日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第224夜 カプセルの女

日帰り温泉から帰宅した直後、疲労から1時間ほど寝入ってしまいました。
これはその時に見た短い夢です。

月の近くで壊れた宇宙船が発見された。
その宇宙船は、長い間、宇宙空間を漂っていたらしいが、岩の塊と区別がつかなかったので、これまで発見されなかったのだ。
宇宙船はいわゆる「宇宙人」の作ったものではなく、人類が星間飛行を始めて間もなくの頃、星雲に向けて航行した船の仲間らしい。
そう、今は昔風に言えば、西暦2400年代になっている。

オレは科特隊の班長だ。
「科特隊」というネーミングは、はるか昔に、地球が「外的宇宙人」に襲われた頃のものらしい。
確か我々地球人を救うために、Mナントカ星雲から、宇宙人が来た頃にそういうチームがあったという話だ。
ま、今では、そんな昔のことはどうでも良い。
歴史は所詮記憶や記録に過ぎず、大切なのは「今をどう生きるか」ということだ。

半壊した宇宙船の中を探索すると、中に小さなカプセルがあった。
避難用カプセルらしく、どうやら中には生物がいる模様。

オレはひとまずミッドシップにそのカプセルを回収した。
ミッドシップは、アルファケンタウリくらいまでなら航行できる中型宇宙船だが、全長が200辰靴なく、小回りが利く。

カプセルに近づいてみると、寸法は3短擁?靴なく、仮に中に人間がいたとしても1人しか入れない。
「こりゃ、緊急避難用のポッドかもしれんな」
しかし、過去の記録を確かめても、こういう型が存在した記録は無い。

「チーフ。カプセルの表面になにやら文字が書いてあります」
若い研究員のハヤシが、オレに報告した。
「じゃあ、その字面をコンゴウ博士に送って、解読してもらえ」
コンゴウ・リキシ博士は、宇宙語の権威で、人類が他の星に行った後に出来たほとんどの言語を解読できる。
「オレたちはとにかくこのカプセルを開こう」

カプセルは二重になっており、外の殻のような覆いは簡単に開いた。
すると、中にも小型のカプセルがあった。
「チーフ。窓があります」
ハヤシの言うとおり、インナーカプセルには小窓が開いていた。
「人だ。それも若い女だ」
カプセルの中には、黒髪の女が眠っていた。
「生きているのでしょうか?」
「生きてるさ。ホレ。生命維持装置が動き始めた」
カプセルは外殻が外されると動き出す仕掛けになっているらしく、ウインウインという音を立て始めていた。

数分すると、中の女が身じろぎをして、さらに数分後にはその女は眼を開いた。
その女は我々の顔を見ると、何事かを口走った。
「チーフ。なんて言ってるんでしょ?」
「この女性の遣う言語は分からなくとも、何を言っているかはわかる。こういう時に言う言葉は『開けてくれ』だろう。願いどおりに開けてやるさ」

カプセルを開くのに、1時間ほど時間がかかった。
扉が開くと、若い女は起き上がろうとするが、長い間眠っていたために筋肉が動かない。
救護班が駆け寄り、女の手足にマッサージを始めた。
血行が良くなり、多少なりとも手足が動くようになるには、少なくとももう1時間はかかる。

しばらくすると、リンリンと呼び出し音が鳴った。
今では携帯電話は小指の先ほどの大きさで、昔で言うイアリングのように耳たぶに付いている。
コンゴウだ」
「これは博士。早速、解読できましたか」
「ああ。定型句みたいなものだからね」
「どういう意味でした?」
「まず冒頭は『絶対に開けるべからず』だ」
「は?」
「長々説明が書いてあるが、かいつまんで簡単に話すよ」
「はい」
「まずその女のことだ。その女は犯罪者だ。人類が到達した最初の星で、最初に凶悪犯として掴まった女らしい」
「何をやったんですか?」
「殺人。そいつはその植民星に住むようになった第二世代だが、そこの放射能だか何かが影響して、おかしくなったらしい。8歳の時に周りの人間を殺し始めた」
「人殺しですか。それで追放になり、あの宇宙船に乗せられたのですね」
「そう。その女は人を殺しただけでなく食っていた、と書いてある」
「殺して食ったわけですか」
「そうだ。親を含め、40人は食ったらしい。だから・・・」

本当に嫌な話だ。開拓民として、さんざ苦労して別の星に辿り着いたのは良いが、そこで生まれた自分の娘に食われるなんて。最悪だよな。
ここで、コンゴウ博士が話を続けた。
「だから、絶対にその女を逃がしちゃあダメだ。そいつが人殺しを始めたのは6歳の時。捕まったのが8歳の時だ。それから追放されて長い間宇宙をさまよっていただろうが、勘定してみると、概ね今は23歳くらいだ。もはや大人の猛獣だ。悪賢さはその頃とは格段に違うぞ。そのカプセルは半覚醒型だし、今は餌を食いたくてたまらない状態だろ」
「腹の空いた猛獣ですか」
「絶対に開けるなよ。そのままカプセルに入れといて、出来ればまた宇宙に戻せ」
「え?そんなことを言ったって・・・」
「バカ。もう開けたのか!」

オレが後ろを振り向くと、カプセルの周囲にいたはずの十数人の姿が消えていた。
おまけに、カプセルの向こう側から、なにやら「しゅるしゅる」という音が聞こえてきやがる。

ここで覚醒。

自分の命も「もはやあと1、2分」と覚悟した瞬間に目が醒めました。
星新一さん調の夢でした。