日刊早坂ノボル新聞

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◎病棟日誌R070603「白状する」

◎病棟日誌R070603「白状する」

 向かいのベッドのロン毛の男は、やっぱり40歳くらいだった。骨格から見て、塗装工という線もなかなかよい読みだと思う。アセチレンか何かを吸って腎臓がパンクした。こういう病気の進行は目に見えぬから、発病するまで分からない。で、、発症したら、もう後戻りは出来なくなる。

 まだ入棟後ひと月半で、呆然と過ごしている。他人のことは目に入らぬふぜいだ。挨拶しないし、しても返って来ない。

 塗料が有毒なのは、書いてあるから分かりやすいが、健康サプリとか市販薬でも、人によって悪影響が著しいいものがある。あくまで「人によって」で、誰に出るかは分からない。

 警戒すべきはステロイドで、それこそ人によって劇症反応を引き起こす。一発で急性腎不全になり、二日で死ぬ人もいる。生き残っても慢性腎不全。

 ただこの場合は、腎臓だけ悪くなるので、余命は割合ある。多臓器不全症の果てに腎不全になれば、余命は数か月だ。

 足の傷が、また一段悪くなったが、やはり看護師が同じことを言う。

 「血管の通りを改善しないと治りが良くなりませんよ」

 だが、指先では効果は薄い。

 「やりません」と言うが、いつもいつも同じ問答王をされるのにはうんざり気味だ。

 面倒くさくなったので、正直に白状した。

 「今、俺の家には『黒いひと』がいるから、外科治療は出来ないんだよ。カテーテルを居れたりしたら、動脈が破れて内出血死する」

 「お祓いをすればいいんじゃないですか。霊能者を頼んで」

 「霊能者?(失笑)。世間の自称霊能者のレベルなら、自分でやれるさ。俺の相手はそういう次元のやつじゃないんだよ。前には遠ざけるのに八か月くらいかかった」

 ただのお話ではなくて、写真に写るわ、電源が入っていない器具を動かすわ。

 ここで看護師の関心は別の方向に移ったらしい。

 「病院にもそういうのは出るんですか」

 「当たり前だろ」

 死に間際の患者の顔の隣に寝てるんだよ、と言いかけたが、さすがに自重した。

 「患者さんを不安にさせるから、見ても言わないさ」

 過去に、エリカちゃんとO君には伝えたが、両方とも医療従事者だ。お祓いでどうにかなるのは、基本が健康だから、要因を除去するのは割合容易だ。患者の方は、そもそも弱っているし、この病棟なら大体が「死にかけ」だわ。

 当方も例外ではないわけで。

 「こういう話はここでは出来ないし控えるべきだから、ここまでだね」 

 指を切っても足を切っても半年一年は生きていられる。

 だが、手術室に穿いている時に何らかのトラブルが生じたら、出る時には仏になっている。

 この日の最後の処置はエリカちゃんの担当だった。

 バイクの話をしたら、少し気分が直った。

 

 追記)これを転写しようとしているのだが、今、階下の玄関のところに何者かの気配がある。

 玄関を触った音がした。ノックをするなら、走り下りて確かめるつもりで入る。

 (R070604午前0時55分の記録)