日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎病棟日誌 R070403「報告があります」

◎病棟日誌 R070403「報告があります」
 前日の大学病院での診察結果を伝え、要点のメモを看護師に渡した。
 「手術はしません。造影剤を使うと、たぶん急性腎不全になります。それなら指を切りますね」
 ひとまず次週に循環器の主治医に会う予定だと告知した。

 数日前に便の検査があり、その診断結果を患者に言っていたが、周囲に全部筒抜けだ。
 向かいの患者に看護師が言う。
 「潜血反応が出ましたので、大腸の内視鏡検査を受けてください」
 ま、下血しても直ちに癌とは限らんが、癌ならかなり進んでいる。向かいの患者が終わると、当方の隣の患者のところに来て、「潜血反応が出たので・・・」。
 おいおい。あっちもこっちも下血かい。
 腎臓はホルモンを出す器官でもあるから、これが弱ると抵抗力が落ち、がん発生率も高くなる。
 ま、いまさら癌になったとして、それがかなり進行しているとしても驚きはしないだろうな。
 腎不全は「今、目の前にある危機」だが、癌はまだ数か月の余裕がある。

 「潰れる会社」は今月来月をしのぐ必要があるから、半年後とか一年後には考えが及ばない。目の前の問題を克服しなければ一年先など存在しないから当たり前だが、大体は「一年後に必ず潰れる」選択をする。結果的に「潰れるように」「潰れるように」と動くから、今月をしのいでもやはり潰れてしまう。
 先の見えぬ状態で、例えば岸田政権とか石破政権のように、遠くを見渡して「果たしてこれが国の将来に役立つのかを考えることが出来ない」状態に陥っている。
 今月のガス代を払うために、息子の教科書代や給食費を無視して払わない。「とにかく節約しろ」と叫ぶ。それと同じ。
 だが、このオヤジたちは自分だけしょっちゅう酒を飲んで帰る。

 慢性腎不全患者も大半が「程なく入滅する」者で、今月来月にも危機が来るから、三か月先とか半年先の話など気にならない。
 「今さら癌になったって、それが何?」
 患者のほとんどが平然としていた。
 ま、潜血反応は胃が荒れたりしても出るので、どってことはない。

 最近、師長は現場に出ることが少なかったのだが、この日は出ていた。この師長が当方のベッドに来ると、唐突に「お知らせしたいことがあります」と言う。
 「好きな人が出来ました」
 「おお。そいつはスゲーね。どんなひと?」
 「五十歳です」
 ちなみに、師長は59歳で妻子持ち。相手は手のかからなくなった子供がいるが、バツ持ち(独身)らしい。
 「そりゃいいね。それくらいがちょうどよい。それより若いと生臭かったりする」
 子育てが一段落し、心が成熟するのが五十歳くらいで、自分のことを見つめ直す時期になる。
 ま、我のやたら強い「ごうつくババア」になる女性が6割はいるが、幾らかは心身のバランスの良い大人の女性もいるわけで。
 師長はそもそも「ソープ道の達人」だから、もちろん、ハードコア派だ。求めるのは心だけじゃない。 
 「でも、最近、俺はもう出来ないじゃないかと思ったりします」
 「若い頃から荒淫を続けると、四十くらいで出来なくなるそうだ。状況を変えるとかしないとダメで、今話題のN居さんみたいに変態行為に走らぬと興奮しない。それを越えてしまうと薬を頼るようになる。中高年にポン中が増えるのは、それを使うと18歳に戻るかららしい」
 ちなみに、朝の八時半から患者や看護師が聞いているところでこんな話をしている。
 下らぬ与太話だが、途中ではっと目が覚めた。

 「今の俺は目の前の苦痛をしのぐことに気を取られている。実際、鎮痛剤を毎日飲んでいるし、三か所に通院している。目の前の問題をしのぐことで精一杯だわ。だが、ただ生き続けるだけでは、生きる意味がない。俺は※※さん(師長)が『好きな人が出来ました』と言うのを聞いて気付かされたわ、正座してお辞儀をしたいくらいだ」 
 今は五十メートル歩くのがしんどくなっているが、それが何だ。気合を入れれば、苦痛自体が小さく感じられる。

 「進行状況は逐一お知らせしますね」
 「よろしく頼む。俺は今は自分がやれることをやり、余生を過ごそうと思っていたが、これは間違いだ。正しくはやるべきことをやるだ。それで命が詰まるならそれで結構だな。ついでに新しい彼女も作ろう」
 一瞬で目が覚めた朝の出来事だった。