日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第210夜 卒業式

夕食の支度を終え、テレビの前に座ったら、寝入っていました。
その時に見た短い夢です。

暖かいテラスのような場所でコーヒーを飲んでいます。
どこかレストランか、少し高級な喫茶店のような店の2階です。
周囲はガラス窓に囲まれており、外は木枯らしが舞っているのに、ここは暖かです。

テーブルの隣には、若い女性。
向かい側にも、もう1人女性が座っています。
いずれも20歳台前半の風貌です。

「もう卒業だね」
「本当。あと2週間」
てことは、今は3月で、もうじき大学の卒業式ということです。
おそらく自分だけが、別の意識を持っているはずなので、周囲に話を合わせようとします。

「〇〇君はどうすんの?」
隣の女性が訊いてきます。
「オレは進学」
現実の名前と別の名を呼ばれましたが、まあ、夢の中なんだし。
「皆は?どうすんの?」
どうやら、久々に会った同級生たちのようです。

「就職は決まっているけどね」
「なんだかね」
ああ、この子たちは、この店の前の道を500メートルくらい先に進んだマンションに住んでいるんだっけな。
反対側は駅で、たった50メートル。
でも、女子学生たちの顔には、覚えがありません。
名前もわかりません。

「なんだか人生が終わっちゃうみたいな切ない感じがする」
「寂しいよね」
心の中では、プッと吹き出しています。
人生が終わりどころか、まだ始まってもいません。
これから少しずつ、味を噛みしめるようになるのです。
ま、時間はたっぷりあります。

ここで思い出したことがあります。
この場所には、確か自分が付き合っていた女性も住んでいました。
もはや別れてしまっているらしく、懐かしさを覚えます。
(卒業すると、ここから出て行ってしまうはず。きっとあと2週間で今生の別れが来るんだろうな。)

「ねえ〇〇君。私は田舎に帰るんだよ」
これは前に座る女子です。
確か地方のテレビ局だか新聞社に就職するはずです。
この女子の田舎は、私の実家の隣の県です。
「そっかあ。じゃあ、帰省した時に、ちょっとドライブに出れば、会えたりするかもね。分かりよい勤め先なんだし」
もちろん、会いに行こうとは思っていないので、連絡先を訊いたりはしません。
当たり障りのない話をするだけです。

でも、ここで向かい側の女子のことを思い出しました。
大人しくて控えめだけど、よく見りゃ上品な顔立ちです。
私が元カノと付き合っている頃にも、友だちの1人として、一緒に出掛けたものです。
(あの子は元々、このひとの友だちだったんだっけな。)
私が元カノと別れ、もはや仲間でなくなったので、1年前くらいからこの女子学生たちとも話をしなくなっていたのです。

何気なく窓の外を見ると、その元カノが駅から歩道を歩いて来るところでした。
隣には、今の彼氏らしき男が寄り添っています。
ふうん。
この大学で経験したこと総てがひと区切り。
皆はここからいなくなってしまうけれど、私だけはこの場所に留まります。
なんだか自分だけ遠くに行くような、あるいは取り残されるような、複雑な気分です。

店の前の道を、男女2人が歩き過ぎました。
私はコーヒーカップに視線を落とし、スプーンでコーヒーをかき混ぜています。
前に座る女子が、じっと私の表情を見ているのを感じます。

ここで覚醒。

私はまだ若い青年でしたが、今の意識を保っていました。
大学どころか、人生の卒業式が次第に近づいて来ます。
夢にはもの哀しい風情が満ち溢れていました。