◎夢の話 第1K78夜 「母からの伝言」
十七日の午前零時に観た短い夢です。
「母の具合が悪い」という連絡を受け、急ぎ郷里に向かった。
家に入ると、既に親族が集まっている。この先の方針を決めようとしていたのだ。
「あ。俺がお袋についていますから大丈夫ですよ」
当家では子どもたちに手が掛からなくなっているから、父親の私がお祖母ちゃんの世話のために不在でも平気だ。母だけに介護だって問題ない。
母はひとまず小康状態で、暫くは家にいることになっていた。
「でも、お祖母ちゃんのほうが、自分の世話をしてくれるのが息子では嫌かもしれないよ」
ま、母も女性だから、息子でも男の手は嫌かもしれん。
結局、介護士を一人雇うことにし、私がその他の身の回りの世話をすることになった。
通院など、主に「足」の担当だ。
「それじゃあ、このまま一度東京に戻って、準備をしてきます」
これは私自身が郷里に長期滞在するための準備だった。
帰宅して一日で準備を済ませ、再び母のもとに戻ることになる。
来たばかりだったが、もう一度、車に乗らねばならない。
玄関を出て、自動販売機で缶コーヒーを買い、車に向かった。
車内でコーヒーを飲んでいると、家から女性が小走りで出て来た。
「※※ちゃん。お祖母ちゃんが呼んでるよ」
え。何かあったんだろか。
「具合でも悪くなったの?」
すると、女性が小さく首を振る。
「とにかく、そろそろお祖母ちゃんのところに来てください」
そこで、「すぐに行きます」と返事をして車を降りた。
玄関に向かって歩き出したところで気が付く。
「ありゃ。これは昔の家だ。今は倉庫に使っているから誰も住んでない」
そもそも、お袋は三年以上前に死んだよな。
おまけに、さっき私を呼びに来た女性は、私の従姉だった。
従姉は母よりも先に亡くなっている。
思わずその場に立ちすくむ。
「ついにこれが始まったか」
いずれ来るだろうとは思っていたが、これから母が私を呼びに来る。
ここで覚醒。
恐怖ではなく、「畏れ」に近い感覚で、手が震えた。
いつか母が自分のことを呼びに来るだろうと思っていたからだ。
最初は言伝から始まり、次は声が聞こえる。そして最後には、昼日中に私の前に立つ筈だ。
かつて母が亡くなる前、私は「母が死んだら、あの世で迷わぬように、俺が手を引いて導こう」という願を立てたのだった。