◎病棟日誌 R061205 幽霊の孫の手
エレベーターに乗ると、モニターに「今日の四文字熟語」の出題が映し出された。
問題は「え▢▢動」。
ええええ。ついに新手が出たか。
こんな熟語は聞いたことが無いぞ。
だが、頭が「え」なんてことがあるのか。
「えら運動」
「えみ騒動」
ちなみに、二番目は大学時代の記憶から出たので、「えみ」という女子がやたら騒動を起こすので、苦労させられたことによる。
思いつかない。たぶん、当方の目が悪いせいで別の字だわ。
例えば「之」とか。
だが、「之」だって、これが頭の熟語など考えつかん。
途中なら「の」という使い方があり、例えば「犬馬之年」。
当方など、まさに「犬馬之年」を重ねて来たから馴染みがある。
さすがに降参だわ。
モニターの真下に寄り、回答を待つ。
解説は「騒ぎは大きいが結果は意外に小さいこと」で、これで真相が分かった。
最初の問題は「大▢▢動」で、「大山鳴動」だった。
当方の視力が落ちており、「大」が「え」に見えたのだった。
PC画面に移し替えれば16ポイントか18ポイントくらいのサイズだろうに、これがよく見えぬとは。ヤバイ。
ちなみに、遠くの方は割合見えるので、道路標識を見間違うことは無い。
ベッドに行くと、枕元に孫の手が置いてあった。
「またかよ」
看護師たちが、この孫の手は当方のものだと思い込んでいるらしく、わざわざ別の場所から当方のところに寄せて来る。
前のベッドに居る時に、後ろの棚のところにずっと置いてあったから、そう思い込んだわけだ。
「これは俺のじゃねえぞ」と元の位置に戻すのだが、別の看護師がまた当方のところに持って来る。
このやり取りが既に三度だ。
看護師のO君が近くにいたので、「コイツは幽霊みたいに後をついて来るなあ」と伝えた。「これは俺のじゃねえよ。曜日の違う別の患者のものじゃねーの」。
だが、たぶん、その患者のものでもない。
ベッド脇に半年一年と、孫の手が置きっ放しになっているということは、「持ち主がいなくなった」という意味だ。
それを返す相手はもはやいない。
そんなのを間違っても使うわけがないだろ。
O君が「幽霊みたいにってどういうことですか?」と訊くので、「幽霊は大体、人間の2㍍後ろをついて来るんだよ。これという時を見計らい、背中に乗って来る」とそのまま答えた。
以前、O君の背中に老婆がかじりついているのをまともに見たことがあり、お祓いの仕方などを教えたことがある。
前ほど、上司にいびられなくなっているから、ソコソコ実践したのだろうと思う。