日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎第一関門を突破

第一関門を突破
 上の叔父は57歳で亡くなった。
 この叔父は馬喰で、牛だけでなく肉の何たるか全般に精通していた。
 仕事から帰ると、時々、当家に寄り、酒を飲んでから家まで運転して帰った。
 当家は姫神山の西の入り口にあったが、叔父の家はその姫神山の麓にある。人も車もまったく通らないから、叔父は当家でかなり飲んで家に帰った。
 当家は萬屋でメインは魚屋だったから、酒のつまみは幾らでもあった。
 魚のあらとかマグロの刺身の切れっ端なんかは、毎日食べさせられるので、当方らは閉口していたが、今考えると世間的には贅沢なおかずだった。
 父はまだ仕事中なので、叔父は勝手に家に上がり込むと、台所を使って勝手に自分のつまみを作った。

 「餅は餅屋」と言うが、叔父もさすが馬喰で、叔父の作るもつの煮込みは絶品だった。
 すき焼き用の鉄鍋で、ぐつぐつ煮てあるのだが、小学校から帰ると、それがストーブの上で煮え立っており、叔父は既にかなり酔っていた。
 叔父はその鍋を顎で示し、ぶっきらぼうに「食え。うめーぞ」と言った。
 もつの煮込みなど酒のつまみには良いが、おかずにはならない。だが、叔父の煮込みは抜群に美味かったので、当方は貪るように食べた。

 パターンが幾つかあり、ひとつ目が鶏のレバや砂肝を煮込んだもの。二つ目がハチの巣など牛もつを使った煮込みだった。
 「もう一度叔父の作る煮込みが食べたい」と思い、数十年研究しているが、まだ全然届かない。
 そこは馬喰の作る煮込みなんだな。

 第一関門は鶏もつの煮込みだ。
 これは割とレシピの想像がつくので、叔父の味に近付ける。
1)必ず鉄鍋を使う。
2)最初にニンニクを丸のまま炒める。
3)鶏レバーと砂肝を炒める。
4)日本酒と鶏ガラの出汁で煮る。
5)薬味を加える。主に生姜、鷹の爪。 
 ここまでは簡単だが、たぶん、玉ねぎやネギをどこかで使っている。「たぶん」と言うのは、後で「取り去った」のか痕が無く、味だけだから。
 ここまでは割と簡単に掴めたが、ここからが十年以上かかった。叔父の煮込み独特の風味がなかなか出ない。
 最近、これがようやく分かった。
6)味がついたら、白ワインを振って、風味を整える。
 これで出来上がりが全然違う。

 「肉だから赤ワインで煮込む」と勘違いをして、長く回り道をした。最終局面では「白ワイン」だった。
 内臓に病気があると、その同じ臓器を食べると治癒に役立つと言う。当方は腎不全患者だが、砂肝を食べると「異様に美味く感じる」から、この説は正しいと思う。欠損があり、それを補おうとするから美味く感じる。
 砂肝なら一度に百個食べたいわ。

 でもま、レバーは味のつくりが簡単で、本番はハチの巣その他の牛もつだ。何が入っていたかすら覚えていないが、牛もつには違いない。
 叔父が死んだ年齢から、当方は長く生きているので、生きているうちに叔父を超えたい。

 ちなみに、叔父の家は馬喰だが、自分の家で牛を十数頭飼っていた。遊びに行くと、春先には子牛を生んだばかりの生乳を飲ませてくれた。これが脂肪分がとんでもなく高いミルクなので、コップ一杯の牛乳が重すぎて飲めない。
 温めた牛乳を一升瓶に入れ、長箸でさっと拡販すると、あっという間にバターが出来たから、脂肪分は普通の牛乳の何倍かだった。子牛を生んでふた月くらいはこの濃厚な乳が出る。その後は薄くなり、一年すると出が悪くなるから、また種付けをして妊娠させる。牝牛の一生は繁殖と共にあり、人間であれば六十台まで強制的に妊娠させられる。出来なくなれば、屠畜場に送られる。
 乳牛の牡の方はそもそも不要だから、一歳くらいまで肥育されると、そこで屠畜場に行く。

 子どもながらに「この濃厚な牛乳でチーズを作ったら、どんな濃い味になるのだろう」と思った。

 第二関門の問題は、肉屋に行かぬと牛のハチの巣なんかの牛もつが手に入らないことだ。スーパーでは鶏レバすら置いてないことがある。