日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎病棟日誌 R070605 「夜には腐る」

◎病棟日誌 R070605 「夜には腐る」
 朝の七時台には病院のロビーに患者が六七人くらいたむろしている。これは治療の順番のカードを先に取るため。
 当方は妻子を駅に送った後に行くので七時二十分頃に病院に着くが、既に「5番」になっている。時間や治療の質によって、三グループに分けられるから、全体では十二番目くらいになる。
 ロビーでは、患者たちがあれこれ話をしているが、仲間に加わったことがない。そもそも人付き合いが好きではないし、共有すべき情報もない。
 この日は「回転寿司のどこがどういう特徴があって」みたいな話をしていた。
 その中で、Aさんの声がひと際大きく聞こえた。
 Aさんは体内がバイパスや人工血管だらけの「人造人間」だ。
 この人は「とにかく前に出る人」で、ぐいぐい前進する。
 当方も「前に出る方」ではっきり言う性質だが、Aさんには敵わない。普通の人が接すれば、たぶん、「煩い」「やかましい」と思うだろうと思う。
 だが、Aさんが「不死身」なことには、たぶん、その気質も関係していると思う。好奇心が強く、とにかく自分の意見を前に出す。「進取の姿勢」が生き残るコツかもしれん。
 もちろん、引き換えにするものがあり、まだ五十台なのに、外見は八十歳くらいに見える。ま、臓器の多くがボロボロだ。
 歩けなくなると、殆どの患者がひと月くらいでこの世を去るが、Aさんは戻って来やがる。
 毎度なので、「さすがAさんはしぶとくてくたばりやがらねえな」と軽口を言う。これは「良かったね」という意味だ。
 こういうブーメラン的な言い回しは、平成生まれ以降には理解できないと思う。
 実際、たぶん、Aさんは当方よりも長く生きる。
 Aさんの精神構造を研究すれば、「余命いくばくもない」とされる人を延命させるための「心の持ちよう」を確立できるかもしれん。
 父は生涯を通じ、当方に「常に堂々としていろ。堂々としていられる生き方をしろ」と厳しく言っていた。自分に恥じるところが無ければ、誰の前にでても臆することがなく自分なりの意見が言えるわけだが、Aさんもそれに通じるところがある。

 技師のK君は、昨年この病棟に入ったが、鹿沼から出て来た若者だ。口数が少なく、ぼおっとしているので、田舎者かと思ったが、実際は市内の繁華街で育ったらしい。180センチ台の身長だが、ぬぼおっとしている。
 人付き合いが下手そうなので、職場の仲間や患者とはほとんど話をしないようだ。
 少し励ましてやろうと思い、時々、声を掛けている。
 この日もぬぼおっと立っているので、助言をした。
 「駅向こうに医療系の専門学校があるのを知ってるか?」
 「いえ。知りません」
 「昔は信用金庫のところに看護学校があったが、移転して今のところに移ったらしい。朝夕、交差点で女子学生を沢山見る」
 「そうなんですか」
 「たまに可愛い子がいるから、引っかけて来るといいよ。一人暮らしで部屋にじっとしていれば気分が腐る。彼女がいれば紛れる」
 後は具体的に「医療系の生徒は病院に必ず見学に来るから、その時に自分から手を上げて、案内役を買って出ろ」と伝えた。
 「俺、この病院のことをよく知りませんが」
 「勉強すればいいんだよ。先輩風を吹かせて、学生の方から頼るように持って行け」
 で、気が付いたら、自分の目の前の仕事だけではなく、病院全体を俯瞰的に眺められるようになっている。
 これが本来の目的だ。
 (俺みたいな上司がいれば若者が育つんだがwww。本人が自覚する前に眼が開いている。ま、二段構えで意図が見えないから、感謝もされないが。)
 「嘘をつかない。言い訳をしないことだけ守れば、お姉ちゃんとは上手くやれる。付き合い続けるにせよ、別れるにせよ、だが」
 言い訳をしないと悪人扱いになるが、ごたごたと長引かせるよりはまし。早々と「まだ結婚する気はない」と言っとけ。セックスはするけど。

 足指の処置をして貰うのだが、この日の担当もタマちゃんだった。
 例によって、「動脈の通りをよくした方が・・・」と言う。
 「俺の状況は他人には説明し難いし、しても分からないからな。地震が来るかは分からないが、自分の行く末がパパっと見えることがある。それを裏付ける写真もある。見てみる?」
 このところ、スマホが毎日立ち上がるので、その都度今の写真を撮影している。時々、不審な煙が写る。
 「いやいや結構です。俺はその手のが苦手でして。昔、『あなたの知らない世界』なんて番組をやってましたが、とても見られませんでした」
 「テレビには誇張があるし、面白可笑しくしている。現実のは地味で、これは偶然じゃないと分かる程度だ。ま、ちょっとお経を唱えたくらいでは消えてくれない。その意味では現実の方が数段怖ろしいとも言える」
 当方に寄り憑くのは、並のヤツじゃないからな。
 うっかり強引に除霊浄霊しようとすると、祈祷師霊能者を含め、根こそぎやられる。関係者数十人が全部持って行かれると思う。丁寧に対話しながらゆっくりと進むのはそのためだ。
 当方は九月まで生きていられるなら、その時に外科治療を考える。

 昨夜、「翌日に足指が腐る」姿が見えたので、この日前もって抗生物質の処方を頼んだ。まだ症状が出ていないから、「ください」とは言い難い。実際、医師は症状がない病気の処方はしない。
 こういうのは、本当に説明に困る。
 「今日の夜に化膿して足首まで腫れるので、抗生物質が必要でして」
 これが昨日の話で、その晩には、実際、足首まで腫れた。
 これは先日の雨の時に濡らしたことで感染症にいたったものだ。貰っていた抗生物質を限度を超えて飲んだ。

 本物の霊能者とか祈祷師、占い師がこの世を去る時には「全身が腐るか、誰かに殺されて死ぬ」と言われる。
 ギボさんは癌で亡くなったが、最期の様子を伝え聞くと、やはり同じだった。
 当方は祈祷師でも能力者でもないが、あの世には深く関わっている。今、足指がやたら腐るのもそれと無縁ではないと思う。
 実際に指を切断した患者よりも、当方の方が状態が悪い。
 タマちゃんには「三か月半前に躓いてこうなったが、これも家にいるヤツと無縁ではない」と伝えた。