日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第325夜 閉じ込められて

体調が今ひとつで、ワイン1杯でヨレヨレです。
そのまま寝入ることが多いのですが、これも昨夜そうやって寝込んだ時に観た夢です。

気がつくと、どこか部屋の中にいる。
殺風景な部屋だ。
私は壁際に立ち、部屋の中をぼおっと眺めていた。
しばらくして、ようやく今の事態が掴めて来る。

確か私は道を歩いていた。
帰宅するのが遅くなり、夜十時ごろ駅の改札を出て、公園の近くを歩いていたのだ。
すると、後ろを歩いていた人が小走りで近寄って来る足音がした。
唐突だったので、私は道の端に寄り、相手が通り過ぎるのを妨げないようにした。
すぐ後ろまで来たので、顔を向けようとしたのだが・・・。
後頭部を何かで殴られ、それきり意識を失った。

目が醒めた時から、私はこの部屋にいる。
帰宅時に来ていたワンピースでなく、何か頭からかぶるような白い服を着させられていた。
前に教科書で見た「貫頭衣」という服に似ている。

それから、もう長い間ここにいる。
十畳くらいの広さで、ベッドがひとつ置かれただけの部屋だ。
あとは何もない。
サイドテーブルや戸棚。テレビや冷蔵庫などの家電。
そんなものは一切無い。
ただ、ベッドで寝たり起きたりの生活だ。

「もうどくれらいここにいるんだろう」
日にちを数えることもかなわない。
来る日も来る日も、ただじっとこの部屋の中にいる。
「私がここに無理やり連れて来られてから、もう長い時間が経った。ケンジさんはどうしているんだろ」
ケンジさんは私の彼氏だ。
あの日だって、ケンジさんのマンションに行き、一緒にご飯を食べたので、帰るのが遅くなったのだ。
お父さんが厳しいから、ケンジさんのところに泊まることはできない。
仕事の帰りに少し食事をするくらいの時間しか、ケンジさんには会えないのだ。

ドアに近寄って、開けようとするが、やはり開かない。
私はこの部屋に閉じ込められているのだ。
頭を殴られたので、長い間意識が無かったような気がするが、私はその時ここに連れ込まれ、そのままここにいると思う。
「誰か開けて!」
何度も叫んでみたけれど、ドアの外には人の気配がない。
ホラー映画やサスペンス映画みたいに、悪者に捉えられたに違いない。
「犯されたり、殺されたりするんだろうか」
嫌だ。絶対に嫌だ。

何とかこの部屋を脱出しようと思うが、ドアは固く開かないし、人気もまったく無い。
気ばかりが焦る中、時間だけが経って行く。

窓ガラスの外側には何か板のようなものが打ちつけてあるらしく、外がまったく見えない。
隙間があり、昼の間にはほんの少し陽の光が入ってくる。
これで1日の変化が分かる。
もちろん、薄暗いか、暗いだけの違いだから、1日が終わるのが分かるだけだ。
毎日、ただ部屋の中を歩き回っているだけの存在だ。

1度、部屋の中を一方向に回って気を紛らわせた時がある。
1周ごとにカウントし、数を数えてみた。
そしたら、すぐに3万回を超えたので、そこで諦めてしまった。
1日の間に1千5百回は回れるが、それにしても20日は経っている勘定だ。
「いったいいつまでここに閉じ込められるんだろ」

今日もいつも通り、この部屋の中にいる。
今はきっとお昼過ぎ。太陽の光が真上から差して来る。
私はベッドに座り、じっとそれを見ていた。

すると、ドアの外で何か物音がした。
誰かが来る!
ドアを叩こうとして、すぐに手を止めた。
「犯人だったりするかも」
扉の裏に張り付き、耳をそばだてる。

ドアの外は長い廊下らしい。
遠くの方から、微かに声が聞こえて来る。
若い女の声だ。それと、男が1人。
都合、2人が廊下を歩いて来る。
こちらに近づいているのか、声が次第に聞き取れるようになって来た。

「もうこの辺にしようよ。怖いから」
女の声だ。
「まだもうちょっと撮影しよう。少し撮りためておかないとね。後で加工するときに尺が足りなくなる」
これは男の方だ。
「でも、この病院。本当に気味悪いって話だよ。画像処理するなら、こんな古いところでなくとも良いじゃない」
「馬鹿言ってろ。リアリティが大切なんだよ」

ああ。ここは病院なんだ。
おそらく何年も前に閉鎖された病院なのだろう。
そこに私は閉じ込められていたのだ。

思わず声が出た。
「助けて!私はここです。ここにいます。閉じ込められてるの」
声を限りに叫ぶ。扉をこぶしでどんどん叩いた。

「うわ。何か物音がしなかった?」
「気のせいじゃないか?」
「いや。あっちの右側の部屋の方で音がしたよ。怖いわ」

「聞こえているんだ」
私はもう一度ドアを叩き、「助けて」と叫んだ。
「わ。やっぱり何か物音がしたよ。誰かいるんじゃない?」
「まさか。ここに入るとすれば、肝試しに来る俺たちのような人間か、犯罪者のどっちかだろ。変質者かもね。フレディとかジェイソンが好きそうな設定だ」
「誰か誘拐されて、この中に閉じ込められていたりして」
「まあ、変質者が隠れてるってのも、誘拐された被害者が隠されているってのも、まずは滅多に起こりえないケースだろうね」
「ヒロシ。あなた、開けてみてよ」
「ああ。いいよ」

良かった。ここを開けて貰える。私を見つけてくれる。
これで私も家に帰れるのだ。
もう一度叫ぼうとするが、喉がかすれて、うまく声が出ない。
でも、あの2人が開けようとしているのは、きっとこの部屋のドアだ。

「が、しゃ」「ぎぎぎ」
ドアのきしむ音がした。
ドアがゆっくりと開いて、男女2人が恐る恐るこの部屋の中に入って来た。
2歩3歩と足を踏み入れる。
「なんだ。やっぱり誰もいないじゃないか」
「気のせいだったのかしら」
2人は心持ち体を少し屈めていたが、ここで背を伸ばした。
「ベッドが1つあるだけだよ」

私はこの様子を上から見ていた。
「なぜ私に気づかない」
だんだん腹が立って来る。
「私がどんなに長い間ここにいるか、お前たちは分からないのか」
こっちを見ろ。

ここで私はドアの位置まで下がった。
半開きのドアを拳で思い切り、「ドン」と叩いた。

「うわ」
「今の何?」
そりゃ、びっくりしただろう。誰もいない筈の廃病院の中で、ドアを叩くヤツがいるんだから。
「ここ、やっぱり怖いよ。もう出ようよ」
「そうだよな。そろそろ外に出よう」
あの音を聞いて、男の方も怖くなったらしい。

怖がってくれると、私も助かる。
恐怖心は心の波動を大きく揺り動かすからな。
心の振幅が大きくなると、私のような悪霊が取りつきやすくなるのだ。
私はゆっくりと、女を後ろから抱きしめる。
コイツにおんぶして貰えば私の勝ちだ。
これから、どこまでもこの女について行くぞ。

ここで覚醒。

背景はこんな感じ。
「帰宅中に襲われ、山に捨てられた女が悪霊となって目覚める」

山で発見された後、死んだものとみなされ、病院に運ばれた。
検死解剖を受けたわけですが、実はその直前まで息があり、そこで死んだ。
そのまま地縛霊となり、二十年経ったが、その間に病院は閉鎖されている。
肝試しの若者が来てくれたおかげで、外に出られるようになる。

そんな筋の夢でした。