日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第263夜 人間もどき

具合が悪くなり、少しの間意識が飛んでいました。
気がつく直前に観た夢です。

オレは研究者だ。
生命化学が専門だが、これまで誰も考えなかったことに気がついた。

あの3年前の「審判の日」に、死者が多数生き返った。
この時は、世界中が一致協力して死者たちと戦い、なんとか大半を退治することが出来た。
生き残った死者たち(?)は森に逃げ込んで、もはや姿を現さなくなったのだ。

人類の敵として現れた死者たちだが、実は使い道があった。
あの変貌はウイルスによるもので、死後7週間以内の死者だけが甦った。
(この辺は何でもかんでも墓から生き返るようなゾンビ映画とは少し違う。)
あれは、ウイルスが死者に作用したからああなったのであって、生きてる人に対しうまく工夫すれば、不老不死の方法が見つかるかもしれない。
そう思いついたのだ。

そこでオレはブラジルのジャングルに飛び、「生ける死者」を数人掴まえた。
その死者たちからウイルスを採取して、まず最初にそのウイルスを退治するワクチンを作った。
その次に、そのワクチンの効力を弱め、ウイルスを生かさず殺さずの状態に置くことに成功した。
この薬は、新陳代謝の働きを弱め、心臓をゆっくり動かす効果がある。
動物の寿命は、心臓が打った鼓動の数で決まる。
心臓の鼓動が早い動物の寿命は短く、ゆっくりな動物は長生きをする。
ゾウやクジラの寿命が長いのはそのせいだ。

この発見でオレは有頂天になった。
動物実験の成果を待っていたら、十年以上の時間を要するので、オレはすぐに人体実験に入ることにした。
もちろん、誰か被験者を掴まえて、実験を無理強いしたりするわけじゃない。
オレは悪魔の科学者じゃあないからな。
簡単に言えば、自分自身で確かめることにしたのだ。

そこで第2号ワクチンを自分自身に打ってみた。
これはもの凄く良い気持だった。
麻薬のような作用をするらしく、すこぶる高揚感がある。
この感覚が落ち着いたところで、2度目のワクチンを注射した。
これで完全に「死なない体」になるはずだ。

実験に立ち会ったのは、政府の役人の男女2人だ。
1人は監視役で、1人は会計だった。
国の金を使うので、経費のチェックが厳しいのだ。
その辺はお役所仕事で、実に笑える。

ベッドのオレが目を醒ますと、男が覗き込んだ。
「どんな感じだい?」
オレは半身を起こした。
「もの凄く気分が良い。目が良くなったのか、灯りがやたら眩しいけどね」
「じゃあ、少し暗くする?」
「ああ。半分で良いよ」
体の向きを変えて、足をベッドの脇に垂らす。

「スゴい」
女がため息を漏らした。気づかなかったが、女はオレの足の方に立っていた。
「脈拍が1分間に5回だけだわ」
「落ち着けば、もっと遅くなる筈だよ」
オレはゆっくりとベッドの脇に降り立った。

「やはり顔色は青いね。脈拍が少ないからかな」
男がオレの顔を見ている。
「そりゃそうだよ。血があんまり通っていないわけだから、真っ白のままだろ。もうこれからは化粧は必要がない」
冗談のつもりだったが、さすがに笑えない。
「体が冷たくなってるだろうけど、力は出せるの?」
心臓があまり動かないのだから、体温だって下がる。オレの手足はすっかり冷たくなっていた。
試しにオレはベッドの下に手を入れて、力を込めてみた。
ベッドが片手で簡単に持ち上がった。
「スゲー」
力がやたら強くなっていたのだ。

「その辺はゾンビと違うね。失礼。ゾンビという言い方は不味かったな」
「別にかまわんよ。生ける死者から採取したウイルスだもの」
「心臓がゆっくりなのに運動能力が高まるなんてことがあるのだろうか。他はどんなことが出来そう?」
体が軽いので、飛んだり跳ねたりも難なく出来そうだ。
試しに飛び上がってみる。
軽く天井に届いた。そればかりか、天井にへばりつくことも簡単だった。
「ヤモリみたいだね」
「スゴいですね」
男女がパシパシと手を叩きながら、オレに歩み寄る。
「これで先生は億万長者だな。と言っても権利の6割は国のものだけどね」
「先生を他の国の諜報機関に誘拐されないようにしなくちゃね」
「まったくだ」

オレがゾンビに変貌しないことがわかったので、2人が間近に近づいた。
「でも、何か副作用のようなものは無いのかしら」
「今のところ、何も感じないね」
「何か食べます?」
「フレッシュな人肉は無いけどね」と、男がチャチャを入れた。

もちろん、エネルギーをあまり消費しない体なので、食欲はほとんど無い。
「何も食べたくないな。少し喉が渇いたけれど」
女が頷く。
「何か飲みますか。ジュースとか、ミルクとか」
「まずカーテンを閉めてくれないか。なんだか一層眩しくなってきた」
「はい」
女が窓に近づき、カーテンを閉める。
「野菜ジュースかトマトジュースはあるの?あんまり甘くないヤツ」
「オレが持ってきてやるよ」と男が冷蔵庫のほうに向かった。
男がトマトジュースを入れたコップを持って来た。
「ああ。急に喉が渇いて来た」
コップを受け取り、ごくごくとジュースを飲んだ。
「不味い」
そう言えば、オレはトマトジュースが嫌いだった。

オレが顔をしかめるのを見ながら、男が呟く。
「何の副作用も無く、寿命が延びて身体能力が高まるのなら、言うことは無いよな」
「本当ですよね」
オレはここで小さく首を振った。
「そんなに良いことばかりじゃないだろうな」
声が小さかったのか、2人が耳を寄せて来る。
「え?何て言ったの?」

ここでオレは2人の喉を左右の手で同時に引っ掴んだ。
「今は耐えられないくらい喉が渇くんだよ」
それから、オレはその2人の喉を噛み千切って、順番に血をすすった。

ゾンビに変貌することは無かったが、オレは別の恐ろしいものに変わっていた。
こうしてオレは不死となり、闇の世界に生きる者となったのだ。

ここで覚醒。

心臓の発作が出てから、意識を失うまでが1分もありませんでした。
これでは薬に手を伸ばすことも出来ません。
目覚めた時には、手足に血が通っておらず、感覚を取り戻すまでかなりの時を要しました。
そのせいで、吸血鬼のイメージを得たのだろうと思います。
筋はありきたりですが、体の感覚にはリアリティがありました。