日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第327夜 依頼 (その2)

時間が少し空いたので、行けるところまで。

女に案内されるまま、オレは女が常宿にしているという都心のホテルに行った。
女は東京に来る時にはこのホテルを使うのだと言うが、しかし女が住んでいるのは近県だった。
帰ろうと思えば帰れるが、面倒くさいし疲れる。
女は金に余裕があるので、用事で出て来ても、その日の内には帰らなくて済むわけだ。
マンションを買った方が安いとは思うが、掃除の手間が掛かる。
ホテルなら食事も出来るし、片づけなくともいい。

「何かお飲みになります?」
と女が訊いてきたが、既に目の前に冷えたシャンパンが出ていた。
「それで結構です」
注がれた酒をひと口飲むと、思った通り高級品だった。

なるほど。相当な金持ちだな。
これなら、親が死ねば、財産のことでひと悶着ありそうだ。
「義父を殺して」と言うのも、結局、ゼニカネの問題を抜きにしては、本質を掴めない。

女のVネックから覗く肌がピンク色に上気してきた。
スタイルに自身のある女は、とかく自分の武器を表に出そうとするが、それをやり過ぎると男は逆に退く。
こんな風に、ほんのちょっとで十分だ。
あとは男が勝手に想像してくれる。
いやはや。こういう罠にははまり易い性質だと言うのに、相手の方がさらに上手のようだ。
男を騙すには、金と色が一番だ。
次第にズブズブとはまって行く。

「お名前を伺っていませんでしたね」
気をそらそうと、別の方に口を向ける。
「由香里です」
由香里かあ。オレの夢に出て来る由香里は、大体が悪女だ。
ミキは素直でかわいい娘なんだけどね。
(この辺では、自分が夢の中にいるという自覚が出ている。)

それから、しばらくの間、オレは由香里の身の上話を聞いた。
生まれついての金持ち然としているが、実は由香里の母親は苦労人で、一代で財を成した女性だった。
暮らしが良くなって来たのは40歳くらいからで、それまでは由香里の給食費も払えない状態だったらしい。

「私が本当に悔しいのは、母はまだ死なずに済んだことです」
母親は心臓病だったが、適切に服薬していれば、まだ生き死にの懸る容態ではなかった。
その母親が発作を起こした時、どういう訳か手元の薬が消えていて、周りには誰もいなくなっていたのだ。
日頃は手伝いと料理人がいるのに、その日に限って、2人とも休みを取っていた。
と言うより、由香里の義父が2人に休みを出していたのだ。
「なるほど。それじゃあ、不審に思うのも当たり前ですね」
「絶対に間違いありません。あの男は母を殺そうと企んでいたのです」
由香里の目から涙が溢れる。
その涙は両頬をひと筋ふた筋としたたり落ちた。
「タケガミさん。お願いします。私はあの男を許すことができないの」
由香里は椅子から立ち上がり、オレの隣に座った。
それからオレの手を取って、両手で包み込むように握りしめた。
柔らかくて真っ白な手だ。

あれれれ。「棚からぼた餅」と言うか、「切り株に兎」と言うか・・・。
でも、そのぼた餅には毒があるし、兎には鋭い牙が生えている。
ま、それも食った後の話だ。オレの場合、据え膳を断ることは無い。

1時間が経ち、オレはズボンを履き直した。
これから、相手の要件を聞く羽目になったが、やはり裸のままではしっくり来ない。
上着も来て、もう一度椅子に座り直した。
「行きがかり上、説明しますが、望んでするわけではありません。そのことを忘れずに」
「はい。もちろんです」
ここでオレはコップを手に取り、ジュースを飲んだ。
これからの説明は長く掛かる。

「憎いと思う相手をとことん懲らしめる方法はいくつかありますが、一長一短があります。その1つ目は、あなたの言われた通り、特定の人物を呪う方法です」
これはそんなに難しくないが、比較的簡単に相手に返される。
相手が祈祷について熟知していれば、「呪い返し」によって、その呪いの何倍かを返されるのだ。
まさに、ちょっと前に流行った「倍返し」だが、放り投げたブーメランが自分の方に戻って来るというイメージの通りだ。
さらに、昔から「人を呪わば穴二つ」と言われてきた通り、他人を呪い殺した人間には、やはり災いが降りかかるのだ。

「2つ目は相手に悪霊を憑依させる方法です。そのことにより相手が死ぬかどうかは予測できませんが、その相手には有形無形の災難が降りかかります。ただし・・・」

ここで中断。

校正も出来ないまま、これから年始の支度です。
年の最後も、やっぱり「呪い」と「悪霊」でした(苦笑)。、

皆さまよいお年をお迎えください。