深夜、DVDを見ようと思ったのに、予告を見ているうちに眠り込んでいました。
これはその時に観た夢です。
自分の部屋で横になっている。
幾らかは目覚めているが、まだ半分以上、眠っている状態だ。
薄目を開くと、窓の外が少し明るくなって来ている。
朝方だな。
オレはこれから目覚めようとしているのだ。
視野の端に障子が見える。
「あれ?ここは」
オレが高校生の頃まで暮らしていた部屋だ。
今は倉庫のはずだが。
(なるほど。今は夢の中だ。こないだ、この家に行き、2階に置いてある太鼓にシートを被せて来た。
それで、この家のことが夢に出て来たのだ。)
て、ことは、オレは高校生くらいになっているのだな。
机の上の参考書を見ると、中学生用だった。
窓がほんの少し開いているらしい。
そうそう。いつも数センチくらい開けていた。
よほど真冬でなければ、いつもそうだった。
その窓の隙間から、梅の花の匂いが漂って来る。
これは、隣家の庭にある梅の樹だ。
樹齢百年を超えるこの樹は、人が3人かかってようやく手が回るくらいの太さになっている。
「良い匂いだ。もう春が来てるのだな」
体は横になったまま、意識だけがその梅の樹の近くに飛んでいる。
オレは空中に漂って、根元の地面を眺めていた。
まだ、あちこちに霜が見える。
春が来ようとしているが、まだまだだ。
幹を順々に見上げて行くと、樹皮の隙間にてんとう虫が隠れていた。
コイツもこうやって、寒い冬をしのいで来たのだ。
高さ2メートルくらいの空中を漂って、隣の畑を回り、国道の方に向かう。
ここは田舎なので、車がほとんど通らない。
薄明かりの中、オレはそのまま空中に留まってぼんやりしていた。
ものを考えるでもなく、ただぼんやりと周囲を眺めているのだ。
国道のはるか先に人影が見える。
北側の4百辰らい先には坂があるが、その坂を上って来たらしい。
お坊さんのような、あるいは山伏のような装束を身にまとっている。
近くには昔から山伏が修行する山がある。
このため、時折、夜昼関係なく、道を修験者が通り掛かるのだ。
山伏が百辰らいのところまで近づいた。
こちらに歩いて来るのは、男だった。
50歳台だろうか。
眉間に皺を寄せて、前だけを見詰めて歩いて来る。
その形相がスゴイ。
オレはその男の形相に圧倒され、空中を後退した。
国道から20嘆爾った家の玄関の前まで戻る。
「これであの男と向き合うことは無いだろうな」
少しホッとして、やはり空中に浮いてじっとしている。
男が前の国道を通り掛かる。
やはり、進行方向の先を見据え、歩き去ろうとする。
横顔が、すぐに背中に替わった。
「この先を左に曲がり、山に向かうのだろうな」
そう思いつつ、ぼんやり眺めている。
すると、男が急に立ち止まった。
数秒間そのままの体勢で、じっとしている。
まるで、辺りの気配を探っているようだ。
男が振り向く。
顔の色が赤黒い。
怒っているかのように、鋭い視線だ。
その男はオレを見つけ、こっちに向かって歩き出した。
なんだか、とってもヤバそうだ。
オレのことを掴まえに来るような気がする。
オレは玄関の前を上に飛び上がって、窓の隙間から自分の部屋に戻った。
部屋の中央には、オレの体があったが、その中にひゅうっと入り込む。
男の気配が近づいて来る。
男はオレの家の玄関の前まで来ると、そこで立ち止まる。
それから、上を見上げ、そのままじっとしていた。
「ははあ。オレが体に戻ったので、直接には関われなくなっているのだな」
だから、すぐ間近にいるのに、それ以上近寄って来ない。
少し安心したが、しかし、オレの方もまったく動きが取れない。
自分の体の中に固まったまま、縮こまっている。
男の威圧感が凄い。
ここで、オレは今の事態に気がついた。
「あれは到底、生きている人間ではない」
自分だって、ついさっきまで肉体を抜け出ていたわけだが、その辺には矛盾を感じない。
「このままでは、取り憑かれるか、連れて行かれる」
廊下を隔てた隣の部屋では父が寝ている。
父に追い払って貰おう。
起き上がって、父を呼ぼうとする。
しかし、体が動かない。
意識だけなら簡単だが、生きている父を呼ぶには、肉体を動かし、声を出す必要がある。
「いつもこんな重い物を意思の力で動かしていたのか」
魂だけ飛ばすのは簡単なんだけどな。
足が立たないので、這って廊下を歩き、両親の部屋に行く。
やはり父は寝ていた。
父をゆすり起こし、「外に男がいる」と伝えた。
外にいるのは幽霊なのだが、さすがにそうは言えない。
父はオレのように幽霊を見ないし、信じてもいないからだ。
父はすぐに目覚め、「泥棒か?」と呟いた。
父はさっと起き上がり、廊下に出て、階段を降りようとするが、何かを思いついたのかオレの部屋に来た。
入り口には野球のバットが置いてある。
父はそれを取ると、階下に降り、玄関を開けた。
程なく、父が戻って来た。
「別に誰もいないぞ。夢でも見たんじゃないか」
感覚を研ぎ澄ますと、父の言葉は本当で、外の気配は消えていた。
助かった。
父のように、幽霊を信じず、何とも思わない者は、向こうからの影響を受けずに済む。
まったく性質の異なる圧力(かエネルギー)を発しているので、向こう側のヤツらを遠ざけることも出来るのだ。
オレのように中途半端な感覚を持つ者は、始終、あっちの側の存在に影響されっぱなしなのだが。
これでまた眠れる。
そう思ったら、急に眠くなってきた。
ここで覚醒。
昔、実際に経験した出来事を追体験する夢でした。
夜中に眠れないことが多かったので、仕方なく、自分の回りの状況を想像したり妄想したりしていました。自分の体から東西南北に向かって20~30知イ譴申蠅乃きていることを、順番にゆっくり想像するというものです。
これに慣れて来ると、猫の歩く足音や、虫の小さな呟きまで聞こえて来るようになります。
実はこれが、第六感を研ぎ澄ます訓練方法だったようです。
横になって、遠くの音に耳を傾けていると、自然のものではない物音が混じっているのがわかります。
これが始まりで、じきに、様々な異変が目に見えるようになります。
もちろん、その殆どは妄想です。
妄想であって欲しいです。