熱心なファンのようだ。
前に向き直り、歩き出す。
だが、十歩も行かぬうちに、背中にひとの気配を感じ取り、もう一度振り向いた。
すると、さっきの少女が真後ろにいた。間合いはほんの三メートルだ。
「え。どうやって一瞬であの距離を移動出来たんだ?」
目の前に、全身白づくめの格好をした少女が立っている。
顔には狐の面を被っているから、表情は見えない。
俺はここで気が付いた。
「お前。人間じゃあないのだな」
すると、少女は無言で、懐から書状のようなものを取り出した。
俺にそれを受け取り、中を開いて見た。
灯りが無いので、スマホのライトを点け、それで書状を照らす。
だが、まったく読めない。
これまで見たことのないような文字が並べ連ねてある。
少女がおそらくその書状の文面を諳んじた。
「◎▲◇※=□・・・」
ああ、この言葉は聞いたことがある。
時々、夢の中に出て来るヤツが「訳の分からぬ言葉」を話すのだが、それと同じものだ。
確か五六世紀には既に使われなくなっていた先住民の言葉だったな。古語だから今の者は分からない。
俺の様子を見て、少女は言葉を換えた。
「お前は私らと同じ仲間だったのに、後足で砂を掛けるように出て行った。だから今のお前があるのだ。今生では忘れてしまっているだろうがな」
ここではっと気づく。
「お前は稲荷の遣いか」
ま、狐の面を被っているのだから、見ての通りだ。
「元は同じケンゾクだったから、命までは取らぬ。だが、敬いの気持ちを忘れると必ず報いを受けることになる。私らの下々の者は暴れ者揃いだから、統制など利かぬからな」
なるほど。気付かなかったとはいえ、俺は稲荷の神域に入り込んでいた。
相手側からすれば、俺は不義不忠の者らしいから、罰が与えられたということだ。
「秩父で俺を一突きしたのは、貴方の手下でしたか」
「あれは私らの前衛隊の者だ。お前が線を踏み越えていたから、すかさず反応したのだ」
そりゃまた随分と苦しめられたものだ。もはや半年を優に超えている。
俺の渋面を見て取ったか、少女が口調を変えた。
「だが、命までは取らなかったろ。元は仲間だからな」
そうだったのか。それにしても随分ときつい懲らしめだったな。
「お前は出て行った者だ。まずは我らの領域に足を踏み入れてはならぬ。もしそうするのであれば、必ず礼を尽くせ。稲荷の社では、必ず膝をついて祈るのだ」
そう言い残すと、少女はくるっと背中を向け、暗闇の中に歩き去った。
その背中を眺めているうちに、ゆっくりと覚醒。
眼が覚めると、「ケンゾク」が何かを思い出すために、PCまで行きネットで調べた。
これは「眷属」で神使の獣のことだ。
当家の守り神は不動明王だが、権現さまの中には、狐を従えた不動権現がいる。
だが、もし眷属なら虎の方だろう。子どもの頃から、何気なく虎のイニシャルやマークを傍に置いている。ハンドルネームだって、総て虎からみだ。
神社猫のトラは初対面の時から、私を仲間として扱ったが、本性を見ていたわけだ。
いずれにせよ、稲荷が敵ではなく「元は仲間」だったとなれば、少し対応が変わる。
昨年のように、うっかり神域に入り込んだ時には、言われたとおりに、膝をついて謝辞を述べることにする。
狐の面の中にはオレンジ色の眼が光っていた。
これは、先日、長椅子の脇に浮かんでいた「女」の顔と同じ色だ。
そして、それはあの日高の稲荷で撮影した画像の中に残っていた僧侶の顔と同じ色をしている。
これまでの総てが繋がっていたわけだ。
いずれにせよ、これでひとまず安全圏に入った。
数日前には「このまま死ぬかも」と思っていたことが、まるで嘘のように消えて行く。
ひとつ確実なのは、この後、もし稲荷神社に立ち入ったら、地面に膝をついて祈願することになった、とうことだ。
(通院直前なので、推敲も校正もなし。)
追記)関連画像を追加した。総てが「今」に繋がっている。
五年前の伊豆に現れた「顔」(霊)はかなり古いもので、「たぶん、地縁ではなく私の持つ宿縁だろう」と思っていたが、どうやら当たっていたようだ。
「気のせいではない」と示すために、偶然には起きぬ事態を加えている。
ちなみに、以前より煙玉が増えている。