日曜の2つ目の夢です。
オレは侍だ。
主人の護衛をしており、常時その傍にいる。
と言っても、主人の視野に入るか入らないかくらいの距離だ。
間合いは概ね五間。何か場が緊張した時には、三間まで詰める。
その距離なら、誰かが主人に斬りかかっても、間に飛び込んで防御できる。
この日も大広間の片隅に立ち、中を見回していた。
主人の前に1人の男が進み出る。
男は床に手をついて座礼をした。
「後ろに手相見を連れて来ました。都で一番と言われている手相見でござりまする」
これを聞いた主人の目が光る。
「ふん。前に連れて来い」
オレは内心ドキドキした。
「不味い。関白さまがご立腹だ」
それもそのはずだ。手相見だものな。
オレは主人の近くにいる前田さまの方を向いた。
オレの視線を感じたのか、前田さまもオレの目を見た。
眉間の間に皺が寄っている。
広間の前に進んで来たのは、五十歳くりの男だった。
「どれ。わしの手を見てみろ」
主人が右手を差し出した。
男が歩み寄って、その手を取る。
「ああ。これは・・・」
「何だ。すぐに申してみよ」
男は黙ったままだった。
いかん。これから嵐が来るぞ。
オレはとばっちりを食らうことが無いように、視線を床に落とした。
「声に出して言ってみよ。何か気の付いたことがあるのか」
きっとオレの主人は、今は怖ろしい顔つきをしていることだろう。
こんな状況は幾度もあった。
また幾つもの首が飛ぶだろうな。
狼狽える手相見を前に、主人が怒声を浴びせた。
「こんな役にも立たない奴をなぜわしの前に連れて来た。こやつとさっきの男の首を刎ねろ。ここから良く見えるように、城の真下で刎ねるのだぞ」
「ああ。そんな」
先ほど仲介した男も大慌てで前に出る。
「お待ち下され。何かの手違いでござりまする」
主人が「ふん」とせせら笑う。
「何が間違いだ。これを見よ」
いかん。オレは一層、深く頭を下げ、前を見ないようにした。
おそらくオレの主人は自分の右の掌を開いて示している筈だ。
そして、その掌には指が六本ついている。
「ああっ!」
男たちの数人が声を上げた。
すかさず主人が命じる。
「今、声を上げた者たちの首も刎ねよっ」
視線を上げると、前田さまがオレに目配せをしていた。
「すぐに収拾しろ」という合図だ。
オレは立ち上がって、小走りで男二人に近づいた。
「お前たちを拘束する。神妙に従え。従わずば、一族皆が苦しむことになるぞ」
オレは前の男を蹴り倒した。
オレの同僚が三人で男二人を取り囲む。
「無礼者」「覚悟しろ」
大声を上げるのは、他の者を守るためだ。
大仰に騒ぎ、当事者二人を捕縛することで、主人が「声を上げた者総てを殺せ」という後の命令を忘れてくれるかもしれん。
話を極力小さくするには、当事者二人にすぐに死んで貰わねばならぬのだ。
二人を捕縛し、オレたち護衛は廊下に出た。
長い廊下を渡り、階下に降りる。
後ろに人の気配が無くなったところで、オレは二人に告げた。
「関白さまの指が六本あることをお前たちは知らなかったのか。まあ無理もない。噂話をしたことが知れただけで、首が飛ぶ」
「どうかお助け下さい」「お願いします」
「もはやどうにもならぬ。もしお前たちの家族の命を助けたくば、出来るだけみじめな死に方をせよ。声を高く泣き叫べ。そうすれば、関白さまはそれで満足なされる」
男たちががっくりと頭を垂れる。
オレはここで深くため息を吐いた。
「ああ。こんな世の中は早く終わってくれぬものか」
しかし、あの男が生きている限り、ずっとこれが続くのだ。
オレはもう一度、ため息を吐いた。
ここで覚醒。
「そろそろ続きを書け」という暗示だろうと思われます。
それなら、日に数時間ずつでも机に向かえるようにならないとね。