◎ギャラリー席
時々、「俺は死ぬのなんか怖くねえよ」と言う人に会うが、それは「ギャラリー席にいるから」だと思う。
観客席で観ているから、バッターボックスに立った時の感覚が分からない。
先日のWBCで、チェコの選手が佐々木投手の164キロを膝に当てられたが、迫りくる球の恐怖や痛みは半端なかっただろう。
そういうのは観客席では分からない。
居酒屋で「あの時になんでキヨハラは打てねえんだよ」とネタにするオヤジと同じ。
眼の前に自分の死を見ている人はやっぱり違う。
病棟で聞く患者の声はふた通りだけだ。
「まだ死にたくない」
「もう楽にして」
どちらかと言えば前者の方が多い。死ぬのが避けられぬと悟ると、その途端に怖くなる。
でも、自分の番が来れば、誰でも当事者になるから、その時に分ることだ。
ギャラリー席にいられる時間を楽しんだ方が良いと思う。
たったひとつ問題があるとすれば、「お前の目の前に死にそうな病人がいるが、その病人よりもお前の方が先に死ぬ」ことだけ。
本人はそれを知らずに、ある日突然、バッターボックスに立たされる。準備期間が短すぎて、心魂の改善のための手助けをする余地がない。