日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第151夜 山で会った女

昨夜、仮眠中に見た夢。

午後4時ごろ、会社の同僚と2人で登山道を降りていると、下から女性が上ってくる所だった。軽装で、小さなリュックを背負い、上は赤い色のTシャツ1枚。勝気そうな顔つきで、最近親に逆らってばかりの娘に似ている。

山の頂上までは、40分くらい掛かるので帰りは6時頃になるだろうと思う。
今からじゃあ、途中で霧が出るだろうな。
なんで、こんな時間帯に女が1人で山に登るんだろ。

疲れていたので、そのまますれ違い、しばらく坂道を下りる。
すると、同僚がオレに声を掛けた。
「頂上付近の崖の所に、岩がグラグラしている所があったけど、霧で見えなくなれば、転げ落ちるかも」
実際、オレ自身が落ちそうになり、少し足首を痛めた。
岩のでっぱりから落ちれば、すぐ外は崖なので、命に係わるかもしれない。
 でも、オレは既に足が限界だ。
「いいんじゃね?今頃上るんだから、自分で気をつけることだよ。気になるなら、お前がもう一度上って教えてやれよ」
オレも同僚も、山は数十年ぶりで、もはや体力的にキツい。
「ま、いっか」

麓に降り、温泉宿でひとっ風呂浴びた後、ビールを飲んでいると、その旅館の玄関でなにやら話し声が聞こえた。
ひとしきり話し声がしていると思ったら、旅館の女将さんが、追加のビールを持って来た。
「どうしたんですか。何やらがやがやと話をしてたみたいだけど」
女将さんは、愛想笑いをしつつ、玄関でのことを説明し始めた。

「さっき来てたのは、隣の民宿のご主人ですが、山登りに行ったはずの女の人がまだ帰って来ないと言ってるんです。でも、ちょっと遠くから見かけただけなので、こっちに泊まっていないかと訊きに来たんですよ。お客さんたちは、降りてくる時に女の人と会いませんでした?」
ああ、面倒くさいことになるなあ。係わりたくない。
同僚に任せようとそのまま黙っていると、その同僚の方も少し渋い表情をしている。
女性が怪我でもしていて、最後にすれ違ったのがオレたちだなんて話しになったら、ややこしいことになるかもな。
「気付きませんでしたね」
同僚も、結局は係わらないことにしたらしい。
そそくさと食事をすませ、部屋で就寝。翌日は朝一番で東京に帰った。
東京に帰ると、またいつもの生活に戻り、山でのこともすぐに忘れてしまった。

3年後、社員旅行でその山に行くことになった。
もうすっかり忘れていたが、さすがに同じ山に登ると、徐々に思い出す。
山道を登りながら、同僚と話をする。
「そう言えば、3年前のあの女はどうなったかな」
「大丈夫だったんじゃね?ニュースにもならなかったんだし」
「そうだよね。きっと無事に帰ったんだな」
そうこうしているうちに、頂上に近付く。
「あの角の所の岩が危なかったよな」
「うん。オレも落ちそうになった」

同僚が先に進み、150センチ四方の岩の所に立った。
「ほら。やっぱり前と同じにゆらゆらしてる。あれ?」
同僚が何事か見つけたようで、岩の先の崖の下を見ている。
「何?」
オレはまだ5、6㍍下にいる。
「崖の下に、なんか赤いものが見える」
同僚の言葉を聞くと、オレはその一瞬、あの時の女の赤いTシャツを思い出した。
「あれって何だろ」
同僚は岩から身を乗り出して、崖の下を覗きこんでいる。
オレは同僚のすぐ真後ろに近付いた。

すると突然、同僚の両肩に真っ白い手がしがみ付いた。
それと同時に薄気味悪い女の声が響いた。
「待っていたぞ~」
同僚の右の肩の上には、紛れも無くあの時の女の顔がある。
黒く腫れ上がった死体の顔だ。
「うわあ!」
恐怖のため、オレは思わず声を上げていた。

女はオレのことを凝視しながら、同僚の方を固く引っ掴むと、ぎりぎりと力を込めた。
同僚はしばらくの間こらえていたが、唐突にしゅんと姿を消した。
崖の下に落ちたのだ。

あの時の女がここでずっと待っていたのか。
やはりあの夜に、ここから落ちたんだな。
「ああやっぱり」という気持ちと、後悔の思いが渦巻く。

でも、次はオレの番だ。
岩の端に女の指が掛かったのが見えた。すぐにもう片方の手もかかる。
女はまた上がってこようとしているのだ。
今度はオレを引き摺り落とすのだ。

指が奇妙に折れ曲がり、力が込められているのが、遠目でもはっきりと見て取れる。
オレは恐れおののきながら、まったく動けずに、ただじっとそれを眺めている。

ここで覚醒。
何を示唆しようとする夢なのかは、まったく分かりません。
山は好きでは無いので、なぜこんな夢を見るのかも。