日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第327夜 依頼

昨夜はまったく眠れず、今日の昼頃までずっと起きていました。
昼過ぎにようやく1時間ほど眠れたのですが、これはその時に観た夢です。

珈琲店で原稿を読んでいる。
書き終わった後、出力したものを、外でゆっくり読むのが習慣になっている。
今は昔風の喫茶店がめっきり減って、「〇〇珈琲店」ばかりになった。
コーヒー1杯で牛丼とサラダ他一式が食える値段だが、これはこれで良いと思う。
銀座に行けば、コーヒーの一番安いのが1千3百円で、カレーの方が安かったりする。

外を眺めていると、横から声を掛けられた。
「すいません。あなたはタケガミさんではないでしょうか」
声のした方を向くと、二十台後半の女がこっちを見ていた。
ぎりぎり三十歳を超えていなそうな感じだ。
「はい」
知らん女だよな。

「タケガミさんがあの雑誌に書いている記事を、私はよく読ませて頂いています」
ペンネームで出しているのに、よく本名をご存知ですね」
「今はネットを渡り歩けば、大概のことがわかります。他人のプライバシーを暴露するのが趣味の変態も多いですから。でも、私はタケガミさんの大学の後輩にあたりますので、そこからです」
よく見ると、女はかなりの美人だった。
赤いさっくりしたセーターを着ているが、少し覗いているVネックの胸元が眩しい。
色白なのだな。

「ちょっとご相談したいことがあるのです」
頼みごと?じゃあ、幽霊の話だな。
「皆さん勘違いしますけれど、私には霊感はありませんよ。ただ飯のタネにするために、怪談を書いているだけです」
けん制しておかないと、いつまでも霊の話を聞かされてしまう。
しかし、女はオレの言葉など気にしていなかった。
「タケガミさんの本当のお名前は、嶽神ですよね。少なくとも百年くらい前までは。そのお名前は代々、祈祷師だった家の名前です。おそらくタケガミさんは祈祷や呪(まじな)いについてお詳しいのでしょう。世間一般の霊感師の類とはまったく別のことを書かれていますが、むしろタケガミさんの言われることの方が正しいように思います」
やっぱりね。
「私は霊感師ではないし、祈祷師でも占い師でもありませんよ。除霊や霊視はできませんし、人の運命も分かりません」
ここで女がじっとオレの眼を見る。艶のあるまなざしだ。

「ある男を呪い殺してほしいのです」
え?なんだそりゃ。
「母の夫。すなわち私の義父です。義父は私の母を見殺しにしました」
「どういうことですか?」
「母の持病は心臓でした。先月、母は死んだのですが、どうも放置されたふしがあります。母が発作を起こした時、義父は家にいたはずですが、あえて母を助けなかった。おそらく、母が倒れているのを見ていたのに、何もしなかったんです」
「それは憶測じゃあないですか」
「いえ。家は事務所を兼ねていますので、電話料金を経費計上するため通話記録を取っています。母が倒れた直後も、義父は何度も外に電話を掛けていました」
「救急車を呼んだとか」
「相手の番号も分かります。義父が浮気している女でした」
「そこまで調べたのですか?」
ここで女が目を伏せる。

「最初からおかしいと思っていました。義父は私と2つしか齢が違いません。それが母と結婚するなんて、財産目当てに決まっています。母が倒れた時、義父はそれを近くで見ていて、してやったりと思ったことでしょう。だから、自分の女に電話を掛けたのです。あの男はとんでもない悪人です。このまま許しておくわけにはいかない。だから、私はあの男を呪い殺してくれる人を探し、訪ね歩いているのです」
「それで私を?」
「はい。ごめんなさい」
「手を触れず、声も掛けないのであれば、犯罪にはならない。だから、『呪ってくれ』と言うわけですか。もしそれで犯罪になるのなら、頭の中で誰かを『死ね』と念じただけで犯罪に問われることになってしまいます。だから罪には問われない。でも、そういうことはやってはならないことだし、リスクもあるんですよ」
イケネ。つい相手の話に乗ってしまった。

「お礼は十分に致します。母は資産家でしたので、それは間違いなく出来ます」
「お金なんか要りませんよ。人を呪うなんてこと、軽い気持ちでやったらダメです」
女がオレの側ににじり寄る。
「お願いします。お金だけではなく別のかたちでのお礼も考えています」
え?別のかたちって?
「細かい話はここでは出来ませんので、私のマンションでお話しします」
そう言いながら、女はほんの少し姿勢を変え、自分の体の線をオレに見せた。
この時にほんの一瞬、オレがたじろいだことで、女は自信を得たらしい。
「お願いします。タケガミさん。私のことを助けてください」
女がオレの手を取り、両手で包むように握る。

参ったな。オレは金には無頓着で、物や金を前に出されても動じない。
しかし、弱点もある。
もちろん、それはこっちの分野だ。
オレは無類の女好きなのだ。

ここで中断。

この先は、「呪い」の場面があり、話が急展開します。
やはり、「ひとを呪わば」の展開が待っています。
物語として成立しそうな感触もあり、少し保留しますが、「夢幻行」の一篇にしようかと思案中です。