日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第1K45夜 穴を掘らされる

◎夢の話 第1K45夜 穴を掘らされる

 肺に水が溜まってから、通院日の夜は息苦しくて眠れない。水抜きのために余計に除水をするので、体に負担が掛かり、起きて何か別のことが出来るわけでもなく、ただ悶々として時間を過ごす。

 この症状はなかなか改善されず、長期に渡り続くようだ。あるいは肺に針をぶっ刺して水を抜く方法もあるようだが、それはそれで負担が生じそう。

 これは夜中の二時頃に、苦しみ悶えながら観た夢だ。

 

 我に返ると、俺は兵隊だった。

 どうやら捕虜のようで、敵兵に見張られながら作業をしている。

 その見張りの兵隊が俺たちに叫んだ。

 「さあ早く道具をトラックに積め」

 周囲を見渡すと、俺と同じような捕虜らしき兵隊が二百人近くいた。

 俺は傍にいた仲間と一緒に、スコップの入った道具箱をトラックに積んだ。

 それが終わると、隊列が組まれたが、戦闘が装甲車一台で、そのすぐ後にトラックが三台、ジープみたいな人員を運ぶ車が四台だった。俺たち捕虜の方はどうやら歩かされるようで、ジープの後ろに二列に並ばされた。

 傍にいた捕虜が俺に言う。

 「また橋でも直させられるのだろうか。でも殆どがスコップだから土を掘る作業が中心だよな」

 俺の方は別のことに気が付いていた。

 「いや、今日は負傷兵も連れて行くようだ。コイツは不味い成り行きだな」

 負傷兵には作業が出来ない。だが、それを連れ移動する。持参する道具はスコップだ。

 悪い予感が頭を過ぎる。

 (なら、死体を埋める穴を死人自身に掘らせるつもりだってことだ。)

 いかんな。どこかで状況を変えんとな。

 ここで隊列が動き出す。

 

 俺は心中で祈った。

 (きっと俺たちは山中に連れて行かれる。あるいは荒れ野だ。逃げ出す隙が生まれるように、途中で味方がこの隊列を攻撃してはくれんものか。)

 予定された場所は割と遠くにあるようで、それから三十分ほど歩いたが、しかしまだ目的地には遠そうだ。

 途中で村の幾つかを取り過ぎた。

 街道に道分かれがあり、隊列は左の方向に進んだが、すぐに山道に入った。 

 すると、その道の先には山の斜面から転がり落ちたらしい大岩が転がっていた。道をすっかり塞いでいる。

 これでは先に進めない。

 前の方で敵兵の士官たちが話をしていたが、程なく一人の兵隊が俺を呼びに来た。

 前に行くと、士官三人が待っていた。

 「ここはお前の生まれたところに近いだろ。ここからどう進めばよいのだ?」

 「いや、私はここのことはよく知りません」

 知ってたって教えるものか。何せ、俺たちは殺されようとしているのだからな。

 「本当に知らんのか?」

 「ええ。知りません」

 

 この時、別の方角から声が響いた。

 声をのした方を向くと、大岩の脇に子どもが立っていた。七歳くらいの男の子だ。

 「クヌギ平に行きたいんでしょ。それなら来た道を戻って、道分かれを左に進み、改めて左に回ればいいんだよ」

 敵の将校の一人が子どもに問う。

 「お前はここの子か?」

 「そうだよ。ここのことならなんでも知っている」

 それを聞きながら、俺は少し顔をしかめた。

 (余計なことをしやがる。俺たちは殺されに行くんだぞ。)

 すると、その俺の内心の声が聞こえたように、子どもが俺を見て、小さく頷いた。

 黙って自分に従えと示しているのだ。

 

 敵の将校が子どもに言う。

 「どうも有難うな。少し遠回りだが、前がこれじゃあ、そっちに回るしかあるまい」

 すぐに命令が下り、隊列が方向を逆向きに変えた。

 再び出発。

 男児に言われたとおりに進むと、湿地の中の道に入った。

 重量のある装甲車やトラックが道を踏み外せば、ずぶずぶと沈んでしまう。

 このため、前が見えるように少しずつ感覚を開け、車が一台ずつ道の中央を通るようにした。

 俺たち捕虜は後ろの方だ。

 

 そのまま暫く進むと、唐突に爆発音が響いた。

 「どっかああん」

 これで最前列の装甲車が吹き飛んだ。

 すかさず敵兵が声を張り上げる。

 「敵襲、敵襲。待ち伏せだあ」

 前の方には数台のトラックやジープがいたが、ロケットランチャーで砲撃され、次々に爆発した。

 俺たちは襲撃に巻き込まれぬように、頭を下げ、地面に這いつくばった。

 最後尾にいた敵兵の車も、左右から集中的に銃弾が浴びせかけられ、すぐに制圧された。

 

 銃撃が止んだ後、味方らしき兵団が姿を現わした。

 俺はその中のリーダーに声を掛けた。

 「助かりました。我々は殺されに行くところだったのです」

 これにリーダーが頷き返す。

 「運が良かったな。たまたまこの道に罠を張っていた」

 「え。計画していたわけではないのですか」

 「ああ。たまたまだ。我が軍の捕虜たちがここを通るなんて、知りようも無いからな」

 「では、あの男の子は?」

 「男の子?何だね、それは」

 「いえ。道の先が塞がっていたところで、男の子が『あっちに進むように』と指示してくれたのです。それで隊列が方向を変えた」

 すると、レジスタンスのリーダーは小さく首を傾げた。

 「ふうん。この辺は荒れ地だし、半分以上が湿地だ。ここに人は住んでいない筈だけどね」

 ここで覚醒。

 

 死に瀕した時に、どこからともなく男児が現れ、活路を切り開いてくれた。そんな話だ。

 男児ははたして何の象徴なのか。

 夢はともかく、現実の私の方に死地を切り拓く活路はあるのか。