◎夢の話 第1151夜 「寝袋」
11月3日の午前4時に観た夢です。
我に返ると、広い駐車場の隅に立っていた。目の前にはワゴン車。
「そう言えば、トイレに行ったんだよな」
高速を走行中にトイレだけあるパーキングエリアに寄り、用を足したのだった。
「さて、俺は何をしよとしてるんだっけ?」
そもそも、自分が誰かも分からない。
「意識のエアポケット」てヤツだが、これは高齢者ならともかく、俺みたいな年格好の男じゃあ、聞いたことが無いぞ。
車に映る自分の姿は、どう見ても30歳台だった。
ポケットをまさぐると鍵がある。
その開閉ボタンを押すと、パチンと音がしてロックが解除された。
「やはり俺の車だわ」
車に乗り込もうとすると、後部に眼がいた。
マネキン人形の胴体や腕が無造作に置いてある。
「そういう商売のひとなのか」
運転席に座ると、パッと閃きがあり、もう一度後ろの荷物を見た。
マネキンに隠れているが、寝袋がひとつ置かれている。
中身の入った寝袋だ。
「ちょうど小柄な人間が入っている時の膨らみ方だわ」
頭の方は割合近くにあったから、手を伸ばして、寝袋のファスナーを開けようとした。
だが、そこで袋の中身が何かが分かった。
ファスナーの止め口から髪の毛が数本出ていたからだ。
「おいおい。人間じゃないか。小柄な女で、たぶん死体だわ」
念の為ファスナーを少し引き開けて見ると、やはり女の死体が入っていた。
顔立ちの整った若い女で、身長が150㌢くらい。
「何でこんなのが俺の車に」
まさか俺が殺したのか?
全然、記憶がない。その上、俺は自分がどこの誰かも覚えていなかった。
「まずは警察に届けないとな」
スマホを取り出し、11まで押したが、そこで手が止まった。
「この状況なら、俺が犯人として疑われるのは間違いない。というか、誰がどうみても俺が犯人だわ。おまけに俺はアリバイを証明するどころか、自分のことが分からない」
そもそも、俺が殺していた可能性があるじゃないか。
死体を車に積んで運んでいたなら、大体は運んでいた奴が犯人だわ。
「殺した覚えがないのに、犯人にされ死刑になるのは嫌だな。たとえ、実際に殺していても、だ」
真実を探らなくちゃ。
「俺が我に返ったのは、トイレから帰った時だ。その時に記憶を失っていたわけだから、まずはあのトイレから調べよう。何か残っているかもしれん」
車を出て、40㍍先のトイレに向かう。
前後50キロに大きな街も観光地もないから、ここには滅多に車が寄らない。駐車場には百台以上の車が入れるが、他に車はいなかった。
トイレの内部を点検したが、別段、変わった様子はない。
内も落ちてはいなかった。
「うーん。俺はどこでどうやって記憶を失ったのだろう」
益々謎だ。
もう一度車に戻ろうとすると、すぐ傍にパトカーが止まっていた。
「こりゃダメだ。疑いなく俺が犯人だ。犯人にされる」
今さら慌てても仕方がないから、ゆっくりと車に戻った。
警察官の一人が車から出て、俺に近づいた。
「違反車の通告があり、取り締まりをしておりまして」
「こりゃどうも」
警官はライトを車の中に向ける。
「お仕事ですか。こんな真夜中に」
俺はこの場の状況に合わせて、話をすることにした。
「ええ。朝までに納品する件がありまして」
「商品は・・・。マネキン屋さんですか」
「はい、そうです」
警官はライトを照らし、中の様子を見る。
「シュラフがありますね。中身は?」
「出来立ての品物が入っているんです」
俺は車の後部に回り、ハッチを開けた。
寝袋のファスナーの口から、女の髪の毛が割と沢山出ている。
俺がさっき無造作に閉めたせいだ。
仕方ない。
「出来が良くて、まるで死人みたいですよ。今開きますから」
ファスナーに手を掛ける。
すると警官がそれを制止した。
「いや、開けてくれなくとも結構ですよ。分かりますからね」
俺はファスナーを戻し、後部ハッチをばたんと閉じた。
ここで警官が愚痴めいたことを言う。
「仕事柄、ここにも来なくてはならないのですが、やはり嫌ですね。このパーキングは薄気味悪いですから」
「え。何ですか」
「ご存じないのですか。それでは結構です。お気をつけて運転してください」
警官はほんの少し会釈をすると、車に乗り込み、駐車場から去って行った。
「さて、ひとまずこの場は凌いだ。これからどうしよう」
難題ばかりだな。自分がどこの誰かなのかから突き留めなくてはならん。
胸ポケットに手をやると、そこに煙草が入っていた。
こういう時には助かる。
俺は数十年ぶりに煙草を吸うことにした。
一服しながら、何気なくトイレの方に視線を向けた。
すると、女性用の方の入り口の脇に、白い服を着た女が一人立っていた。
灌木の陰にただじっと立っている。スカートの裾には少し赤いものが付いている。
「はあ、なるほど。あの警官が言っていたのは、このことだ。ここにはアレが出るのか」
そう言えば、高速のパーキングエリアに「幽霊が出る」という話を聞いたことがあったな。東北道だったか、関越道だったか、その両方だったかだ。
ここで俺は女に向けて少し大きめの声で言った。
「俺は今、お前に構っていられる暇はないんだよ。自分のことで忙しからな」
差し当たって、この死体を何とかしなくては。
車に乗り込み、発進させた。
もっと人気のない山の中に行ってみよう。
パーキングエリアを出る時、俺はちらと「ここに出る幽霊の数を一人増やしたかもしれん」と思った。
ここで覚醒。
夢のトイレの鏡で自分を見たが、まったく知らぬ男だった。女の方も同様。
何故こんな夢を観るのか分からぬが、起き掛けに「うううう」「ああああ」と女の泣き声が聞こえており、それで起こされた。夢と関係があるのかどうかは不明。
割と良い筋だった。組み立てを直すと小説になりそうだ。