今朝方、居間でうたた寝をした時に見た夢です。
両眼を開くと、高級そうなマンションのロビーにいました。
目前のソファには、子どもが1人座っています。
5歳くらいの男の子でした。
(お。息子だ。まだ小さいな。)
いつも通り、夢の中にも拘わらず、「今のオレは夢の中にいる」という自覚があります。
「父さん。トイレに行ってきていい?」
トイレはロビーの奥にあります。
「1人で行けんのか?」
「うん」
息子は買ったばかりのゲーム機を握り、立ち上がりました。
「おい。トイレに行くのにも、その機械を持って行くのか?」
「うん」
ま、いいか。好きなようにさせてやれ。
そのままソファに座って考え事をします。
(オレはどうして、ここにいるんだっけな。)
マンションの1階に、息子と一緒に座っている理由がわかりません。
(誰かを訪ねて来たんだろうか。)
自分としては珍しく記憶が曖昧でした。
(今は夢の中だってのに、記憶がないとはおかしな話だ。)
そう考えて、思わずくすっと笑いをこぼします。
「そりゃ、オレみたいに、夢の中で自意識を保ち、総ての夢を憶えているという、変な人間だけの話だろうな」
普通の人は、たまにしか夢を憶えていないみたいだし、夢の中では夢のキャラになり切ってます。
そのまま15分が経ちました。
なんとなく気になり、トイレの方に向かいます。
トイレはロビーの奥の階段の隣です。
トイレの前に行くと、入り口にゲーム機が落ちていました。
「おい。〇〇」と息子を呼びますが、返事がありません。
オレは直感が働く方で、その直感のおかげで何度も致命的な危機を回避して来ました。
そのオレの直感が、「息子は連れ去られた」と言っています。
(さらわれたな。)
すぐに周囲を見渡します。
トイレの反対側の壁に掛けられた時計は、夜の10時を指していました。
階段の傍には、外への出口はありません。
2階には駐車場への通路がありますが、もしそこから出るとなると、車は必ず玄関の前の出口を通ります。
オレはずっと玄関にいたので、そこから誰も出ていないことはわかっていました。
(犯人はこのビルの中のヤツなんだな。)
そう言えば、同じマンションの女性を部屋で殺した事件の話をニュースで見ました。
(あの時は、警察が調べに来る数時間のうちに、女性を殺していたんだっけな。)
「息子を助けるには、いいとこ20分が分かれ目だ」
すぐに玄関の警備室に向かいます。
警備室には、黒人の警備員がいました。
「ちょっと訊くけど、このビルから外に出るには、この玄関と、あとはどこ?」
警備員が意外に流暢な日本語で答えます。
「夜はセキュリティのために、裏の出入り口をロックしますから、この玄関と駐車場の連絡口だけですね。でも、車はこの前を通りますので、緊急の際の非常口くらいしか出口はありません」
オレの考えた通りで良かった。
「じゃあ、まず玄関のドアをロックしてくれる?息子をさらったヤツが中にいるんだよね」
「え。警察を呼びますか?」
「いや。オレが自分で話を付ける」
「でも、ビル全体の住人を閉じ込めると言うわけにも・・・」
警備員が少し抗う姿勢を見せたので、オレはバッグの中から散弾銃を出した。
「黙って、オレの言うとおりにやれよ」
銃を見ると、さすがに警備員も言うとおりに動きます。
「非常口の鍵は内鍵か?」
「はい。でも鍵の覆いをロックしてしまえば開けられません」
「よし。じゃあ、そうしろ」
全館をロックした後、警備室に戻りました。
「緊急放送は出来るんだろ?」
「はい」
警備員がマイクのスイッチを入れました。
オレはマイクに口を近づけ、館内全部に響くように、ゆっくりと話し出した。
「おい。20分前に、ロビーで息子をさらったヤツに告ぐ。無事な姿のまま息子を返さないと、お前の指を1本ずつ切り取ってなぶり殺しにする。このマンションはもう閉鎖してあるぞ。早く下りて来い」
オレが話を止めると、階上で人の動く音がかすかに聞こえた。
オレは警備員に顔を向けた。
「今はこの建物の中には何人くらいいるわけ?」
「ここは社宅用に借りられている部屋が多いですから、部屋は100あっても、人のほうは20人もいません」
「ふん」
オレはもう一度マイクに向かった。
「おい。今度は息子をさらったヤツじゃない人たちに言うぞ。もし自分は関係が無いと思うなら、すぐに1階に下りて来い。下りて来ないヤツは犯人の仲間と見なして殺す。皆が下りてきたら、オレがひと部屋ずつ探しに行くが、もしどこかに人が残っていれば、そいつも殺す。嘘じゃあないぞ」
オレはここで、傍に立っている警備員を散弾銃でズドンと撃った。
「今の音を聞いたろ。警備員が死んだ音だ。早く息子を返すか、ここに下りて来ないと、このビルの中にいる全員を殺す」
ここでオレはひと呼吸置いた。
「息子が見つかる前に警察を呼んだヤツが1人でもいれば、ここの全員を殺す。いいか。サイレンが聞こえたら全員だ。全員殺すのには5分とかからない。警察を呼んだって間に合わない」
ここで、もう一度、銃をぶっ放した。
「我ながら用意が良いな。なんでバッグの中に散弾銃が入っているんだろ」
バッグの口を大きく開いて見たら、あるわあるわ、短銃だの機関銃だの、爆薬まで入っていた。
ここで、オレは自分がなぜここに来たのかを思い出した。
「あ、そうか。オレはここの人間を殺しに来たんだった」
連れてきた子どもは息子ではなく「隠れ蓑」だった。
「ここの知り合いに用事がある」と子ども連れで来れば、大概の警備員はドアを開けるだろ。
子どもはそのために、浮浪者を飯とゲームで騙して借りてきたのだった。
ま、いっか。
どうせ皆殺しにきたんだし、結末は同じことだってことでさ。
ここで覚醒。
「抵抗するヤツはみんな殺す」と言うところは、「許されざる者」のクリント・イーストウッド調でした。