日刊早坂ノボル新聞

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◎病棟日誌R070227「他人事ながら」

病棟日誌R070227「他人事ながら」
 向かいの患者が看護師と話をしているのが丸聞こえだ。入院について相談している模様。
 この患者はまだ入棟してひと月経っていない。アラ70くらいの男性で、建設関係の職人風だ。
 背中痛と胸痛(横隔膜付近)を訴えており、医師より強めの鎮痛剤を処方して貰ったが、これが強すぎて昏倒したとのこと。
 ま、痛みが軽減されぬので、たぶん、余計に飲んだ。救急搬送されたわけだが、そうなると日常生活が営めなくなるから、原因不明でも「とりあえず入院」という事態になる。
 背中と胸の痛みなら、すぐに「肺か膵臓の癌だな」と思うのだが、レントゲンやCTでは何も出なかったとのこと。
 こういうのが全部聞こえる。
 癌の時も普通にベッド脇で話すから、周辺の患者の容態については全部分かる。皆同じようなもので、殆ど順番待ちの状態だ。

 背中は激痛で「起きていられない」と言う。それなら横になると少しは楽になるということだから、心肺症状ではなさそう。
 肺が機能不全に陥ると、横になると余計に苦しくなる。
 当方は血中酸素飽和度が80%くらいに落ちた時には、椅子に座ったまま寝た。

 「なら何だろうな」と他人事ながら考えさせられた。
 陰影がレントゲンで出ないことがあるから、癌の疑いも捨てきれぬが、他には循環器系の疾患と腎不全なんかが考えられる。
 既に慢性腎不全になっているわけだが、さらに進んで機能停止に至ると、三日以内にこの世とオサラバだ。腎臓は排尿だけでなく複数のホルモンを分泌している。

 「とりあえずセカンドオピニオンを聞きに行けよな」
 ここは総合病院だが、経営が楽ではないらしく、大半が非常勤医だ。まだ30代の若手医師ばっかりだから、研修所なみ。
 検査技師も目まぐるしく人が代わるから、何か問題がある。
 循環器なのか内臓系なのかのあたりを付けたら、その専門病院に行ってみるべきだ。
 この患者に症状が出たのはひと月以内だから、病状の進行が早すぎる。
 傍らで聞いていると、「肺癌か膵臓癌だろうな」と思う。
 小さい癌細胞が散らばっている時には、影が見え難い。
 母の癌が肝臓に再発した時には、ひと月前の検査では全く異常がなかったのに、そのひと月後には肝臓の90%が癌細胞に変わっていた。もちろん、ひと月前にもあった筈で、要は判断が付かなかった、ということ。
 癌なら血液検査でも分かりそうなものだが、それは普通に健康な人の話だ。持病がある者は、既に血液にも異常が出ているから、何故そうなっているかを見極めるのが難しい。
 腫瘍マーカーは、がん細胞が作り出すタンパクやホルモンを測り、間接的にがんの存在を見つける検査。 AICSはアミノ酸バランスの乱れ方が癌患者のそれにどれだけ近いかを示すもの。いずれも直接的な判定ではない。

 「もし自分があの患者の立場だったら」と想像したが、もう答えは出ていて、「延命治療はせず、苦痛軽減だけにする」だ。
 ま、苦痛の無い病気は無いから、かなりの痛みがある筈だが、痛いのはまだ生きている証拠だ。
 病気と向き合うのは、もう十分過ぎるほどで、何年も前から自分の死を現実的に見つめている。
 近々、葬儀屋に行くつもりだが、自分が死んだ後の処理について相談して置く。どこに安置するかみたいな具体的な段取りだ。
 今のところ、当方は化けて出る可能性が高いので、密葬か家族葬にして置かぬと、障りをばら撒くことになるかもしれん。死ぬと、その途端に理性を失うのは、これまでの観察から分かっている。

 向かいの患者は、余命があんまり残っていないと思うが、自分の死を受け止められるかどうか。無難に死ぬのにも習練が必要だ。
 もちろん、適切な治療をすることで、助かるかもしれん。
 そのためには医師任せ、病院任せではなく、自分で突き止めるのが一番だと思う。

 自分の体のことは自分自身が一番知っている。