木曜の朝方に観ていた夢です。
俺は特殊警備隊の隊員だ。
1チーム12人の編成で、敵の拠点を攻撃している。
この場合の「敵」とは、死霊ウイルスの感染者だ。
ある研究所から軍事用に研究していたウイルスが漏れ出たのだが、これはすぐに変異して大流行した。
このウイルスに人が感染すると、神経系統を乗っ取られる。
たんぱく質を求めて、あたり構わず生き物に食いつくようになってしまう。
ゾンビに似ているが、ゾンビと違い背骨の中央付近に巣を作るので、脳に損傷が生じても死なない。
顎を落として食い付けなくするか、背骨を分断するほかは、倒す手立てがない。
脳は良質のたんぱく質の塊なので、ウイルスは最初に脳を食べる。
だから、一度発症すれば、元には戻らない。
感染経路はさまざまで、接触のみならず飛沫感染する者もいる。
ゾンビだったら齧られなければ大丈夫だが、こっちはいつどこで感染するか分からない。
抵抗力の乏しい者が感染してしまうのだ。
このため、対抗措置は「殺して焼く」しかない。
俺たちのチームはそのために編成された部隊だった。
もはや人類の9割が感染し、残っているのは1割以下だ。
今の仕事は、感染者を殺すことの他、未感染の生存者を救出することになっている。
まあ、今の時点で感染・発症していなければ、空気や飛沫くらいでは感染しない。
抵抗力があるから、生存出来ていたわけだ。
齧られなければ、おそらく大丈夫だろう。
この日の作戦は、砂丘の中にある研究所だった。
ここは数年前に、感染症予防研究所として作られた施設だ。
他と切り離すために砂丘の中に作られ、死霊ウイルスの研究を行っていた。
ところが、やはりここでも感染者が多数出て、感染者たちに支配されてしまった。
結局、「捨てられた施設」になっていたが、たまたま偵察機が上を通り掛かったら、屋上に「助けて」という文字が見えた。
実際に、研究員らしい服を着た人が確認されもした。
そこで、俺たちの出番になったのだ。
研究所の前まで来ると、建物の周りには何万人かの感染者がいた。
「隊長。どうします?」
「どうするもの何も、突破するしかあるまい。俺たちが来たことを中に知らせて、突入するしか方法はない。いつもの曲をかけろ」
すぐに隊員の1人がスピーカーで曲を流す。
曲はもちろん、「ワルキューレの騎行」だ。
こっちが感染者ではないことを示すためなら何でも良いわけだが、威勢が良いからこれにした。
ま、今どき『地獄の黙示録』なんて古い映画を憶えている者も少ないのだが。
感染を予防するため、俺たちの部隊は皆、ゴーグルとマスクをしている。黄色い蛍光色だから、仲間同士で見間違うことは無い。
ところが、感染者にとっても同じで、この色を見ると、一斉に寄り集まって来る。
実はそれがこっちの狙いでもある。
十分に奴らが集まったところで、火炎放射器で焼き尽くすためだ。
こうすれば、相手が何万人いようと、大して手数は掛からない。
玄関から入るまでに、俺たちは何千人もの感染者を焼いた。
しかし、どこから湧いて出て来るのか、途切れることなく感染者が現れる。
「うひゃあ。なんだここ。1万2万じゃないですね」
俺の隣で隊員の小林が呻いている。
「とりあえず中に入ったら、スペースを確保しよう。未感染者を収容したら、すぐに脱出して、ここにはミサイルで攻撃してもらうことにする」
火炎放射器には燃料に限りがある。
中庭の途中でそれが切れたので、俺たちは小火器で応戦しながら中に入った。
1階のフロアが激戦で、隊員の2人が犠牲になった。
銃を撃ちまくりながら、階段を上がり2階に向かう。
2階に上がってみると、どうしたことか、感染者たちは上には追って来なかった。
「隊長。あいつらはどうしたんでしょう?」
階段の下に感染者たちが見えている。皆立ち止まって、上の方を恨めしそうに見上げているだけだった。
「上には来られないんですよ」
背後で声がしたので、そっちを振り返ると、白衣を着た女性の研究員が立っていた。
「感染者が嫌う匂いがここには充満しているのです」
女はやはり研究員で、ここで死霊ウイルス対策を研究していた。
「ここで研究していたことで、成功した1つは、この忌避剤です。感染者が出す臭いは、互いに仲間であることを示すサインでもあったので、これを濃縮しました」
「じゃあ、それを使えば襲われないわけだな。なんでもっと早く報せない」
女が首を振る。
「通信施設が壊れています。それに、この忌避剤の匂いの基は感染者から抽出したものです。百グラム作るのには数千人の髄液が必要になります」
ここで俺はもう1つのことに気がついた。
「それと、効き目がそんなに長く続かないってことだな」
だから、屋上で助けを求めたのだ。
「はい。あともう少しで、死霊ウイルスに対抗するためのウイルスが完成しますが、結果が出るのは、この忌避剤が無くなった後です」
「じゃあ、どうしてもそれを持ってここを脱出しなくてはならんな。その抗ウイルス・ウイルスはどこにある?」
「私です」
「え?」
「効果を確かめるために、私自身に打ちました」
「大丈夫なのか」
「他に方法がありません。生存者は私独りですから」
「なんだかよく分からんが、そいつはどんなやつなんだ?」
「死霊ウイルスを変異させ、無力化します。元は同じウイルスですが、一定の条件下では発症しないように遺伝子を操作しました」
下の階で「うおう」「うおう」という喚き声が聞こえる。
感染者が動き出したのだ。
「話を聞いている時間は無いな。よし、とにかくここを脱出しよう。忌避剤はどれくらい残っているんだ?」
「3グラムです。5、6分くらいしか持ちません」
「よし。ひとまず行けるところまで行こう」
ここで女性研究員を中心に置き、俺たちは一団となった。
階段の中ほどまで下ったところで、研究員が瓶のキャップを開く。
すると、その女が言った通りに、感染者たちが後ろに下がった。
俺たちの周りに十辰隆峽笋出来た。
「よし。今のうちだ。行けるところまで行って、後は早いとこ装甲車に乗るだけだ」
じりじりと前に進む。
俺たちが前に進むと、感染者は次々に道を開ける。
しかし、施設の玄関を出ると、薬の効力が切れて来た。
「うう」「おお」
感染者がうなり始め、間合いが近くなった。
「そろそろだな。よし、皆。車まで走るぞ。俺が援護するから、真っ直ぐ走って装甲車に乗り込めよ」
返事を待たず、俺はバリバリと銃撃を始める。
前列の感染者がバタバタと倒れた。
俺はありったけの銃弾を感染者たちに浴びせて、死体の山を築いた。
後ろを振り返ると、隊員の大半は車に乗り込むところだった。
「そろそろ良いようだな」
もう一度、バリバリと撃つ。
撃ちながら俺は少しずつ後退を始め、弾が切れたところで銃を放り捨てた。
感染者に背中を向けて走り出す。
「隊長。頭を下げて!」
装甲車の上で小林が叫んだ。
俺が腰を屈めると、小林はすぐさま機関銃を撃ち始める。
途切れなく続く銃弾が、感染者に降り注ぐ。
俺は十分に余裕を持って、装甲車の1つに乗り込んだ。
「さあ出発だ!」
すぐに発進した。
俺が腰を下ろすと、目の前にはあの研究員が座っていた。
「こいつに乗ってたのか」
改めて見直すと、この女研究員はなかなか美人だった。三十を少し過ぎたくらいか。
かなり痩せている。だいぶ苦労したんだな。
そりゃそうだ。孤立した研究所に長い間こもっていたのだから。
「疲れただろ」
「はい」
「それくらいの間、あそこに独りで居たんだ?」
「半年くらいです」
「よく食料がもったよな」
ここで俺は、ほんの少しだが、この女が同僚の研究員を食っている姿を想像した。
まさかね。
「腹は減ってないか?」
女が頷く。
「死ぬほど」
俺はひとまず水筒の水を渡した。
「ひとまずこれを飲んで。食料は非常食が少しあるかもしれないので、隊の者に探させる。まあ、1時間もすれば前線基地に戻れるから、その時にはあきれるほど食べられるよ」
「どうも有り難う」
女はぐびぐびと音を立てて、水を飲んだ。
「ところで、抗ウイルスのことだが」
話が途中までだった。
「どんなものなんだい?」
女が答え始める。
「死霊ウイルスは、紫外線や放射線の影響を受けていることが分かったんです。そこで、その影響力を増幅させた改良型のウイルスを作りました」
「どうなるの?」
「感染者に入れると、改良型アルファウイルスは、元のウイルスを自分の仲間に変えます」
「効果は?」
「まだはっきりしていませんが、紫外線の強い時には活動を停止します。昼に太陽が出ている時は平気です。放射線の量にもかなり敏感になっており、夜はこちらの影響で眠ります。夜の方が放射線量が幾らか高いですからね」
「すると、いずれは自然を頼りにするだけでなく、人工灯や放射線の照射でウイルスを不活性化出来るわけか」
「それが目標なのですが、まだ未完成です」
「そっか。早く完成すれば良いよな」
装甲車の隙間から、月の光が差している。
いつの間にか、夜になっていたのだ。
研究所ではかなりの激戦だったから、時間の経つのを忘れていた。
俺は上のハッチを開き、頭を出した。
「良い月だ。この分じゃあ、明日も晴れだな」
砂丘の上に、丸い月が出ている。
梯子を下りて、装甲車の中に戻る。
すると、隊員たちがごろごろと倒れていた。
「何だ。何があった」
すぐに俺の右肩の後ろから、女研究員の声がした。
「ごめんなさい。まだ夜のコントロールは出来ないの」
女が俺の首の動脈にかじりつく音が響いた。
ここで覚醒。
しばらく前に観た夢の続きか、それから派生したものです。
ゾンビウイルスに対抗するために開発したのがバンパイア・ウイルスだった。
そんな内容でした。
小説に直すには、辻褄の合うような構成にする必要がありそうです。