日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第299夜 籠城 その2

忘れぬうちに「続き」です。

俺は元々、この家の執事頭だったから、いつの間にか前に出て指揮を取っていた。

「平八、大丈夫か」
ついさっきまで、平八は苦しそうな顔をしていた。
「はは。今はそんなことを申しておられまい」
やはり顔色は青いが、張りが戻りつつあるようだ。
「よし。皆はまず四方の館門を固く閉じてから、武具を中庭に集めてくれ」
「おうさ」
今は皆が隠居しているので、「幼馴染み」としての振る舞い方になっている。
「俺は姫様にお目通りして来る」
「うん。我らは戦の支度をして置こう」

すぐさま俺は本館に向かい、殿中に上がった。
あえて廊下を足音高く踏み鳴らしながら、俺は奥に進む。
今は家臣に取り次いで貰う暇がないため、誰か近しい身内が来たことを知らしめるためだ。
「姫!姫様。大山勘兵衛が参りました!廊下に控えておりますので、お支度が出来ましたらお目通り下され」
戸板の向こうで、人が動く気配がある。
そのまま廊下に立っていると、すぐに戸が開いた。

「勘兵衛。近う寄れ」
秋姫の声だ。
俺は視線を下げ、目を合わせぬように前に進んだ。
秋姫の手前三間の所で足を止め、座礼をして頭を低くする。
「面を上げよ」
顔を上げて前を向く。

ここで俺は少し驚いた。
秋姫が戦装束を身にまとっていたからだ。
「秋姫様。ご承知でしたか」
これに秋姫は「ふふ」と笑った。
「なに。じじの声は大きいから、中庭の話し声でもここまで届く」
(さすがは孫七郎殿の娘だ。周りのことがよく見えておられる。)

秋姫は十七歳。ひとり娘ゆえ、男勝りの気性と噂されるが、外見でそれは窺い知れぬ。
見た目はしとやかな美女だ。
(女子にしておくのは惜しいが、ここは女子としての身の処し方を伝えねば。)
俺は自分の懐に差していた短刀を秋姫の前に差し出した。
「姫。これを」
秋姫はじっと俺の眼を見詰め、次の言葉を待っている。
「敵は五百を超えまする。こちらはせいぜい十数人。攻め落とされるつもりは毛頭ござらぬが、もしもの時のお覚悟は必要でござる」
もし館門を破られれば、敵が中に侵入してくる。
その時、相手がどれくらいの身分の者かで、姫の運命が決まる。
もし、この攻めをここの館主より下位の身分の者が指揮していたなら、姫は捕虜となり、敵方の城主の許に連れて行かれる。そして、敵の城主か近しい者に凌辱される。
もし、城代挌の役位の者が攻め手の中心にいれば、姫は戦利品として直ちにその場で凌辱されてしまうだろう。高位の者であれば、それくらいの裁量権は持っている。
いずれにせよ、若い女であれば誰かに犯されてしまうのだ。
(もちろん、そんなことを許すわけにはいかん。)
「もし、敵が侵入して参ったなら、これで・・・」
さすがに、自害してくれ、とまで口には出せない。
姫ももちろん、俺の言わんとするところは承知している。
「分かった。そちの申す通りにしよう」

俺の要件はこれだけだ。
今は戦の支度を整えなくてはならない。
「では、それがしは防備に回ります」
俺が立ち上がると、秋姫も同時に腰を上げた。
「姫?」
姫はすたすたと歩み寄り、俺の隣に肩を並べた。
「守りの手は幾らあっても十分ではあるまい。私も参る。私の火縄の腕は承知しておるな?」
俺はすぐさま拝礼を返した。
「御意のままに従います」
姫の腕は知っている。父親の孫七郎さまも、この秋姫も、俺が手ずから教えたからな。

二人揃って本館を出て、中庭に戻る。
中庭には、槍や刀、火縄と弓が積まれていた。
「これだけか」
「うん。お屋形様の出陣で、粗方持って行かれたようだ」
俺は二度頷いた。
「これでは半日と持たぬな。ま、今は不平を申しても始まらない。この場、この手勢、そしてこの武器でやれる手を考えよう」
ここで俺は姫に向き直る。
「姫。それがしどもは、これより策を講じますゆえ、しばし、あちらでお休みください」
この言葉が聞こえたのか、従者の一人が駆け寄って来て、姫を本館の庇の下に連れて行った。

武器の小山を取り囲み、隠居侍たちがそれぞれに腕を組んだ。
「ちと難題だな」
「うむ」
平八が俺のことを頭から足まで眺め、口を開いた。
「勘兵衛殿。何だか貴殿は楽しそうだな」
そりゃそうだ。俺はもはや年寄りだが、しかし今この時ばかりはこの年寄りが必要とされ、さらに役にも立てる時だからな。
平八が言葉を続ける。
「皆もだ。皆、顔の表情が生き生きとしているではないか」

ここで、中断。

なんだか行けそうな感じになって来ましたので、真面目に書いてみることにしました。
夢が出発点ですので、設定などは、だいぶ変える必要がありそうです。