◎病棟日誌R070624「立て直せない」
◎病棟日誌R070624「立て直せない」
治療が終わり、帰ろうとしたが、下駄箱のところで、最近入棟した男性患者が出て来た。
先にエレベーターの前に行き、男性が来るまで、ボタンを押して待っている。
男性は七十台前半くらい。
だが、靴の履き替えがスムーズに行かぬようでなかなか来ない。
「別の階の人がイライラするだろうな」と思ったが、目の前で先発するのも不躾だから、そのまま待った。
男性は靴を履き替え、内履きを下駄箱を仕舞おうとしたのだが、体が五度くらい傾いた。
すると、そのまま体勢を立て直すことが出来ず、歌舞伎の勧進帳みたいに、「よっよっ」と数段階に崩れ、廊下の先の方に転がって行った。
戦慄を覚える一瞬だ。
何故なら、男性患者が倒れて行く先には、下り階段がある。
そのまま落ちて行ったら、命に関わるのは必至だ。
「ああ、助けに行かねば」と思うのだが、全然体が動かない。
当方は腰も足も悪いので、機敏に動くことが出来ない。
ゆっくりと歩を進めて、男性の転がって行った先を見ると、階段の手前のステップに転がっていた。
ああ、良かった。生きてら。
年寄りが自宅の階段を転げ落ちて大けがをするニュースを時々聞くが、あれはこれと同じで、ほんのちょっと体が傾いた時に、支え直すということが出来なくなっているためだ。
四十台くらいまでは何のことはなく、傾きを是正出来たろうが、全身が弱っているので、そのまま倒れこんでいく。
当方も四か月の間、、寝たり起きたりだったので、脚の筋肉が落ち、ほんのちょっとふらつくとそのまま倒れると思う。
ちなみに、傍目ではかなり滑稽な姿だ。
歌舞伎の勧進帳のあの片脚を上げたポーズだった。
だが、ひとつ間違えると、ジーサンは死んでしまう。
そこはうすら寒い。