◎霊界通信 後楽園ホールの階段の怪談
80年代りから90年代にかけて、時々、プロレスの興行を観に行った。主に全日と全女で、全日なら後楽園ホール、全女なら関東の特設リングの開催時が多かった。
全日の「世界最強タッグ」の開幕戦は、いつも後楽園ホールからと決まっていたから、これは毎年観た。
全試合が終わると、観客は皆、階段を降りて外に出る。
人数が多いから、エレベーターには乗れぬので、ぞろぞろと並んで階段を下りた。
二人ずつ並んで行列を作り、階下に降りて行く。
そんな中、三階だったか二階だったかは忘れたが、階段の踊り場に時々、女の子が立っていた。
観客は全員、階下を目指して歩いているのだが、その子だけ踊り場の隅に立ち止まり俯いている。
ごく普通の二十歳くらいの女子だ。
その当時は「ああ。連れとはぐれて、その人が降りて来るのを待っているのだ」と思っていた。
だが、最近になり、SNSで後楽園ホールについて書かれた記事を読んだ。
それによると、後楽園ホールの3階だかの非常口には、時々アレが出たそうだ。アレとは勿論、幽霊のことだ。
数十年も経ってから、そこで初めて、「なるほど」と思った。
このビルには幾度も通ったが、踊り場に立っている女子を見たのは一度だけではないからだ。
人があまりにも多かったので、多少、その場にそぐわぬ人がいても何とも思わないから、別段、違和感を覚えなかった。
今考えると、壁にへばりつくように立っているのは、不自然だと思う。
あれは当方の他にも、見た人が沢山いると思う。
白っぽいシャツに緑か紫色のスカートを穿いていたと思う。
たぶん、プロレスのファンで、試合を観に来たまま、そのまま帰らずにいたのだろう。
「階段の怪談」だから、まるで落語のようで、実際に体験してはいるが、恐怖心は殆ど覚えなかった。この場合は、それと気が付かなかった、というだけだが。