◎夢の話 第1K34夜 雪原のコンビニ
気管支ぜん息の症状が回復せず、寝たり起きたりの日々が続く。そんな中で、息苦しく半覚醒状態のままで観た夢だ(20日午前四時)。
我に返ると、雪原の上に立っていた。
「ここはどこだろ?」
見渡す限り真っ白な台地が続く。
足元には雪が降り積もっているが、深くはなく、凍り付いた土の上に数センチほど乗った状態だ。
極地に近いように見えるが、見当がつかない。
仕方なく、固そうなところを伝って歩き出した。
しばらく進んだが、相変わらず何もない。雪が無ければ、きっと岩石砂漠なのだろう。
数キロほど歩いたが、遠くに黒い点が見えて来た。
地面の上に何かが立っているらしい。
その方向ビ向かって歩く。
近くに寄ると、黒いのは箱型の建物だということが分かった。
さらに近づく。
数分で建物の前に到着した。
「これって、もしや」
コンビニじゃねえか。
あのお馴染みの箱型がそこに建っていた。
しかし、それも半ば朽ちかけた商店で、店の中には空の陳列棚が見えるだけだ。
入り口は自動ドアではなく、手動で押して開ける扉だったから、俺はそれを押して中に入った。
「コンビニではなく、コンビニ風の小売商店なのだな」
陳列棚の残骸はあるが、商品は空だ。
カウンターの裏に回り、事務室に入ると、室内灯の配電盤が壁に付いていた。
この辺は、実家が商店だったから、構造を把握している。
「雪原に電気はないだろうから、点くわけないよな」と思いつつ、駄目元で配電盤を開き、ブレーカーを押し上げる。
すると、予想に反し、店内の灯りが点灯した。
「おかしい。こんなことは有り得ない」
周囲数キロには何もなかった。一体、この商店に誰が客として来るというのか。
ここで頭が冴えて来る。
「この店には幾度か来たことがあるよな。現実にではなく、夢の中で」
廃屋に近い状態となった小売店を、幾度となく訪れたことがあるが、いずれも夢の中だった。
「してみると、これも夢の中だ。俺は今、夢を観ているのだ」
夢の中で暗く長い道をとぼとぼ歩き、灯りの消えた店の前を通り掛かったことが幾度もある。
その都度、「この店はどこかで見たことがある」と感じてはいたのだが。
「なるほど。これは俺自身の記憶で作られたものだ」
入り口の扉が押し開け式だから、かつての実家の店の入り口だった。
あの店を営業しなくなってから、もはや三十年は経つ。だから、店の構えは残っているが、商品は無く、店員もいない。
この世界は、俺の記憶の断片で作られた世界だ。
「こりゃ不味い。こういうのはただの夢では無いぞ」
ここはそもそもが岩石砂漠で、そこに記憶の断片を基に合成されたものが散らばっている。
となると、ここはあの世の一丁目だ。
俺はちょうどトンネルを出て、川に向かって歩き出したところだ。
早く川を見付けて渡ってしまうか、あるいはトンネルを逆戻りしいて、元の世界に戻らぬと、俺はこの世界に閉じ込められてしまう。
そうなったら、この何もない雪原を当ても無く彷徨い歩く幽霊になってしまう。
「この状態では、きっと三途の川も凍っている。なら、元の現実世界に戻るしかない」
どうすれば戻れるのか。
すぐに気が付く。
「俺はきっと眠っている。心臓が完全に止まる前に目覚めさせればよい」
そこで、俺は事務室の壁を拳で殴り始めた。
ドーン。ドーン。ドーン。
「早く起きろ。目を覚ませ」
ドーン。ドーン。ドーン。
ひたすら壁を拳で殴りつける。
殴りながら、頭のどこかで「この音はどこかで聞いたことがある」と考える。
何の音だったろ?
ドーン。ドーン。ドーン。
「ああ。最近は少なくなったが、夜中に玄関の扉が叩かれる時の音だ」
俺の家では、夜中の二時頃に玄関の扉が「コンコン」とノックされることがあった。
この時の「音」自体が似ているのではない。
その音の背景に「握り拳」が存在しているという、その力加減が似ているのだ。
「なるほど。あれは今の俺と似た状況の者が立てる音だったか」
自分が今いる世界から「出してくれ」というメッセージだったのだ。
「早く目覚めろ。まだ死ぬなよ」
ドーン。ドーン。ドーン。
壁を叩く音が次第に大きくなる。
そのうちに、壁ではなく俺の胸元で音が聞こえるようになった。
ドーン。ドーン。ドーン。
ここで覚醒。
このところ気管支喘息の症状で「胸がやたら苦しい」状態だったが、これは狭心症・心不全を発症する時とまったく同じ症状だ。
私が抱えていたのは、両方だったと見えて、目覚めた直後には心臓が「ダカダカ」と音髙く鳴っていた。
必死で壁を叩き、結果、心臓を動かすことが出来たらしい。
「紙一重」の日々が続く。
追記)家人によると、「生まれたてのひよこは簡単に死んでしまう」らしい。
さしたる理由がないのに倒れて息を止めている。
そんな時には、上から一斗缶を被せて、棒でガンガンと叩く。
すると、その音のショックで死に掛けのひよこが目覚めることがあるということだ。