日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎病棟日誌 R060613 「もの言わぬ病」

病棟日誌 R060613 「もの言わぬ病」
 木曜は通院日。
 病棟に入り、Nさんの前を通りかかると、Nさんに「報告したいことがある」と呼び止められた。
 Nさんは火曜日に、循環器の病院に行って来たらしい。
 「専門医が診察するからこのまま待機して欲しい」と言われ、数時間待たされた。午後出勤の医師だったわけだが、その医師が言うには「親指の保護のためにギプスを嵌めた方が良い」とのこと。
 右足の人差し指を失ったので、それを補うために親指に過度の負担がかかる。それで親指がおかしくなってしまうそうだ。

 これはよく分かる。足のそれぞれの指のことなど、普段、殆ど意識しない。だが、実際には小指を少し怪我しただけで殆んど歩けなくなる。親指が欠けたら、最低でも松葉杖が無くては歩けない。

 「それが、その医師にギプスを作る専門病院を紹介されたが、そこに行くのに片道一時間半かかるんだよ」
 そりゃそういうこともありそうだ。ニーズ自体が少ない筈で、その技術を持つ病院は多くない。
 「少なくとも2回はそこに行く必要があるが、2回で済むのか分からない」
 入れ歯を作る時のことを考えれば、調整は簡単ではなさそう。
 「入れ歯なら6回7回かかります。ある程度そう思っていたほうがよいかもしれませんね」
 Nさんは「愚痴」が半分、「仲間のよしみ」半分でそれを私に伝えた。
 私は同時期に同じ症状になったが、Nさんは足指の切除、私はたまたま回復した。それでも紛れもなく同じ運命を背負う者だ。

 「動脈硬化は恐ろしいよ。循環器の病院では、足首から先を切られた人や、膝から下を失った人ばかりだった」
 血管が塞がると、血流が届かなくなり、その先が腐ってしまう。いざ腐ってしまったら、切除するしか方法がない。
 「そうなるまで自覚症状がないのが怖いが、さらに怖ろしいことに、四十台とかまだ若い人でも足が無くなっていた」
 動脈硬化による壊疽は、腎不全とか糖尿病患者、高齢者が思い浮かぶが、それ以外にもいるらしい。
 ま、そりゃそうだ。脳梗塞心筋梗塞も発生原理は同じだが、糖尿病などの患者だけがそうなるわけではない。既往症が無くとも、何らかの理由で血管が詰まる人もいる。もちろん、年寄りだけではない。
 心臓や脳、あるいは大腿などの場合は、前駆症状があるわけだが、足先は「多少、感覚が鈍い」だけ。その次は「足指が痛い」だが、この時はもはや境界線だ。
 五ミリ先には壊疽がある。

 Nさんはさぞ気落ちしていると思う。こういう時には「コップの水理論」で、明るく肯定的に受け止めるべきだ。
 「コップの水理論」とは、「コップの中に水が入っていた時に、水が入っていることに着目するか、無いことに着目するかで、同じことが違って見える」というものだ。

 「指一本で済んで良かったじゃないですか。杖を着いても、まだ歩けますから。大変ですけどね」
 すると、Nさんは「それもそうだな。四十歳で、既往症が無く自覚症状もなかったのに、突然、膝から先が無くなるよりはましだ」と答えた。
 間違えては行けないのは、こういうのは、私がNさんと同じ症状であることをNさんも知っているから言えることだ。 
 もしこの苦痛を知らぬ者が同じとを言ったら、嘲っているのと同じことになる。
 「お前に何が分かる」と、私ならそいつを蹴る。
 同じ目線に立っているから言えること。

 ちなみに、都知事戦に出るある候補は典型的に「常に無い方を見る」見方をする。「あれが無い」「これが無い」「これが足りない」。たぶん都知事になっても、「ない」と言い続けると思う。常に無いものを見るから、何時まで経っても「ない」ままだ。知事になって「職員のやる気が無い」「動かない」「国が」みたいな話を延々聞かされたら、都民は堪ったもんじゃねえぞ。
 「代案が無い」「展望が無い」と言われるのは、どうすれば「ある」ようになるかを考えぬところから来る。
 ま、「良くて2位」でいいんじゃね。
 コイツは岸田みたいに「今日より明日はよくなる」みたいな運動論を始めてるが、「同じ穴」の何とやらだわ。
 一体「何が」良くなるのか?
 「何を」を言わねば文章が成り立たねーぞ。
 ちなみに、小池も同じことを言っていた(w)。
 政治家がテーマを持たず、運動論だけ口にするんじゃ、国も都も早晩滅ぶ。岸田のままじゃ、自民党はともかく国ごと真っ逆さま。
 「増税するけど、受けが悪いから減税します」。これじゃ、両方の効果がない。

 脱線した。
 ベッドに戻ると、この日のチーフはユキコさんだった。
 そこで先頃、医師に処方された「カルナデリン」について報告した。
 「カルナデリンはよく効きます。足の血行が良くなった」
 足首から先が何となく黒ずんでいたのが、肌色に戻った。
 カルナデリンは血管を拡張し、血行を良くする薬だ。結果的に血圧が下がる。
 「でも、やはり副反応があり、大腸の調子がいつもイマイチですね。便秘と下痢の繰り返し。時々、胸に痛みがあります」
 よく効く薬ほど、副反応も強い。
 薬は、あるプラスの効果を招くが、別のマイナスも導く。
 突然、胸に差し込むような痛みを覚えるのだが、心臓由来の症状ではない。心臓病はベテランだから、心臓が不調の時にどんな症状が出るかは体感的に知っている。
 大体、「胸が痛い」ではなく「重い」ってのが心臓病だ。もちろん、不整脈は心臓だけど。 

 この日の医師は、とにかく「亜鉛」を飲ませようとする。
 亜鉛を多く摂り過ぎると、体も心もエッチになるから、「まだあります」と処方を保留した。夢の内容がおかしくなる。

 治療後に食堂に行くと、アラ四十女子がいた。
 「元気にしてたか?」と訊くと、「元気じゃないです」との答え。シャントの具合が悪く、ひと月以内に首のシャントを肩に移す手術を受けるそうだ。
 シャントとは血流を上げるために、動脈を静脈に繋げた箇所のことを言う。
 最初は左腕から始まり、これがダメになれば右腕、次が首で、それもダメになったから肩に移す。
 まだアラ四十なのに、そこまで進んだとは、発病は十五年は前の話だ。となると、やはり二十台。
 先日、健康サプリで腎不全になる事件の報道がされていたが、体に合わぬ薬(ステロイドなど)やサプリを摂取すると、一発で腎不全になる。医師たちは、どうやっても「薬物の副反応」を避けたいらしく、生活習慣病の影響と言う。
 ま、医師だって自己防衛本能があるから、訴えられる種を蒔くことはしない。だが、既往症(糖尿病など)のある無しは有意差があり相関関係があるわけだが、直接の因果関係とは言えない。