◎病棟日誌 R061123 影の薄い人
隣のジーサンは七十台後半だ。
小柄で丁寧。腰が低い。
だが、何となく「影が薄い」ように感じる。
病院の送迎バスで通院しているのだが、時々、送迎の患者が到着しているのに、このジーサンだけ来ないことがある。
この日もそのパターンで、かなり遅れて来た。
「またバスに素通りされたんですよ」
指定場所に立っているのに、送迎バスが目の前を通過してしまう。
運転手の目には入らぬわけだ。
こういう人は時々いる。存在感が薄いのか、周囲がその人がそこにいることに気付かない。
きっといい人なんだろうな。
当方は真逆で、押し出しが強いのか、大体は前に出ている。
子どもの頃に、散々、黒豆の俵を担いだので、腹に力を入れる習慣がついているせいだと思う。
当方が黙っていても、他の者は何かクレームを言い出すと感じるらしい。
何もしていないのに、あれこれ非難されることが多い。
ま、内心で「お前のことなんか屁とも思ってねえよ」と思っているから、さりげなく態度の端に出ているのかもしれん。
当方の評価基準は、「豆俵を百俵担げる」か「牛のケツに手御突っ込める」から先の話だわ。
こりゃ、「何となく腹が立つ」のも致し方ない。
隣のジーサンはいい人で影が薄いのだが、人生が品行方正だったらしく、治療時間が3時間。当方よりも遅く来て先に帰る。
癌で死なず、循環器で死ななかった者は、大体が腎不全に至る。最後は心肺症状で死ぬ。誰もが通る3つ目のコースだ。