日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第392夜 墓を掘る話

パッキャオVSメイウェザー戦の結果を見て少しがっかりし、天皇賞の中継を見ようとテレビの前に座ったら、5分で眠り込んでいました。
これはその時に観た夢です。

俺はタクシーの運転手をしている。
珍しく上客を乗せ、高速で40キロくらい郊外まで走った。
帰りは下の道を戻るのだが、海の見える休憩所に寄り、トイレに行った。
車に戻って来ると、後部座席に人が乗っていた。

「葉山に行ってくれ」
また戻るのか。しかもさっき行ったところより先の方だ。
「承知しました。どういう道順で行きますか?」
男は呻くように、「海沿いに走ってくれ」と言った。
俺はすぐに車を発進させた。

男はすぐに両目を瞑り、眠ってしまったようだ。
まあ、着くまで時間が掛かるから、このままそっとして置こう。
小一時間ほど走ると、海が見え始める。

「お客さん。海ですよ」
声を掛けるが、返事が無い。
バックミラーで客の様子を確かめる。
さっきは無かったのに、胸に染みが出来ている。
血の痕だった。
「お客さん。大丈夫ですか?」
驚いて声を上げた。
まさか死んでるんじゃあ。

男は生きていた。
顔を上げると、「どこか景色の良い所で停めてくれ」と言った。
この辺りは、どこだって景色は良い。
俺は道の脇に駐車スペースを見つけ、車を寄せた。
ちょうど、崖の上で、外海まで一望できる。

エンジンを止め、俺は後ろの男の方を向いた。
男の服は血で真っ黒に染まっていた。
「病院に行きましょう。あるいはここから救急車を呼びますか」
男が首を振る。
「あんた。幸せな人生を送ってるか」
え。こういう時に人に訊くいことなの?
「他人がどうう見ているかは分かりませんが、私はそれなりに生きてます」
他人は俺のことを「人生にしくじったヤツ」と思っていることだろう。
何せ俺は数年前まで大学の教授だったもの。
相応の不始末があったと言うわけだが、しかし、今の生活もそんなに悪くない。
口うるさい女房と、その家族と縁を切ることが出来たしな。
義母は家柄がどうの、死んだ義父の偉さを引き合いに出しては、嫌味を言った。
身内に威張ったって、意味があるまい。
ま、ブサイクなババアが自慢することは、ダンナが金を持っているか、肩書きくらいしかない。
箱は立派だが、中身はおそまつな隣国の土産と同じだ。
あれがバーサンが死ぬまで続いたと思うとぞっとする。
せっかくバーサンが死んだ頃には、代わりに俺の妻がその役割を果たしたことだろう。

「それを思うと、今の方がずっと幸せかもしれません」
その話を聞いて、男が「ぐふぐふ」と笑う。
「じゃあ、あんた。俺はあんたに頼みごとがある。面倒事が増えるだけかもしれんがな」
「何ですか。救急車なら無線で呼べますが」
男は俺に見えるように、自分のカバンを指差した。
「ここに1億以上ある。これをあんたにやるよ」
「え?」
「俺はもう死ぬ。だからこの金はもう俺の役には立たないのだ。だから、今ここであんたにくれてやる。これを使って、この先の人生を別のものにすると良い。それが俺の頼みだ」
即座に俺は首を振った。
「お客さん。今すぐ病院に行けば間に合うかもしれませんよ。無線で呼びますから」
俺が無線を手にすると、客は俺の腕に何か固い物を押し付けた。
ま、こういう時は拳銃だろ。使うつもりはないだろうけど、本気だってことを示すには十分だ。
「止めとけ。これがどんな金か、お前にだって想像がつくだろ。病院に行けば、警察に告知される。そうなりゃ、どうせこの金は使えない。そのまま刑務所行きだ。一生そこで暮らすなら、今ここで死んだ方がずっと良い」
「でも・・・」
「ただ気を付けろよ。俺とこの金のことは大勢が追っている。絶対に見つかるなよ。これから3年から5年は使えないぞ。それと俺の死体だ。これも見つからないように、うまく隠せ」
ここで男が「ぐふっ」と血を吐いた。
「いいか。覚えて置け。人を隠すのは人込みの中。金を隠すのは金の間だぞ」
それを言い終わると、男はすぐに息絶えた。

俺はここで思案した。
男の口調では、これは犯罪の金だっていう意味だ。
なら、男の言う通りに、この俺が貰ったって構いやしないよな。
俺の人生に金はそんなに必要ではないが、あっても別に困らない。
多けりゃ、ベッドに敷いて寝ればいいわけだしな。
「しかし、もうコイツは死体だよ。どうやって隠す」
ここで、俺はさっきの男の言葉を思い出した。
「人を隠すには人込みの中。金を隠すには金の間だ」
なるほど。
なら、死体を隠すのは・・・。
「墓場だな」

そう言えば、俺の田舎で墓地の改修工事をしていた。
俺の両親の墓も作り直しており、掘り返したばかりだ。
あの横には誰だか分からない無縁仏の墓があったよな。
あそこに埋めて、ほとぼりが冷めるのを待とう。
俺はここで腹を決めて、郷里に戻ることにした。
俺の田舎までは、ほんの百五十キロだから、3時間もあれば着く。
両親の墓は、人の立ち入らない山の中にあった。
俺はトランクから毛布を出して、男の体に掛けた。
こうして置けば、外見では眠っているように見える。

俺は会社に電話して、「遠距離の客が乗ったから戻るまでかなりの時間が掛かる」と伝えた。
「休む」とか「車の故障」などと言った言い訳では、会社の方は良い顔をしないし、その日の記憶に残る。売り上げが上がるという方向で報せると、むしろ喜んで送り出してくれる。
1億あるんだもの。とりあえず、自分の懐でタクシー代を埋めて置けば良いわけだ。

途中の街でスコップを買い、俺は山中の墓地に向かった。
まだ午後の4時で明るいが、ここには滅多に人は来ない。
逆にこういう時なら、改修工事が終わったばかりだし、万が一人に見られても疑われない。
夜に墓に人がいれば怪しまれるが、昼の間なら大丈夫だろ。

俺は男の死体を毛布に包み、ひとまず俺の家の墓の後ろに隠した。
その隣には無縁仏の墓がある。
土を持ってあるので墓と分かるが、卒塔婆も墓石も無い。
訪れる人も無いので、回りは草ぼうぼうだ。
これはむしろ好都合だ。
スコップを当てると、土が柔らかいのですぐに掘れた。
「タヌキに掘り返されないように、深く掘らないとな」
1メートルほど掘った。

「まだあと30センチは掘ろう」
そう思って、さらに掘ろうとすると、スコップが何か固い物に当たった。
案外浅いところに岩があったのか。
何となく感触が違うので、さらに掘ってみると、そこに埋まっていたのは大型のアタッシュケースだった。
すっかり錆びて、茶色くなっている。
「うひゃひゃ。先に死体を埋めた奴がいたのか」
これを開けて中を確かめるべきかどうか。

「ま、開けて見るしかない」
大体、俺は自分の死体を埋めねばならんから、中がどうであれ、ここにあの男の死体を埋めねばならないのだ。
そこでスコップで鍵を壊し、ケースを開いた。
すると、中に入っていたのは金だった。
ビニールで包まれ、目張りをしてあったので、中の札束は腐ってはいなかった。
乾燥剤を入れてあったのも幸いしたらしい。
「車に積んである札束と比べると、これなら3億はありそうだ」

聖徳太子の万券で、3億の金。
「これって、もしかしてあの事件の・・・」
なるほど。あの金はここにあったのか。

ここで中断。

この先も面白いです。
使えない金をどうやって使えるようにするか。
「俺」は知恵を振り絞って考えますが、「面倒な金」はさらにどんどこ増えて行くのです。

砂漠を歩き、ようやく抜け出たと思ったら、そこは海。
この状態で海の水を飲んだら死ぬし、水蒸気を集めている時間は無い。
ここで果たして・・・、という状況です。

これは小説にしてみることにしました。

後で天皇賞の結果を見ました。楽しめましたが、元取りでした。
この話の方が数段面白いかもしれません。