日刊早坂ノボル新聞

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◎病棟日誌 R060624 「この心地よさはどこから」

病棟日誌 R060624 「この心地よさはどこから」

 画像はこの日の病院めしの「ソースかつ丼」。

 他の病院では、とんかつが出ることはあってもソースかつ丼は出さぬと思う。

 ソースかつ丼は、主に関東西部から北陸までの郷土料理で、東限がこの街だ。街の飯屋でソースかつ丼を置いているのは1軒くらいしかない(調べた)。

 当方は研究や仕事で秩父に長らく関わって来たこともあり、長らく「わらじかつ丼」を見ていたが、二十年くらいは食べなかった。

 主に外見が原因で、ご飯にかつが乗っただけのシンプルな印象だし、とんかつソースやウスターソースがかかっているだけかと思っていたからだ。

 だが、全然違う。「ソース」と銘打っているが、和風出汁で醤油の下味が付いている。ザラメ糖で甘味を付け、ソースは香りだけ。シンプルな味付けにより、豚肉本来の風味が感じられる。

 下に湯通しキャベツを敷くことで、脂がご飯に染みることもなくサッパリしている。

 食わず嫌いが長かったが、最初のきっかけは、やはり「ご馳走になった」ことだった。この場合は選択肢は相手のお任せだ。

 実際に食べてみると、事前の印象よりだいぶ違う。

 それからウン十年が経ち、今やソースかつ丼は、ソウルフードのひとつになった。

 群馬山梨や長野、新潟辺りまでの範囲で、よく知らん地元の人に会ったら、まずはこの話から入れば大体は接点が出来る。

 

 郷里(岩手)に、寂れたとんかつ屋があり、店主は意欲・気力を失ったジーサンだった。店も昭和三十年台の雰囲気を残す古びた構えで、殆ど客は来ない。だが、かつ自体は年季が入っており美味かった。面倒になったのか、付け合わせの総菜が不味くそのせいで客が来ない。

 それを見て、「ここはたぶん、ソースかつ丼を教えれば起爆剤になる」と思った。ソースかつ丼は、単品でポロンと出て、おしんこや、味噌汁が付かぬことが多い。これが必要ないなら、かつだけで勝負出来る。

 そこでレシピを整理してファイルにまとめ、数度店に行った。 

 だが、その時に限って店が閉まっている。やはり店主の年齢がネックで、時々、病院に通うわけだ。

 最近は東北地方でも、チラホラと「ソースかつ丼」を扱う店が出て来たが、「そりゃモノが全然違う」と言っとく。東京の焼き肉屋で「盛岡冷麺」を頼んだ時と同じことが起きる。

 ま、その地に行かねば食べられぬ味だからこそ良いところもあるわけで。

 

 この日の穿刺担当は、新潟出身のエリカちゃんだった。

 「俺は花火大会を見に行って、そのまま天に上って行きたいわ」

 愚痴兼ブラックジョークなのだが、エリカちゃんは「花火大会」でスイッチが入り、長岡に始まって、「どこぞの花火にはこんな特徴があって」と延々と詳述してくれた。

 「特に良いのは※※町ので」(名前は忘れた)

 新潟の花火は、一発一発を個人が発注して上げて貰うそうだ。

 「打ち上げ花火は一発何十万かかったりするけど?」

 元は、その年に亡くなった親族を悼み、その故人のために上げて貰ったそうだが、今は記念日の祝いでも花火を上げる。なるほど、ご供養ならそれくらいはやる。

 花火が上がる度に、誰のどういう目的のかを紹介するアナウンスが入るらしい。

 「なるほど。それじゃあ、俺の田舎の舟っこ流しと同じだわ」

 小舟に行燈を載せ、故人の名を書いて、川に流す。今は人が減って郷里ではやらなくなったが、盛岡の街中ではまだやっているかもしれん。

 

 「※※町の花火の時には、この位置から見るといいいです」。あれやこれや。

 細に入った説明なので、覚えきれねーぞ。

 だが、心地が良い。

 たぶん、この子は酒を飲んで酔っ払えば「長々、ごんぼを掘るだろう」と思った。

 田舎の人だ。そこが最大の長所だわ。

 

 この日の終わりはユキコさん担当だった。

 ユキコさんは、飯能の奥に住んでいるが、当方も飯能には諸事情で通っているから、地域事情は分かる。

 ユキコさんは飯能の市街地にある和食屋さんについて、情報を提供してくれた。

 それも細に入り、「駐車場への車の入れ方」や「食べるべきメニュウ」までの話だ。

 土地勘はあるから、すぐに伝わったが、やたら細かい話だった。

 これがすごく心地よい。

 ユキコさんも福島の山奥で育った。

 

 後で「エリカちゃんにせよユキコさんにせよ、あの心地よさはどこから来るのか」と考えたが、共通点は「山の子」だったということだ。

 当方も山奥で育ったから、「空気感」が似ている。

 ユキコさんが、「米蔵の前で木材の上に座り、田圃の上を飛ぶ赤とんぼを見ていた」景色などは、手に取るように分かる。

 「何歳の時に、ここでこういうことをやり、これを見たでしょ」と確かめると、大体当たっている。

 

 いつも思うが、同級生同士で結婚し、かつ同じような生活体験を経験していれば、相手のことが「ツーカーで分かる」と思う。

 ああ、そういう相手と結婚せずに良かった。

 こっちのことが「全部まるっとバレてしまう」から、当方の場合、まずは数年で離婚だわ(w)。不始末が多いが、自分では止められない。すぐに「新しい事業」を思い付いて始めてしまう。

 

 ところで、今では「心地よい」とは思っても、「萌えええ」と言う感覚はない。大人になったのか、あるいはトシを取ったのか。

 死ぬまで現役でいるべきだと思うので、少し物足りない。