日刊早坂ノボル新聞

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◎病棟日誌5/25「ここでもダービーの話」

病棟日誌5/25「ここでもダービーの話」

 木曜は通院日。

 福島に里帰りしていたユキコさんが帰って来た。

 「五日もいちゃいました」

 高齢のお父さんが一人暮らしをしているので、時々、様子を見に行くが、用事が溜まっており、それをこなすのに五日かかったのだそう。

 「親孝行が出来て良かったじゃないですか」

 お父さんは福島の山の中に住んでおり、最寄りの郡山に出るのにも三時間半かかるそうだ。最寄りの街まで三時間半!

 ユキコさんは「山の子」だったから、当方とは話が合うわけざんす。

 ま、当方と違い、ユキコさんの実家はでかい蔵のある旧家らしい。

 

 この齢になり、初めて「生い立ち(境遇)や育った環境が近しい」と何かにつけて「楽だ」ってことを実感する。

 同級生で結婚したりすると、説明が少なくて済むわけだ。

 ま、浮気がばれやすいという難点もある。お互いの知り合いの大半を知っているというのも、どっちかと言えば難点だな。

 一緒に暮らしていても、立ち入って来て欲しくない部分はあるわけで。

 だが、こういう「小学校の同級生」感覚は悪くない。

 ほのぼのとする。

 「田舎の子」らしく、ユキコさんは袋一杯のお土産をくれた。漬物とか総菜類と薄皮饅頭。

 薄皮饅頭は網の上で少し焦げ目が出るくらい焼くと美味しいが、さらに表面に少し塩味を付けると一層美味しい気がする。

 中の餡子が甘いからだが、刷毛で醤油を少量塗ってから焼けばいいかもしれん。

 お土産をやったり貰ったりする量が多いのは、「山の子」同士だからで、田舎者の付き合いはそんなもんだ。

 返しを考えるのに苦心する。

 時々、オヤジ看護師に「特別な関係じゃね?」と冷やかされるが、あくまで田舎者なりの付き合い方ということ。

 貰うと、それに上乗せの勢いで返すから、どんどんやり取りが増える。

 

 ベッドに寝ていると、競馬好きのオヤジ看護師(四十歳くらいだが見た目がオヤジ)がやって来た。

 「オークスどうでした?」「どうでした?」と重ねて訊く。

 「たまたまだが三連単まで当てられた。二週続けてたまたまが続いたな」

 「えええ。私は馬連は当てたけど、三連の方は。さすがに十五番人気までは手が回らなかったです」

 その十五番人気の方から買えば、一二着の組み合わせは簡単だった。

 

 「ダービーはどうですか?」とオヤジ。

 用事で一旦その場を去ったが、オヤジは程なくまた戻って来た。

 「ダービーは?」と重ねて訊く。

 よっぽど当てたいのね。

 「今週のメインはダービーじゃなくて目黒記念だよ。多くの人がサリエラを推すけど、俺はあんなの来るわけがないと思う。ハンデ戦だけに軽ハンデの牝馬を頭から外すのは危険だが、ヒモ候補でよい」

 キャリア四戦でリステッドを勝ったばかりの牝馬が重賞の一番人気だとさ。

 オヤジの目が真剣だ。

 「ダービーの方は、調教ではサトノグランツが目立っていた、あと絶対に加えるべきなのがシャザーンだろうな」

 皐月賞組なら、重馬場のダメ―ジが少なそうな馬で、要は激走せずレースを止めた馬の方が狙い目だ。

 重のレースを経験すると、眼に見えぬ疲労が溜まるらしく、暫くは反動が出る。昨年の凱旋門賞の後には、その後日本馬の多くが不振に陥った。

 重馬場の日経賞を勝ったタイトルホルダーは、次の天皇賞では競争を中止した。皐月賞の一二着は三着以下を離していたが、どんなもんだろ。

 

 調教後の厩舎のコメントを見ると、思い入れがもの凄く強い。

 やはりダービーは特別なレースで、馬を出す側もそれを見る側も前のめりになる。

 ま、やっぱり勝負するなら目黒記念の方だ。

 大半がダービーの方に眼が向いていて、こっちはお留守。

 ダービーでスッた者がこのレースになだれ込んで来て、とにかく当てたいものだから新聞予想での中心のサリエラを買う。

 で、さらに負ける。

 こっちは裏から逆張りをして、大漁唄いこみだ。

 だが、今の段階でその目論見の方が「既に負けている」かもしれん。

 勝負事には表裏があり、絶対はない。どっちかに転ぶだけ。