日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第322夜 真実の口

夕食の後、居眠りをした時に観た夢です。

オレは30歳くらい。
3つ年下の彼女がいる。名前は由香里だ。
年齢的に「そろそろ」の感じだが、まだ結婚の話題が出たことはない。
それでも、由香里の方はさすがに意識しているらしく、「そのうち両親と食事」する約束をした。

郊外に新しいテーマパークが出来たので、2人でそこへ出かけた。
世界中の様々な名所を模した観光施設だ。
関東某所のワールドスクエアに少し似ている。

天安門万里の長城を過ぎると、公園広場があった。
中央には噴水があり、水が噴き出ている。
「ここはどこだろ?」
「イタリアじゃないの。小銭が沢山落ちてる」
泉の中にお金が見えている。

「『ローマの休日』は良かったよな。オードリーが清楚で」
「昔の映画でしょ。観たことがあるの?」
当たり前だよ。アクションなら『七人の侍』、恋愛映画ならこの『ローマの休日』だ。
「まあね」
良かったよな。それぞれの思いが切なくて。
まあ、今じゃ、オヤジの心持の方がわかるようになってきた。

「あれ。あっちに通路がある」
十段ほどの階段の向こうには石柱が見えていたが、その奥に通路が続いていた。
「何があるのかな。行ってみようか」
2人で柱の間を進んだ。
柱の奥を25メートルほど入ると、そこで行き止まりだった。
突き当たりの壁には、人の顔が彫ってある。
「これは・・・。真実の口だな」
映画にも、その場面があったよな。
「それなら私も知ってる。こないだテレビでやってたもの」

口を開けた顔の横には、案内板が掲げてあった。
「これは高性能の真実の口です。この口に手を差し入れて、質問に答えてください。この裏にはウソ発見器が付属していますので、もしウソの答を言うと手は抜けません。本当の答を言った時だけ、手が抜けるようになります。答え方は総て『いいえ』と答えてください。質問は自動で出て来ますが、仲間同士で質問をしてもかまいません。その時はまず『セルフ』のボタンを押してください」
ウソ発見器が付いているなら、抜けなくなる事態だって、実際に起きそうだ。
「やってみる?本当のことを言えば抜けるんだし、大丈夫だろ」
「ウン。でもあなたが先にやって」
「じゃあ、まず自動でやってみるか」

オレは投入口に料金を入れ、壁の顔の開いた口に右手を入れた。
3秒すると、裏でゴトゴトと音が出始めた。
マッサージ機のように、腕の周りが膨れ出し、空気圧で腕が押さえ付けられた。
「では質問を始めます。あなたに最も適した質問を探すために、最初はあなた自身のことについてお聞きします」
「え?どういうこと?」
「アンケートに答える時に、簡単な個人情報を書きますが、それと同じです」
「すごい。オレの言ってることが分かるんだ。さすが日本の技術は進んでる」

ごとごと、とマシンの裏で音がする。この辺は少々アナログ的だ。
「今日はお一人で来ましたか?」
「いいえ。確か答え方は全部『いいえ』だったよな」
「一緒に来たのは、彼氏または彼女、もしくは夫または妻ですか?」
「いいえ」
「お付き合いは長いですか?」
「いいえ」
「一緒に暮らしていますか?」
「いいえ」
「では、週に3回以上、一緒に食事をしますか?」
「いいえ」
「週に2回以上、セックスをしますか?」
「いいえ。そんな質問まであるのか」
ごとごと。

少し感覚が開き、もう一度マシンが質問を言った。
「ではこれからが質問です。将来、あなたはお連れの方と結婚したいと思っていますか?」
「・・・」
「もう一度お聞きします。将来、あなたは今お隣にいる方と結婚したいと思っていますか?」
ここでオレは由香里の顔を見た。
由香里はすっかり真顔になっている。
「答えは全部いいえだったよな。いいえ!」
ごとごと。
それっきり、真実の口は黙りこくった。

「おいおい。妙なムードになっちまったじゃないか。客のことを放り投げるなよな」
数秒待ったが、マシンは何も言って来ない。
「これで終わりなのか?つまんねえな」
オレはここで「真実の口」から右手を抜いた。
由香里に向き直ると、由香里の眉間に皺が寄っていた。
「手が抜けてる」
「え?」
「手が抜けるのは、あなたが本当のことを言ったからよ。最後の質問は、私と結婚したいかどうか。『いいえ』が本当なら、あなたはその言葉の通り、私とは結婚したくないってことだわ」
「これは、ただの遊びだし、機械の判断だろ。ウソ発見器には間違いも多いんだよ」
「うそ」
「そんなこと言うなよ」
「ウソツキ」
「じゃあ、もう一度やってみよう。今度は由香里が直接訊いてみてくれ」
「分かった」

ここで、オレはもう一度、「真実の口」に歩み寄った。
料金を入れ、口に手を差し入れる。ボタンは当然ながら「セルフ」の方だ。
ごとごと。
「これは真実の口です。答えがうその場合は手が抜けません。質問される方は、備え付けのマイクではっきりと訊いて下さい。回答する方は、すべて『いいえ』で答えてください」
ここで由香里がマイクを取った。
「ケンジさん。あなたは浮気したことがありますか?」
おいおい。予め想定した質問と違うぞ。
「いいえ」
もちろん、右手は抜けない。
オレは女好きだから、他の女にも何人か手を出して来た。
「やっぱりね。じゃあ、私の友だちとも付き合ったことがありますか」
「いいえ」
これでも、手は抜けない。
「あ~あ。酷い人だわ。じゃあ、ミサコと付き合ったことがありますか?」
「いいえ」
オレの右手は抜けないどころか、ますますきつく絞めつけられた。
「ミサコとセックスしましたか?」
「いいえ。おい、もう止めてくれ。これくらいで十分だろ」
あんまり締め付けられるので、右腕が痛くなってきた。
「手は抜けないでしょ。やっぱりミサコと出来てたんだ。思った通りだわ」
いよいよ不味い展開になって来た。

由香里は腕を組み、オレのことを睨んでいる。
「じゃあ、先週、ミサコとセックスしましたか?」
うわあ。そこんとこ突いてくるわけ?
由香里はやっぱりオレたちのことを疑っていたんだな。
「いいえ!」
半ば祈るような気持ちで返事をした。しかし、やっぱり右腕は抜けなかった。
半年前、由香里の友だちのミサコとは軽い気持ちで1度エッチをした。
ところが、そっちの方の相性がミサコとは抜群に良かったのだ。
それで、それ以来オレは時々家を抜け出し、ミサコの部屋に行っていたのだ。
ミサコとはいつも激しいエッチをするので、さぞ疲れた表情になっていたことだろ。

「あきれた人だわ。ミサコは私が小学生の時からの友だちなのに・・・」
仕方ない。ここは謝っとこう。
「スマン。軽い出来心だったんだよ。でも、オレが心から愛しているのは、お前だけだから」
そう話しつつも、オレは「ここでまた質問を掛けられると不味いよな」とひやひやした。
「最近、私とは月1、月2だったけど。ミサコと会ってたからなのね。許せない。この埋め合わせはしてもらうわよ」
由香里は物欲に勝る性格だから、これを言い掛かりにして「バッグでも買わせよう」。
そう考えている雰囲気だ。
女の愚かなところは、男が別の女と付き合っているのに気づいても、「いつまでも自分が本命で、別の女が浮気」だと信じ込んでいることだ。
気持ちが萎えて来てるから、他所の女に手を出すわけなんだけどね。

「じゃあ、そろそろ解放してあげる。まだ真実の口で遊びたいと思っていますか?」
「いいえ」
正直、もうウンザリだから、右手は簡単に抜けた。

「最近、なんだかおかしいと思っていたけれど本当だったわ。まあ、新しいお洋服を買ってもらえそうだし許すわ。よろしくね」
由香里はオレのことをたっぷり問い詰めたので、多少、良い気分になっているようだ。
勝ち誇ったような表情が、さすがに癇に障る。
「いやあ、参った参った。さすがに由香里は頭が回るなあ」

ここでオレは由香里の腕を引いた。
「じゃあ、今度はお前の番ね」
どんな人間でも1日に2回以上はウソをつくものなのだ。
コイツだって、オレと大して変わらんだろ。

ここで中断。
この先もありましたが、ソコソコ面白い話なので、ショートショートにしてみることにしました。