日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎『怪談』第七話 シンカの女  早坂 絆

◎『怪談』第七話 シンカの女  早坂 絆

 (早坂絆は、父子の共同ペンネーム。父の体験談を基に息子が物語にしたもの。)

 

 これは僕が小学四年の夏休みに実際に体験した出来事だ。

 僕の実家は岩手の真ん中辺にある姫神山の近くにあった。そこは山の中だったが、東西の分岐点だったから、田舎の割に車が通った。

父は萬屋を生業としていたが、人家が十数軒ほどにも拘わらず、あちこちから客が来るので、店は割合繁盛していた。

 この集落には同級生が四人いて、そのうちの一人がケンゾーだった。ケンゾーは集落の外れにある甚平衛坂の上に住んでいた。

 ケンゾーの家の屋号は「松の下」と言う。

奥州道に沿って、背の高い松並木が並んでおり、その下に居えがあったから、この屋号になったらしい。

 ケンゾーの面相は所謂「猿面」だったので、周りの皆から「猿」「山猿」と呼ばれていた。

だが、僕自身はケンゾーのことを一度もそう呼んだことが無い。

ケンゾーはその外見の通りに、野山のことにやたら詳しかったから、山歩きをする時には、ケンゾーがいてくれるとたいそう助かったのだ。

一度、目の前に蝮がいきなり現れたことがあるのだが、ケンゾーは慌てず騒がず、杖として持参していた棒ですぐさま蝮を打ち据えた。その一撃で蝮がぐったりすると、ケンゾーはポケットから小刀を取り出すと、蛇の皮をくるくると剥ぎ取った。そしてその皮だけを家に持ち帰ったのだ。

それを見てからは、僕はケンゾーのことをある種独特の敬意をもって接するようになったのだった。山歩きの分野では、ケンゾーは「師匠」も同然だから、僕が師匠の悪口を言う筈がない。

 

 さて、この「松の下」にあるケンゾーの家の前の道を道なりに進むと、その先に山の斜面を切り崩して作った畑が広がる。こういった畑が概ね五六百㍍は続いた。

 この畑を通り過ぎると、その先は山道に入る。北上山系の山の中に進むわけだ。

 そのまま山道を二キロくらい昇って行くと、程なくうっそうと木々の茂った森に至る。

 ここは背の高い木々に日光を遮られ、昼でも薄暗い。

 その森の真ん中に「シンカ」の沼がある。

 「シンカ」はこの沼の名前なのだが、僕はどういう字を書くのかを知らなかった。

 ただ、皆がシンカと呼んでいたので、それをその場所の名として憶えていただけだ。

 この沼には、体長が優に七十㌢を超えそうな鯉が棲んでいた。時折、水面に出て息をするのだが、このバクバクという口の動きがもの凄い迫力だった。かなりの大物だ。

 だが、子どもは誰もこの沼に魚釣りに行かなかった。

 シンカには「河童がいる」という言い伝えがあり、実際にここに鯉を釣りに行った地元のオヤジさんが、幾人か溺れ死んでいる。

 いざ鯉をたもで掬おうと、湿地に足を踏み入れると、河童が出て来て足を掴み、その河童に沼の底まで引きずり込まれる。

 そんな噂があったのだ。

 

 子ども心には怖くて堪らぬ場所なのだが、しかし、僕たちは、時々、このシンカの近くに行った。

 シンカには一風独特の神秘的な雰囲気があり、肝試しにちょうど良かったからだ。

 この年の夏休みに、僕はケンゾーと連れ立って、シンカを見物に行った。

 八歳か九歳の頃だ。

 

 シンカの森はひと際暗いので、中に足を踏み入れるのもためらわれる。

 最寄りの家に住むケンゾーでも、滅多にこの近くには来ぬと言う。

 だが、人の来ぬシンカだが、道はその先にまだまだ続いていた。

 「何があるのか、あの先を見て見よう」

 これが二人の申し合わせだった。

 

 シンカの森を過ぎると、空を覆う木々がなくなり、周囲が明るくなった。

 道幅はどんどん細くなったが、しかし、まだ山奥に続いていた。さらに一キロも山道を登って行くと、ついに林道の痕すらも見えなくなった。

 「ここで道は終わりだ。結局何も無かったよな」

 二人はここで引き返そうとしたのだが、僕がこの時に地面の様子に気付いた。

 「道がないんじゃなく、長く使っていなかっただけだ。うっすらと轍(わだち)の跡が見えるもの」

 それなら、少なくとも、「前はこの先に何かがあった」ということだ。

 そこで、二人でもっと先に行ってみることにした。

 山裾を迂回して回り込むと、その山の陰に、家が建っていた。

 表側からは隠れて見えぬところに山荘があったのだ。

 

 「こんなところに家があったとは、俺でも知らねがった」

 ケンゾーが驚く。

 その家は木造とモルタルの二階建てだったが、この辺には見当たらぬ洋風のつくりだった。

 「何か金持ちの別荘みてえだな」

 「山荘」と言うより、「屋敷」の方が近そうだ。

 だが、私は「金持ちなら、こんな山の中に、車を使わずに通うのは不自然だ」と思った。

 しかも道は消えかかっており、人が通った痕がまるで無い。

 

 そのまま屋敷の前まで行ったのだが、やはりつくりが洋風だった。スイスの山の中にでもありそうな洋風のバンガローか、あるいは洋館だった。

 ケンゾーは「ここに人が住んでいたとは思えねな」と首を傾げたが、しかし、家の脇には洗濯物が干してあった。

 黄色や水色の女性用のシャツの類だった。

 そこで家の周りをひと回り回って、それから山を下りることに決め、まずは裏手の方に歩いてみた。

 すると、何やら声が聞こえた。

 「ルルル。ラララ」

 若い女性の歌声だった。

 きれいな声だったので、何となく声のする方向に進んでみた。

 

 家の裏では、一階のひと部屋だけ窓が開いており、その窓から鼻歌が聞こえて来ていた。

 何となく、その声に引き寄せられ、窓の正面に立った。

 すると、部屋の中では、若い女性が裸でシャワーを浴びていた。

 こんな山の中だし、人が来る筈もないから、窓を開け放して、外の風を入れていたのだろう。

 長い髪が背中を幾らか隠していたが、体全体が雪のように真っ白な肌だった。

 「ルルルラ。ララララ」

 女性は壁の方を向いていたので、最初は僕たちに気付かなかった。

 僕は刹那的に裸の女性を覗き見たらダメなような気がしたが、だが、余りにも見事な背中だったので、眼が離せずにいた。

 この世にはこんなきれいな人もいるんだな。

 僕とケンゾーは、その場に固まったまま、天使のような女性の姿を凝視した。

 

 シャワーの水が止まると、女の人がこっちを振り向いた。

 そして、僕たちがそこに立っているのを認めた。

 だが、相手が子どもだと見て取ったか、その女性は裸身を隠しもしなかったので、おっぱいがすっかり見えてしまった。

 背中からは中肉中背だと見えたのだが、予想外にふくよかな胸をしていた。

 それで、僕はすっかり固まってしまった。

 その場を動けずにいると、その女性がほんの少し微笑んで、こう言った。

 「君たち、私のお風呂を見たわね。ではそのままそこにいなさい。すぐそっちに行くから」

 そう言うと、女の人は部屋の奥に姿を消した。

 私は頭の中で、「これは不味い」ともの凄く焦った。

 何せ、女性がシャワーを浴びているところをじっと覗いていた。どう見てもスケベな子どもたちだ。

 親に言いつけられるだろうし、下手をすれば警察まで呼ばれる。

 「弱った」と思ったが、、しかし、見つかってしまった以上、逃げればもっと厄介なことになるかもしれん。

 「ケンゾー。俺たちはどうすべか」

 隣にいるケンゾーに相談しようとしたが、そこにケンゾーの姿は無かった。

 女性に見付かった時に、ケンゾーは脱兎のごとくその場から逃げ出していたのだ。

 隣にいた僕が気付かぬほどだから、ケンゾーは逃げ足がやたら早かった。

 「あいつめ。僕を置いて独りで逃げやがったな。さすが『山猿』と皆に綽名されるヤツだ」

 僕はむしろ、あのタイミングで逃げおおせたケンゾーの速さに感心した。

 

 程なく女性がやって来た。

 白いバスローブのようなものを羽織って、何やら飲み物を入れた容器とコップ二個を持っている。

 「こっちに来なさい」と言うように女性が指差す方向を見ると、そこには木のテーブルと長椅子が置かれていた。

 「一人は逃げたのね。ならひとつは私が使うね」

 椅子に座ると、女性がテーブルの上に飲み物の器ひとつとコップ二つを置いた。

 「飲み物をご馳走するから、少し私の話し相手になりなさい」

 すごくきれいな女性だし、バスローブの下は裸だろうし、何だか石鹸の良い匂いまで漂って来る。

 僕はその清楚な色香に接し、頭がぽわんとした。

 女性がコップに飲み物を注いでくれたので、僕はそれを口にした。

 透明な液体だったが、なんと苺の味だった。

 苺をただ潰したのではなく、濾して果肉を捨て去った、いわゆる「エード」の類だ。

 贅沢な飲み方だ。

 「この家の裏に温室があって、そこで苺を作っているの。春に採れた苺をこうやって置けば、長く保存できるのよ。美味しいでしょう?」

 「はい。すごく美味しいです」

 マジで美味かった。こんなのはこれまで飲んだことが無い。

 

 「僕は麓に住んでいますが、ここにお宅があることを知りませんでした。さっきのことも・・・」

 たまたまであって、覗こうとしたわけではないのです、と言おうとしたのだが、恥ずかしくて、途中で言葉を止めてしまった。

 「ここは別荘だからね。私はいつもここにいるわけではないのよ」

 それなら、地元の人と接点が生じぬから、皆が知らぬのも無理はない。

 ケンゾーは、ここからわずか四五キロ離れた家に住んでいたが、この家のことを知らなかった。

 

 「ここにはお一人で来られるんですか」

 「誰かと一緒のこともあれば、独りのこともあるわ」

 少し遠くを見ながらそう話す口調で、私はこの女性は誰かに囲われた人ではないかと想像した。

 小学四年生が想像するには大人びているが、つい昨夜、そんなドラマをチラ見したばかりだったのだ。財閥が滅びて行く様(さま)を描いたドラマで、主人公の母親は金持ちに囲われた妾だった。

 ドラマは戦前の話だったのだが、この家の佇まいがそれとよく似ていた。

 

 それから、僕はその女性と小一時間ほど話をした。

 話の内容は、専らこの山のことだ。どこに栗の木があるとか、どの山に雉が沢山いる。

 僕はそんなことを必死で説明した。

 話しながら、どうやら女性が僕を呼び止めたのは叱るためではなかったらしいと気付いた。

 この女の人は、僕の話をニコニコと微笑んで聞いてくれた。

 僕は頭の中で思った。

 「たぶん、この地に住んでいるわけではないから、このお姉さんは周りのことを知らない。この山荘で独りきりで過ごしているから退屈なのだ」

 そのことを悟ると、それまでの緊張が解け、僕はベンチに深く腰を下ろした。

 上を見上げると、空が真っ青だった。

 この日は晴天で、下の平地ではさぞ気温が上がっていそうだが、ここはかなりの山の中で標高も高い。

 麓から吹き上げて来る風が心地よくて、つい眠くなる。

 すると、それを女の人が見て取った。

 「君は眠くなったのね。いいわよ。私が膝枕をしてあげるから、少し休んで行きなさい」

 僕が返事をする前に、女の人が僕の頭を引きよせ、自分の膝の上に導いてくれた。

 布一枚隔てただけで、若い女性の太腿に触れていたから、僕の胸はドキドキしたが、しかし眠気の方が強くなって来て、僕はたちまち寝入ってしまった。

 

 眼が覚めると、僕は同じベンチに横になっていた。

傍に女性の姿は見えなかったが、もはや、お日様が西に傾いていた。もうすぐ夕暮れになる。

 「わ。急いで帰らぬと、シンカを抜ける頃には暗くなってしまう」

 昼でも暗いあの場所を、夕方以降に通るのはぞっとする。

 僕はすぐさま跳ね起きて、急いで、ここに来た道を戻った。

 四五十メートルほど進んだところで、後ろを振り返ると、山荘の二階の窓際にあの女の人が立っていた。

 微かに口が動いている。

 声は聞こえなかったが、「また来るのよ」と言っているように思えた。

 僕はぺこりと頭を下げ、右手を大きく振って、もう一度走り出した。

 

 シンカの沼の脇を通り過ぎようとすると、沼の中から「カカカカ」という鳴き声が聞こえた。

 「あれは河童の呼ぶ声だ」

 間違いない。

 僕は河童に捕まらぬよう、必死で走った。

 家に帰り着く頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

 

 一日の内に色んな出来事があったので、家に入ると、風呂に入らずそのまま横になった。結局、僕は夕食を食べずにそのまま眠った。

 次に目が覚めると、既に翌朝だった。

 父は既に仕事に出ており家にはいなかったが、手伝いの娘が朝食を整えていてくれた。

 この子は住み込みの手伝いで、山ふたつ隔てた農家から働きに来ていた十七歳の娘だった。

 シンカとは逆方向の開拓農家の育ちだ。

 名前をミホと言う。

 「昨日は遅く帰ったようだけんど、一体、どごさ行ってたの?」

 「シンカの先」

 「え。あっちには何もない筈だけんどね」

 「家があったっけよ。お金持ちの別荘だっけよ」

 すると、ミホが怪訝そうに首を傾げた。

 「あっちには何もね筈だけんどね」

 

 ここに、店の従業員の壮年の男が顔を出した。

 僕の父は商人で、朝早くから市場に出掛ける。

 父が不在の時には、店をミホたちが切り盛りし、この男性が荷物の運搬など労務全般を受け持っていた。

 この人の名前はササキさんだ。

 「ね、ササキさん。シンカの先に家なんてあったべか」

 すると、ササキさんはミホにこう答えた。

 「いや、ねえな。戦前には仙台の医者の別荘があったはずだけんど、戦後まもなく火事が出て焼け落ちた」

 「え。俺は昨日、その家に行って来たけど。そこには女の人もいだっけよ」

 すると、ササキさんは、首を僅かに横に振った。

 「確か別荘が焼けた時に、そこの医者と若い愛人の二人が死んだっつう話だっけよ。もう二十年は前の話だ。俺が東京に働きに出ていた頃だから、詳しいことは分からねけんどね」

 

 それを聞いて、僕の頭は混乱した。

 髪の長い女性の入浴場面を覗き見て、それからその人に苺のエードをご馳走になった。

 あれは間違いなく昨日の話だ。

 すると、ササキさんが僕の気配を感じ取ってか、強い口調でこう言った。

 「もうそこには行ったらダメだよ。縁起の悪い場所だし、祟りがあるかもしれんから、誰も行かぬようにしてるだべさ。シンカの河童話も、あの場所に人を近付けぬようにするためのものだっぺ」

 だが、僕は確かに、あの場所で別荘を訪れ、若い女性と話をしたのだ。

 ここで僕は気付いた。

 色々と良くして貰ったのに、僕はあの女性の名前を聞いていなかった。

 

 その夜に父にこの話をすると、父はササキさん以上に強い口調で、そこに行くのを禁止した。

 「もしそこで人に会ったというお前(め)の話が本当なら、余計に不味い話だぞ。あそこには何もない。それなら、お前が関わったのは、この世のものじゃねえってこった。もう二度とシンカなんかに行ぐんじゃねえぞ」

 父の何時にない態度に、僕は少なからず反発心を覚えた。

 何もそんな言い方をしなくとも良いのに。

 シンカの先は禁足地のようなものだから、父はあそこに行ったことが無い筈だ。

 だが、僕の方は実際に行って、自分の眼であの屋敷を見て、あの女性と話したのだ。

 それなのに、父は頭ごなしに僕を叱る。

 この時の僕は父の横暴さに腹が立った。

 

 周りの大人たちは皆、口を揃えて「あそこには何もないから行くな」と言う。

 だが、僕だけは直接あの場所に行き、あの女の人に会っている。

 「いずれあそこに行って、あれが現実に起きたことか、あるいはただの僕の妄想だったのかを、もう一度確かめねば」

 僕はそう決心した。だが、心の底では、「またあの女性に会いたい」と思っていたと思う。

 あのひとは初めて僕に大人の女性を感じさせてくれた人だった。

 

 夏休みの最後の日に、僕にチャンスがやって来た。

 父が集まりに出て、明日まで家に帰って来ない。

 手伝いのミホやササキさんは、仕事で忙しく、僕のことは気にも留めぬだろう。

 「よし。今日はあの家に行ってみよう」

 僕はそう決心した。

 最初にケンゾーの家を訪れ、「またシンカに行こう」と誘ったが、ケンゾーはどうしても頷かなかった。

 前回のことを家の者に話したら、やはり「行くな」と叱られたのだという。

 仕方なく、僕は一人であの家に行くことにした。

 

 シンカの沼の辺りは、やはり薄暗く、僕は肝を冷やしながら速足で通り過ぎた。

 何やら「ちゃぷん」と水の音がしたが、「あれは鯉の撥ねる音だから」と念じつつ、道を急いだ。

 

 山道を四キロほど登って行くと、急に高台の上に出て、あの屋敷が見えた。

 「やはりあの家はあった。夢や幻ではねがったんだ」

 それなら、あの女の人もいる筈だ。きっと僕の来るのを待っている。

 僕の足は自然と駆け足になっていた。

 前の時と同じように、建物の横に回ると、あの女の人が二㍍の高さの杭の間に張ったロープに洗濯物をかけていた。

 僕は女の人の背中に、「こんにちは」と声を掛けた。

 女の人が振り返る。

 「あら。やっぱり来たのね」

 「今日で夏休みが終わるので、この先当分の間ここにはもう来られなくなるのです。だから今日来ました」

 僕の母は長く病院に入ったままだった。

 毎週、日曜にはその母を見舞うために病院を訪れていたから、もはや次にこの場所に来るのは来年の夏になる。冬休みにはこの辺一帯が雪に覆われてしまうから、とても上っては来られないのだ。

 「もう少しで終わるから、中に入って待っていてね」

 「はい」

 僕は言われるまま、裏手の扉から中に入り、居間の大テーブルの前に腰を下ろした。

 程なく女の人がやって来た。

 「よく来てくれたわね。遠かったでしょうに」

 前回と同じに、この女の人はテーブルの上に飲み物を置いた。

 この日の女の人は白いワンピースを身に着けていた。胸元が大きく開いていたから、胸の谷間が少しだけ見えていた。ほっそりしているのに、おっぱいは凄く立派だった。

 

 女の人はコップに飲み物を注ぐと、「はいどうぞ」と僕の前に置いた。

 「この台所には山から湧き水を引いてあるのよ。これはそれで冷やしてあるわ。この場所はかなり高い位置にあるから、凄く冷たいわよ。このジュースも確り冷えてる」

 僕が一気に飲むのを見て、女の人はもう一度僕のコップにジュースを注いでくれた。

 「まだ名前を教えていなかったわね。私の名前は雪乃と言うのよ」

 僕はすぐさま、冬にこの山を覆う雪の白い色を思い浮かべた。前回、窓から見たこの女性の肌は、確かにその雪のように白かったから、名前にぴったり合っている。

 あの時の背中の美しさ、滑らかさと来たら。

 「僕はケンジと言います。親は麓で商売をやっていて、屋号をヤマゴンと言います」

 再び間近で女性に接したので、少しく緊張したのか、僕は余計なことまで口にしていた。

 近隣と付き合いを持たぬこの屋敷の住人に、「屋号」を伝えたところで意味はない。

 「今もお一人なんですか」

 「そう。今も一人よ。わたしはここにずっと独りでいるの」

 遠くを見る雪乃さんは愁いを帯びた表情だ。

 子どもの僕にはよく分らないが、何だかぞくぞくっとした。

 同級生のヨシコちゃんやミサちゃんとは全然違う、大人の女性の香りがした。

 

 それから、あの時と同じように、また色んな話をした。と言っても、やはり話すのは僕の方で、雪乃さんは聞くだけだった。

 母の実家に泊めて貰った時に、夜中に座敷童が出た話までした。これは作り話ではなく、本当に出たのだ。

 でも、僕の会った童が世間の話と違うのは、その座敷童は福神さまなどではなく、幼くして死んだ子どもの幽霊だったことだ。

 雪乃さんはそんな突拍子もない話でも、にこやかに微笑んで受け止めてくれた。

 僕の母さんは小学一年の時に入院し、ずっと病院にいたから、長らく僕の家には女手がなかった。

 最近になり、山家の娘が働きに来るようになったが、ミホともう一人のマキはいずれも十六七の小娘だった。僕とそんなに変わらぬから、ミホたちに「女性」を意識することはない。

 だが、初対面の時にいきなり裸を見たせいもあり、僕は雪乃さんに「女性」を強く感じた。

 母さんの齢(とし)まで行かず、かと言って手伝いの娘とはまるで違う若い女性だ。

最近、僕は少しずつ下半身がむずむずするようになっていたから、雪乃さんみたいな大人の女性に会うと、一層緊張する。前回のことを思い出すだけでも、あそこが少し固くなった。これは今まで経験したことのない事態だった。

 

 「お昼御飯は食べて来たの?まだならご馳走してあげるわよ」

 この時には、午後二時を過ぎていたと思うが、シンカを越えて来るのに優に一時間半は掛かったから、もちろん、何も食べていなかった。

 「なら、少し待っててね。仕度するから」

 雪乃さんはそう言うと、キッチンの方に姿を消した。

 程なく雪乃さんが戻って来て、テーブルに食事を並べた。

 何か肉のソテーと魚の煮物だった。

 肉は鹿肉で、これは叔父が時々、家に持って来てくれたから、前にも食べたことがあった。

 魚の似付けは鯉だった。

 甘辛く上手に煮ており、子どもでも食べられるような味になっていた。

 これも美味しかったが、僕は何となく「コイツはシンカで釣って来た鯉ではないか」と思った。

 即座に僕の頭の中で、良からぬ妄想が広がった。

 全裸の雪乃さんが、鯉を抱えて、沼から上がって来る場面だ。

 (これじゃあ、まるで河童じゃないか。)

 僕は慌てて、その妄想を打ち払った。

 

 ご飯を食べると、また今回も外に出て、庭のベンチに座った。

 風が山々を吹き渡っている。

 お腹が一杯だし、涼しくて気持ちが良いし、今回も僕は眠くなって来た。

 それをすぐに雪乃さんが悟った。

 「少し昼寝をする?また膝枕してあげるね」

 雪乃さんは有無を言わさず僕の頭を引いて、膝の上に乗せた。

 今回の僕はすっかり上を向いていたのだが、その姿勢だと雪乃さんのふくよかな胸が頬の辺りに当たった。

 それで、僕は雪乃さんがワンピースの中に下着を付けていないのを知った。一枚布を通して、おっぱいの柔らかさが伝わって来る。

 僕はもの凄く緊張したが、それを雪乃さんも悟ったらしい。

 雪乃さんは僕をからかうように言った。

 「お母さんじゃない女の人のおっぱいを触ったことがあるの?」

 僕はびっくりして、変な答えを返した。

 「母は長く入院しているのです。僕が小さい頃から」

 雪乃さんは一瞬言葉を止めたが、すぐにまた口を開いた。

 「じゃあ、お母さんのおっぱいも触ったこともあまりないわね。わたしのを触らせてあげようか?」

 僕は慌てて、「いえいえ。とんでもないです」と大人のような答え方をした。

 

 前回以上に緊張したが、やはり眠気には勝てず、僕は深い眠りに落ちた。

 途中で雪乃さんに支えられて、家の中に戻ったような記憶があるが、寝ぼけていたからよく覚えていない。

 家の中に戻ると、今度の僕はベッドに寝かせられていた。

 隣に息遣いがあったから、雪乃さんは僕が寝ている間、ずっと添い寝していてくれたのだ。

 雪乃さんは僕の寝顔をずっと見ていたのだろう。

 僕が目を覚ました時にも、雪乃さんは隣にいた。

 この時、僕は雪乃さんの胸元に手を入れて、おっぱいを掴んでいた。無意識のうちに自分でそうしていたのか、雪乃さんが僕の手を導いてくれたのかは、よく分からない。たぶん、後の方だと思う。

 僕は急いで手を引いて、「すいません」と詫びた。

 雪乃さんはくすりと笑うと、僕に尋ねた。

 「これからどうするの?すっかり暗くなっちゃったわよ」

 窓の外を見ると、既に真っ暗だった。

 この屋敷は山の中にあり、電気が通っていなかったのか、部屋の灯りはランプだった。

 ランプは灯油の灯りだから、それほど明るくないかと思っていたが、思ったより明るい。白熱電球の灯りと変わらない。

 「もう帰れないでしょ。今日はここに泊って行くのね」

 「でも、明日は登校日です。帰らなくては」

 「これからあの沼を通って帰るのよ。ケンジ君にそれが出来るの?」

 昼でも薄暗いあの森を夜に通り抜けるのは、子どもには到底無理な話だった。

 今度こそ、シンカの河童が許してはくれないだろう。

 「明日の朝早くに私が起こしてあげるから、学校にもきっと間に合うわよ。五時にここを出れば、七時には麓に着くわ」

 僕が家に帰らねば、ミホたちが心配するだろうし、父は怒るだろうけれど、父はこの日は会合で明日の午後まで帰らなかった。

 何はともあれ、暗くなってから、シンカの沼の傍を通るのはごめんだった。

 「はい。分りました。今日はどうかここに泊めて下さい」

 「今日だけじゃなく、ずっとここに居てもいいのよ。私はここに独りきりで、話し相手がいてくれると助かるわ」

 「でも、僕は学校がありますから、明日は帰ります」

 「そうなの。まあ、明日になれば気が替わるかもね」

 その瞬間、屋敷全体ががたぴしと音を立てて揺れた。

 「わ。地震だ」

 雪乃さんの方を見ると、さっきまで雪乃さんはにこやかに微笑んでいたのに、この時は無表情だった。

顔から一切の感情が消えていたのだ。

 

 この屋敷にはテレビも無ければ、時計も無かったから、時刻が分からない。

 屋敷の周囲は漆黒の闇で、窓からは何ひとつ見えなかった。

 いつもは空に星空が拡がっているのだが、この日は曇っているのか、窓から外を見上げても、星の灯りがまったくなかった。

 このため、寝台に寝転んで過ごす時間が、やたら長く感じられた。

 たぶん、深夜の十一時頃だと思うが、屋敷の玄関が幾度か開け閉めする音が聞こえた。

 それと共に、ぼそぼそと誰かの話し声もする。

 男の声と雪乃さんの声が交互に交錯するが、少し口論気味のようで、二人とも語気が粗かった。

 だが、僕のいたのは二階だったから、一階でどんなやり取りがあったのか、その詳細までは届いて来なかった。

 ここに来るようになってから、この時、僕は初めて嫌な気分になった。

 不安感が押し寄せる。

 頭の中で、雪乃さんの「ずっとここに居ていいのよ」という言葉が渦巻いた。

 雪乃さんのおっぱいの谷間が目の前にちらついた。

 

 果てしなく長い時間が過ぎたが、僕はまったく眠れずにいた。

 たぶん、夜中の二時頃だと思うが、、窓の外、遠くの方から、声が聞こえて来た。

 「ほおおう。ほおう」という掛け声のような、あるいは、葬式の時の回し念佛のような声だった。

 十数人の男たちの声が、次第にこの屋敷に近づいて来る。

 「あれはきっとこの山に棲む魔物の声だ」

 僕は恐怖に震えた。

 北上の山々は霊場として知られ、山伏(行者・修験者)たちが今も修行に来る。何百年も前からそうだったから、中には志半ばで亡くなった者も沢山いる。

 この地には、そういう山伏たちの霊が今も山中を歩くという怪談が伝わっていた。

 程なく屋敷の前に足音が響いた。声は続いていたが、傍で聞くとそれは声明の類だった。

 それこそ山伏のなせる振る舞いだった。

 あの山伏の怪談は本当だった。

 僕はあまりの恐ろしさに、部屋のランプを持って、下に降りた。

 居間には雪乃さんがいたが、険しい表情で外の気配を窺っている。


 「あれは何ですか?」

 問い掛ける僕の不安な顔を見て取り、雪乃さんが口を開く。

 「あれは魔物たちよ。シンカの沼底からここまで上がって来たの。ケンジ君を連れ去るつもりね」

 雪乃さんのこの言葉に、僕は肝を潰した。

 あいつらがここに来たのは、僕を連れ去るのが目的だったのだ。

 魔物たちは、玄関の前に立つと、扉をがんがんと叩き始めた。

 雪乃さんがここで呟く。

 「ちくしょう。私の邪魔をしようと言うのか」

 雪乃さんの口から、こんな乱暴な言葉が飛び出るとは思っていなかったから、僕はそのことにも驚いた。

 玄関の扉はハンマーのようなもので叩かれ、次第に傷んで来た。

 扉に穴が開き、外から懐中電灯の光が次々に差し込んで来た。

 ついに扉が打ち破られ、魔物たちが屋敷の中になだれ込んだ。

 雪乃さんが魔物たちに向かって叫ぶ。

 「この子はもう私のものだ。お前たちには渡さぬぞお」

 すると、魔物たちの中から一人の男が前に進み出て、雪乃さんに言い放った。

 「この世と幽界の間に棲む悪霊め。お前にその子は渡さぬぞ。四海の神よ。百鬼を退け、凶災を祓いたまえ。急々如律令!」

 男は「えい」という掛け声と共に、雪乃さんに何かを投げ付けた。この時には分らなかったが、後で考えると、あれは護符のようなものだったらしい。

 すると、雪乃さんは「おおう」という地鳴りのような声を上げて、後ろに下がった。

 それを見たか、男の後ろから、もう一人の男が歩み出て、僕に掴みかかった。

 僕は「ついに魔物に捕まるのか」と観念した。

 男は僕の肩を掴むと、強く揺すった。

 「ケンジ。しっかりしろ。俺はお前の親父だ」 

 男の顔を見ると、言葉の通り、それは僕の父だった。

 この時の僕は頭がぼおっとしてしていたため、上手くものを考えられなかった。

 父は確か組合の集まりで、今日は仙台に行ってる筈だったが、何でここにいるのだろう。

 「眼を覚ませ。ケンジ」

 父は僕を抱き上げると、そのまま歩き出した。

 背後では、最初の男が力強い声で真言を唱えていた。

 

 僕は父に背負われて山を下りた。 

 父はがっちりした体格で、背中が広かったし、すごく温かかったから、僕は何だか安心して殆ど眠っていた。途中のことはあまり憶えていない。

 ただ、シンカの沼の前を通り過ぎる時に、「ほうほう」と梟が啼き、続いて「カカカカ」という声が響いたことをうっすらと憶えている。

 その時、父は「あれは獣や虫の声だぞ。河童じゃねえがらな」と優しく諭すように言った。

 

 僕は家に連れ戻されると、そのまま眠り、次の日は学校を休んだ。

 夕方になると、あの最初の男が家に来たのだが、そこで初めて事情が分かった。

 手伝いのミホは僕が夕方になっても帰って来ぬので、父に伝えて貰うべく組合に電話をした。

組合の方では、仙台にいる父に連絡をしたが、その時、父には咄嗟に閃くものがあったらしい。

父は電話でミホに確認すると、すぐに車を飛ばして、十時頃には家に戻って来た。

 過去の僕の言動から、「息子はきっとシンカに行ったのだ」と悟り、父は姫神山の麓にいる「行者さま」に連絡した。「行者さま」とは、代々、その山の麓に修験道場を開き、日本中から集まる修験者の世話をする家の者だ。

この「行者さま」は、周囲の集落とは関りを持たず、一軒だけで暮らしている。

 当代の「行者さま」は日頃からシンカの奥の「障り」に気を払っていたから、二つ返事で駆けつけてくれた。

 これが屋敷に入って来た最初の男だった。

 夜のうちに魔物から僕を引き戻さぬと、僕もあの場所に囚われてしまうから、村人で捜索隊を組んで、皆で山に登って来てくれたのだった。

 ミホが「社長さんに電話をしたら、『すぐに戻る』と言って、二時間半で戻られたんですよ。絶対にスピード違反してますよね」と笑った。

 すると、父は「なに。息子の一大事だもの。親なら当たり前のことだべ」と事も無げに答えた。

 「だが、ネズミ捕りには捕まったさ。ところが、俺が事情を話すと、その警官は早く帰り着くようにパトカーで俺を先導してくれたっけ。警察の中にもただ取り締まるばかりじゃねえ者もいるわけだな。まだ若い警官だったのに、至極まともな奴だった」

 

 ここで行者さまが僕に向かって言った。

 「ケンジ君。ケンジ君が会ったのは、この世の者ではないんだよ。悪霊がさらに悪くなった奴なのさ。ケンジ君の眼には、きっともの凄くきれいな女性で、この上もなく優しく接してしてくれただろうと思う。でもそれがああいう化け物の手口なんだよ。もしあれに捕まれば、君もあの場所に閉じ込められていた。それには終わりがなく、何十年も何百年も囚われ者の暮らしを送る」

 確かに、雪乃さんは「ずっと独りきり」だと自ら語っていた。

 「あの悪霊は、生前、旦那の医者と揉め事があり、自ら火を放って二人とも焼け死んだ。ケンジ君はあそこに屋敷があると思っていただろうが、実際には何も残っていない。幽界では心に想い描いたことが現実として見えるから、ケンジ君が惑わされたのも無理はない」

 「あそこに家は無(ね)がったのですか」

 ここで父が口を入れた。

 「そだぞ。お前はかつての礎石の跡に頭を載せて寝ていたのさ」

 「なら雪乃さんも」

 「いねさ。あそこにいたのは、かつては女だった化け物だけださ。いいか。ああいう化け物の怖ろしいところは、見る者、見える人にしか見えねえことだ。お前はその女を見ただろう。ここに居られる行者さまも、もちろん、その化け物を見られる。そのための修行をなさっているがらな。だが、俺たちには見えねがったんだよ。気配は分がるけどな。荒れ地に建物の土台が残っていて、礎石の陰にお前が横たわっていた。それだけだ。だが、何者かの禍々しい気配がする。物音がするし、声も聞こえる。お前があのままあそこで寝ていたら、標高が高い場所だから、この季節でも朝までに凍えていたかもしれね。生きている者を幽界(あのよ)に引きずり込んで魂を喰らうのが、そういう化け物の手口なのさ」

 

 怖ろしい話だった。

 僕は雪乃さんと話し、直接その肌に触れた。

 今でも鮮明に触感を憶えているのに、あれは現実のものではなかったのだ。

 ここで「行者さま」が重い口調で言った。

 「今回は退けられたが、完全に退治出来た訳ではなく、ただ遠ざけただけだ。あの世の者はもはや死んでいるから、また殺すことも完全に滅ぼすことも出来ないんだよ。気を許すと、またぞろ姿を現す筈だ。人の世からああいう災いを退けるために、わたしのような者がいる。今も人知れず修行を続けているのは、そのためなんだよ。ケンジ君はどうやら敏感な性質で、あの世の影響を受けやすいようだ。だから、自分でも不浄の地や邪な者には近づかぬよう、充分に気を付けることだ」

 ここで父があることに気付いた。父は割と直感が働く。

 「行者さま。こいつには修行の道には入らせず、普通の仕事に就かせますので」

 父の言葉に行者さまが笑みをこぼした。

 「そうですか。この子は素質があると思うのだが。当家は娘だけだから、後継ぎがいないのですよ」

 「いやあ、コイツにはいずれは学者か大臣になって貰います」

 父は子どもの頃、家が貧乏だったから進学できなかった。そのことが悔しくて、息子には好きなだけ勉強をさせようと思っていたのだ。

 普段はぶっきらぼうな物言いをするが、父は父なりに僕のことを考えてくれていたのだ。

 僕は心底より「この父が僕の父でいてくれて、本当に良かった」と思った。

 

 夏休みが明けて二日目の日に、僕は小学校に登校した。

 昼休みに隣のクラスのケンゾーが僕のところに来て、声を潜めて言った。

 「ケンジ。大丈夫だったか」

 ケンゾーの家は同じ集落にあったから、捜索隊に人を出した。だから、その日起きた僕の失踪事件についてケンゾーはあらかた知っていた。

「うっかり寝ちまったら、眼が覚めたら夜中になっててな。暗くなったらシンカは通れねえじゃねえか。だからその場にじっとしていた」

「え。そうだったのか。俺が聞いた話とはだいぶ違うな」

人の噂は尾ひれ羽ひれが着いて広まるから、それを避けるために、僕は嘘を言った。

それとコイツにも釘を刺して置かねばならない。

 「そう言えば、あの家を覗いた時に、自分だけ逃げた奴がいたっけな。そいつは一体誰だっけ?僕はそいつの分まで酷い目に遭ったんだよな」

 するとケンゾーは「や。思い出したか。こりゃスマンスマン」とバツが悪そうな表情で教室の外に逃げて行った。                (了)

 

 本作は令和五年九月に永眠した父であり祖父である清一の供養のために書いたものです。

 

 ◆(注記)文中の固有名詞は総て架空のもので、実際の人物とは関わりありません。

 

◆あとがき 

 やはり、この話も現実に子どもの頃の体験で似たような事があった(ノボル)。

姫神山の近くまで山道を登って行くと、小山の中腹に山荘があった。別荘だから、夏の一時期にしか人は来ない。もはや秋口でやはり人はいなかったのだが、私は、何だか二階に女性がいて、こっちをじっと見ているような気がした。

その時のどんよりとした気配と来たら、何とも言えぬ嫌な気分だった。