日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第285夜 治療  (その1)

スプリンターズステークスを見ようと、テレビの前に座ったのですが、レースが始まる前に寝入ってしまいました。
これはその時に観た短い夢です。

眼を開くと、机を挟んで、男と向い合せに座っていた。
男は50歳くらいで、白衣を着ている。
男が口を開いた。
「では、この治療についてご説明します」
(「治療」だと?じゃあ、このオヤジは医者なのか。)

「浅香さん。あなたの薬物依存症を直すには、あなた自身の思考に、薬物への嫌悪感を植え付けてしまうのが一番の近道です。このため、まず初めに、あなたの記憶をひも解いて、あなたが最も嫌っているものを探します。次に、それを薬物のイメージに重ね合わせ、薬物のことを思い出す度に、必ず嫌悪感を覚えるようにセットします」
 なるほど、「パブロフの犬」の逆だな。
 餌を与える時に、必ず鈴を鳴らすようにしていると、犬は鈴が鳴っただけでよだれが出るようになる。
 それと逆で、このオレがシャブや大麻のことを考える度に、オレの嫌いなものが重い浮かぶようにすれば、否応なしに手を出さなくなるわけだ。

「とりあえず、軽いもので練習してみますか?」
「え?どうするんですか」
「浅香さんは、お酒を飲まれますか。飲みますよね。それもかなりたくさん」
「ええ。まあそうです」
「程々なところで止められれば良いと思ったことがありますか?」
 確かに、オレは薬物だけでなくアルコール依存症の治療も必要だな。
「はい。断酒までいかずとも、少な目で済むようにはしたいです」
 ここで医者が身を乗り出す。
「それなら簡単ですよ。すぐ処置できます。やりますか?」
「じゃあ、お願いします」

 医者はオレを治療用ベッドに寝かせると、深呼吸をさせた。
「手始めに催眠術でやってみますね。これは1週間程度で解けますから、そのつもりで」
「はい」
「浅香さん。まずお名前を言ってください」
「アサカ・リュウです」
「目を瞑って。まずは好きな動物を思い浮かべてください」
 言われるまま、オレは両目を閉じた。
「馬かな」
 オレはバクチも好きだった。動物と言えば競馬ウマだろ。
「どんなところが好きですか?」
「つやつや光る毛艶とか、きれいですからね」
 馬が疾走するイメージが頭の中に湧き起こる。
「じゃあ、嫌いな動物は何ですか?」
 オレは5秒ほど考えさせられたが、程なく思い出した。
「鶏ですね」
「どうしてですか?」
 これにははっきりとした理由がある。
 オレが小さい頃に、近所の農家の息子と遊んでいた時のことだ。
 農家の庭を走り回っていたら、そこで放し飼いにされていた雄鶏を踏みつけてしまったのだ。
 雄鶏は怒り狂い、子どもだったオレを追いかけ回した。
 そのせいで、鶏の無表情な目つきには、今だに嫌悪感を覚えるのだ。
 
「ああ。それにしましょう。じゃあ、目を開いて上の灯りを見て」
 オレが目を開くと、顔の上にライトが当てられていた。
「じゃあ、一から十まで、ゆっくりと数を数えましょうね。はい」
 医者に言われるまま、声を出す。
「いち。にい。さん。よん」
 脇で医者が何事かを言っていたが、十まで行きつく前に、オレは気を失っていた。

 オレが次に目を醒ますと、催眠療法は終わっていた。
「良いですよ、浅香さん。あなたは暗示にかかりやすい性格ですね」
「そうなんですか」
 医者は机の下の引き出しを開け、何かを取り出した。
「じゃあ、治療が成功したお祝いにワインはいかがですか」
 医者が差し出したのは、高級なワインとグラスだった。
 病院が繁盛しているせいか、なかなか良いワインだ。
(この医者め。手が空いた時にはこの引き出しを開けて、コイツを飲んでいやがるな。)
 医者がグラスにワインを注ぐ。
「どうぞ。飲んでください」

 オレはグラスを受け取り、自分の口元に運んだ。
 鼻の近くまでグラスを近づけ、まずは香りを嗅ごうとする。
 その時、オレがグラスの口を覗き込むと、あろうことか、中から急に鶏が顔を出した。
「うわあ。なんだこりゃ」
 オレは思わずグラスを取り落した。

 医者は自慢げな表情でオレに言い放った。
「なかなかの効き目でしょ。ワインという言葉を聞いても、ボトルを直接見ても何とも思わないが、口に運ぼうとすると、あなたの嫌いな鶏が顔を出すのです。スゴイでしょ」
 冗談だろ。
 オレは自分でワインをグラスに注ぐと、それをもう一度口に運んだ。
 すると、ワイングラスからは、でっかい雄鶏の頭が飛び出してきやがった。

(続く)
 晩ごはんの支度と片付けの後に、続きを記します(苦笑)。