日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第272夜 記憶再生装置

子どもたちの帰省のため、車で郷里まで送りました。
親は蜻蛉帰りで、1泊3日の行程でした。
さすがに疲れ、帰宅後はすぐにグッタリと寝ました。
これはその時に観た夢です。

目が醒めると、テーブルの前には18歳くらいの女の子が座っている。
肩までの長さの髪。
美人とまではいかないが、スッキリした顔立ちだ。
古い方の「チャーリーズ・エンジェル」に出ていたケイト・ジャクソンという女優に少し似ている。

「あ。恭子ちゃん」
座っていたのは、オレの幼馴染みの恭子ちゃんだ。
「て、ことは実験は成功したのだな」
横を向くと、ガラス窓にオレの姿が映っている。
オレも同じくらいの年恰好だった。

自分の腕や足を触ってみる。
リアルな感触だ。
本当は記憶を辿っているだけの筈なのに、今起きていることのような錯覚に囚われる。
本当のオレは、今は記憶再生装置の中にいる筈なのに。

これまでの経緯はこうだ。
2017年に米中戦争が起き、世界の大半が死滅する。
その発端は、本当にバカらしいことに、中国軍の1兵卒の無謀な挑発から起きたのだ。
中国軍は統制が行き届いておらず、時として兵隊が勝手な行動を取る。
7、8年前にも、パイロットが挑発的に日米の軍機に異常接近したり、レーダー照準を当てたりしたので、「予期せぬ事態」の危機が叫ばれていた。
軍がコントロールできていないのに、頭には政府の情報操作で反米や反日が叩き込まれている。
ならばいずれ危機が現実化することになる。
こういうパイロットが乗る中国軍機が、例によって挑発行為を行った。これに米軍機がすぐさま対応したが、それに対し再度中国軍機が過剰反応して、実弾を発射してしまった。
米軍機がこれを追撃して、空母の近くまで追うと、中国海軍では「攻撃されている」とみなし、本格的な交戦が始まった。
空母はあっさり撃沈。中古の船体に不慣れな乗組員だから、それも当然だ。

すると、あろうことか、中国軍はすぐさまミサイルを発射したのだ。
戦争は先手必勝だが、とりわけ核攻撃はその最たるものだ。
世界のどの国も、核兵器を使用するには複数のトップの合意が必要だが、中国だけは海軍の独断でそれが出来る。
米国本土に達したのは20発中3発。逆に中国には12発が着弾した。かろうじてニューヨークは残っているが、北京の周囲200キロはもはやただの窪地だ。

オレはこんな状況を打破するために、2021年の世界から1980年代に送られたのだ。
でも、もちろん、これはタイムマシンじゃない。
宇宙は一刻一刻と拡大しているので、時間を遡ることはできない。全宇宙を元の位置に戻すことが必要だからだ。
じゃあ、パラレルワールドは?
「可能性がある」のと、「存在する」のとは違う。
リンカーンが生まれなかった世界を、リンカーンが存在した世界の住民がいくら妄想しても無意味だろう。
別な世界を作り直すってのは、タイムマシンよりも多くのエネルギーがいる。

そこで開発されたのが、記憶再生装置だ。
時間は、砂漠に新しい川が出来る時のように、道を模索しながら進んでいる。
結果として流れなかった道でも、うまく壁を崩せば、新しい川筋になる。
過去に戻ったり、作り変えたりすることは出来ないが、触手のように伸びた過去の水先を知ることで、別の未来に進むことが出来るのだ。

受精の後、人間の形になるまで、人は進化の過程を最初からやり直すが、これはすなわち、あらゆる記録が遺伝子の中に残されていることを示している。
すなわち、人間こそ「最高の記憶装置」なので、この記憶を辿って、過去に遡れば、必ず現状を改善するヒントが隠れているわけだ。

放射能に汚染された今の世界の状況は、動かし難い事実だ。
戦争から4年が経ち、世界はいよいよ死滅に向かっている。
しかし、人類の記憶の中には、「放射能除去装置」や「抗放射線薬」など、今の問題を克服するためのヒントが埋もれているかもしれない。
2年前には、鶏の遺伝子から恐竜が作られたが、これは記憶再生によって得られた知見によるものだった。

オレが送られたのは1980年代。
ここで漫画の世界から情報を集めるのが、今回のオレのミッションだ。
もちろん、オレ自身の記憶を遡るわけだが、その端々にオレが考え感じたことだけでなく、数多くの情報が眠っているので、それを集めるということだ。
しかし、問題もある。
記憶は起こっていた事実とは別だからだ。
起こったことを見聞きして、頭脳で整理するわけだが、その時に、自分なりに情報が作り変えられるのだ。
このため、記憶再生装置の中で起きる出来事は、実際に起きていたことと少し違うことがある。

たとえば、今の状況は、オレは経験したことが無い。
オレは高校を卒業すると、すぐに東京に出て、それから十年間は恭子ちゃんには会っていないのだ。
これはかなりややこしい。
「恭子ちゃん」
恭子ちゃんが顔を上げる。
「何?」
「恭子ちゃんは、これから3年後に、ある男と出会って結婚する」
「え?何のこと?」
「これから先の人生で起きることを教えてあげてるんだよ」
「・・・」
わけが分からないのも当たり前だ。
だが、いつまでこの記憶の中にいられるか分からないし、2度と戻って来られないかもしれない。
今のうちに言っておこう。

「その男との間に娘が1人できる。しかし、ダンナは40歳を過ぎたところで病気で死ぬ」
その後、何年か経ってから、オレと再会し、そこでオレたちは結婚するのだ。
恭子ちゃんは、今はオレの新妻だが、これはオレにとってすれば既定の事実だった。
ちなみに、オレの方は3度結婚と離婚を経験していた。ま、女にだらしがなかったわけだ。

「いずれは結婚するんだから、最初からオレと結婚してくれ。そうすれば、結婚式が1度で済む。今思えば、昔から恭子ちゃんが好きだった」
頭の中は既に中年なので、この辺、オレは丁寧な言い方が出来なかった。
少し言い直そう。
「もとい。オレはこれから先も恭子ちゃんの近くにいたい。だから、将来のことを見据えたうえで、オレと付き合ってくれないか」
これなら、分かりやすいだろ。

「嫌よ」
「え?」
いずれは、オレと結婚するのに。
「ケンジ君は近すぎるもの。兄妹みたいな感覚になってる。男としては考えられないよ」
トホホ。兄妹感覚が抜けるまで30年も掛かるっての?

ま、仕方ない。
恭子ちゃんがオレの妻になるのは、実際のところ、30年近く先のことだ。

ここで少し、我に返る。
今のこれもかつて経験したことじゃあない。
すなわち、記憶が独り歩きしているのだ。
そうなると、過去の記憶をなぞるだけではなくて、模索することも可能だってことかも。

ここで、オレは腕にはめたタイマーを見た。
1回の実験が1時間だから、そろそろ覚醒の時間だ。
「恭子ちゃん。今の恭子ちゃんにはわからないだろうけど、いずれオレたちは一緒になる。散々回り道をするけどね。だから・・・」
「だから?」
タイマーの色が赤に変わる。もう帰還時刻だった。

「だから、予行演習で、チューさせてくれ」
この時、恭子ちゃんの右の眉がきゅっと上がった。
「バカヤロ。このスケベ」
強烈なパンチが飛んでくる。
恭子ちゃんは八百屋の娘で、すこぶるはっきりした性格だった。

ここで覚醒。

「八百屋の恭子ちゃん」は現実には存在しません。
しかし、なぜか、中学生くらいの頃から、時々、夢に出て来る人格です。
このため、「幼馴染み」として、現実にいたような錯覚を覚えます。
卒業アルバムの中に「恭子ちゃん」がいないのが不思議に思えるほどです。

最後は目覚めが近かったので、展開をはしょった模様です。
トイレが近かったのだろうと思います。

うまく組み立て直すと、面白くなるかもしれません。