日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第337夜 速い男 (4)

続きです。

「傷ついたらごめんね。でも最近は、それこそあっという間の感じ」
「いつ頃から?」
「先月くらいから」
何と言うことだ。
オレの動きが早くなって来たのは、今晩が初めてじゃないのか。
ひと月も前から始まっていたわけだ。

言われてみると、麻雀を打っていて他のヤツの動きが遅く感じ始めたのはちょうどその頃からだった。
「なるほどな」
極力気を付けて、ゆっくり動く必要があるらしい。
普通の状態でも、エッチの時には心掛ける必要があることだが、今のオレみたいに速くなったら大変だ。
本能で動いたり、直感を働かせたりする時には、きっと目にもとまらぬ速さだろ。
「ま、エッチの時には気にしなくとも大丈夫だな」
なぜなら、1発分だけ見れば早漏でも、3回くらい続けざまに済ませれば良いわけだ。

オレがこの時考えていたことは別のことだ。
「もしかして、もっと早く動けるようにすれば、この後、働かなくとも済むかもしれん」
今晩体験したように、動作が速くなれば、他の者には見えない。
なら、金が必要なら、どこからか持って来れば良いのだ。
他の者に見えないのなら、オレは存在しないのと同じになる。
銀行だろうが、どこだろうが、金庫が開いた瞬間、誰も気づかぬうちに「引き下ろし」が可能なのだ。

なんだ。つまらない。
「より多くの財を得よう」というのは、多くの人の人生のテーマのひとつだ。
それが大して苦労することなく手に入るとなったら、途端に色褪せて見えてしまう。
金とか贅沢には何の意味も無くなってしまった。

女はどうだ。
今の動きの速さなら、道を歩いている女のパンツを押し下げて、その場でことをすませても、たぶん女の方は気づかない。
テレビや映画を観ていて、「この女優とやりたい」と思えば、さっさとテレビ局なり撮影所に出かけて行き、誰も気づかぬうちにエッチ出来てしまう。
こんなつまらないことは無いぞ。
会話をしたり、ケンカをしたりと、色んな面倒なことがあるから、男女の関わりは楽しいのだ。
無反応な女の中に射精したからと言って、何が楽しいのか。

ここでオレは愕然とした。
「もしかして、オレはこの世界から切り離されてしまうのだろうか」
オレが自然に動く時には、他の人間は石のように固まっている。
相手からはオレは見えない。
「それって、お互いに『存在しなくなる』という意味だよな」

このオレの不安は的中していた。
程なくオレは、回りの動きに合わせることが難しくなったのだ。
いくら酒を飲んでも、睡眠薬を飲んでも、やはりスローモーション程度までしか近づけなくなった。
「このままでは、オレの存在は『無』になってしまう」
実際その通りだった。
それから数日後には、周りの世界が完全にロックしてしまった。

今のオレは石像の中で暮らしている。
いつでもどこでも、好きなことが出来るのだが、この世にオレ1人しか存在しない世界の中では、ほとんどが無意味だ。
オレは今や、幽霊のような存在なのだ。

ここで覚醒。

実際の夢には、まだ続きがあり、展開もありますが、こちらは整理して物語に落としてみることにします。
ただし、他作品と重なる惧れがありますので、調べる必要がありそうです。