月曜の午前9時頃に観ていた夢です。
眼が醒めると、どこかの座敷にいた。
入り口に近い方に、中年の男と並んで座っている。
「ははあ。これから接待なんだな」
尻のポケットをまさぐると、定期入れがある。
引き出して、中の身分証を見ると、オレは片桐と言う名で33歳だった。
これから誰か客が来るわけだ。
隣の男はオレの上司で、その客を接待することになる。
程なく、その「客」がやってきた。
どこか外国のビジネスマンだった。
肌が浅黒いので、アジアから中東にかけてのどこかの国だろ。
オレは英語で挨拶した。
なるほど。課長がオレを連れて来たのは、このオレが英会話が堪能だからだ。
客も2人で、いずれも五十くらいの年恰好だ。
席に座り、もう一度簡単な挨拶をした。
どうやら商談はもうまとまっており、この2人は帰国するところらしい。
早朝の便なので、この近くにホテルを取り、夕食はこっち持ちで接待をする。
ここはかなり良い方の料亭なんだな。
街中にあるのに、周囲の音が聞こえない。
建物の周りに空間があり、日本庭園なども誂えてあるのだろう。
たぶん、障子を開ければ、外には池がある筈だ。
料理が運ばれて来る。
乾杯と行きたいところだが、客たちは酒を飲まないようだ。
宗教の関係か。
料理の方は、魚料理が中心のようで、問題は無い。
食事が半ばになったところで、課長が口を向けた。
「そろそろきれいどころを呼びましょう」
仲居を呼んで、何かを伝える。
芸者が来るんだな。用意の良いこった。
すぐに襖の陰から声がかかる。
「こんばんは~」
襖が開き、女たちが顔を出す。
若い女2人だった。
片方が二十七八。もう片方は二十二三だ。
ありゃ。芸者じゃないのか。
コンパニオン?それにしては様子が少し違う。
ここでピンと来る。
ここは貸切に出来る料亭なんだな。たぶん、奥には座敷がある。
客たちのご馳走は前の前の料理じゃなくて、この子たちだ。
「ま、それくらいは当たり前だ」
その手の接待用に、N田にもU野にも外人向けの組織があるし、日本の会社の多くがそこを使って顧客にサービスを提供している。
道理で、日本出張が喜ばれるわけだ。
有名な俳優のA.〇ロンだって、それが気に入ったので何度も来日したもんだ。
女たちを見る。
年かさの方は世慣れた雰囲気だが、若い方はどう見ても素人にしか見えない。
いったいどうなってるんだろ。
「ま、オレには関係が無い。こいつらだって仕事で来てるんだし、オレがどう思おうが知ったこっちゃないだろ」
再び料理が出て来る。
今度は女たちの分も運ばれて来た。
課長がここで客に口を向けた。
「この子たちにはお酒を運んでも宜しいですか」
客の1人が頷く。
「構いませんよ。あなた方もどうぞ」
「いや。我々は」
「私たちは信仰により飲酒は禁じられていますが、あなた方にはそれは無い。なら、飲んでも平気だし、私たちも気にはしません」
「そうですか」
課長は案外あっさりと引き下がり、酒を頼んだ。
やはり場を和ませるのは、酒と女だ。
次第に、話が弾んでくる。
オレは極力抑え目にしていたが、それでも少し気分が高揚した。
すると突然、携帯電話の着信音が響いた。
マイケル・ジャクソンの曲だった。
「あ。私だ」
客の偉そうな方が電話を取った。
(マイケルかよ。信仰は大丈夫か。)
オレはそう思ったが、もちろん、表情には出さない。
客は何ごとかを早口で話すと、電話を切った。
「急用で私たちはホテルに戻ることになりました。明日は早いので、そのままそこに泊まります。では」
相棒に顎をしゃくると、2人で立ち上がる。
「え?そうなんですか。せっかく会食の場を設けましたのに」
課長がとりなすが、客たちは急いで店を出て行った。
玄関口まで送った後、課長とオレは部屋に戻った。
「金は払ってあるんだから、最後まで食べよう。おおい。酒を頼みます」
仲居に伝える。
課長とオレ、それに女2人で席を組み替え、座り直した。
「今度は気兼ねなく飲めるぞ」
「乾杯」
2杯ほど飲むと、年かさの女が課長に小声で言う。
「ねえ。私たちの分はどうなるの。もちろん払って貰えるでしょうね」
課長が頷く。
「そりゃ当たり前だろ。客が帰ったって金は払う。だが、頼んだ仕事はしてもらうぞ」
「あの客じゃなく、あなたに、あなた方に対してってこと?」
「そうだよ」
「じゃあ、前金で今払って」
「分かった」
課長は「どうせ会社の経費で落とすんだから、オレが頂いとこう」と考えたのだ。
「ここじゃあダメよ。外で渡して」
女は小さな声で話をしていたが、オレには聞こえていた。
課長とその女は立ち上がると、部屋の外に出て行った。
部屋には、オレと若い方の女が残った。
その女は酒を飲んだので、顔が少し上気していた。
(この女は、とてもこの手の仕事をしてる女には見えない。一体どんな事情があったんだろ。)
オレは生来、お節介焼きだった。
首を突っ込む必要が無いところに、刺さってしまう。
我慢しきれなくなり、オレはその女に尋ねた。
「どうしてこんな仕事をしてるの?」
これは、けして訊いてはいけない質問だ。
「こんな仕事?」
確かに蔑視的な表現だな。
「仕事をするようになって長いの?」
女が首を傾げる。
「え。わたしは学生ですよ。外国人のお客が来るから、言葉の堪能な人に通訳を頼むと言われて来たんです。ご馳走も食べられるし、とっても良いアルバイトだって・・・」
こりゃどうも話がおかしいぞ。
もしかして、この子は騙されて連れて来られたんじゃあ。
オレは席を立ち、課長を探すことにした。
襖を開くと、廊下の陰から声が聞こえる。
課長と年かさの女の声だ。
「あの子を連れ出すのには苦労したんだから。お客さんの注文が『完全な素人を』って話だったからね。私は7万だけど、あの子は15万よ。事前に約束した通り払ってちょうだい」
「ここの離れが60万で、君らが22万か。随分高くつくなあ」
「外人だと言う話だから、リスク代もあるのよ。相手が日本人に代わったからと言って、値段は変わらない」
「じゃあ、オレがあっちの子だ。片桐を黙らせなくてはいかんから、お前はあいつをこってりとたらしこんでくれ。今夜はあいつにも仕事を覚えさせる」
なるほど。ここでオレは納得した。
あの年かさの女は、若い方の女を騙して連れて来たのだ。
まあ、「素人を連れて来い」というリクエストに応えるには、それしか手は無い。
1度引きずり込んでしまえば、次からはそれを「脅し」の材料として使うわけだ。
そうなると、段取りはきっと・・・。
オレはここで座敷に戻った。
年かさの女のバッグが長卓の脇に置いてある。
オレはそのバッグの口を開けた。
「ちょっと。それは・・・」
若い女がオレを制止しようとする。
「あった。やっぱり睡眠薬だ」
ここで女の方に向き直る。
「これを君に飲ませて眠らせる。それから・・・」
オレは立ち上がって、隣の部屋との仕切りの襖を開いた。
思った通り、その部屋には布団が敷いてあった。
「こっちで君のことを犯させる段取りだったんだよ」
背後を振り返ると、その女はびっくりして目を丸くしていた。
オレは席に戻って、グラスを手に取った。
ビールが半分残っている。
そのグラスに睡眠薬を入れると、次にもう1つのグラスにも入れた。
もちろん、課長のと、あの年かさの女だった。
若い女はオレのすることをじっと眺めている。
「黙ってなよ。君のことを騙して、客に強姦させようとしていた奴らなんだから。客がいなくなったから、今度は課長が君のことを犯すつもりなんだよ」
あの2人が戻ってくる。
オレはすぐに自分のグラスを高く掲げた。
「課長。随分長く掛かりましたね。じゃあ、飲み直しましょう。まずは乾杯から」
若い女に目配せをする。
この先の手順は決まっている。
課長と年かさの女が寝込んだら、隣の部屋に連れて行く。
そこで2人とも裸にして、2人一緒の裸の写真を撮る。
もちろん、それでどうのこうのするつもりは無い。
ただ保険として仕舞って置くだけだ。
ま、十五年後くらいに役に立つ日が来るのかもしれないが、今は何かあった時の用心に証拠を残しておくだけなのだ。
前に向き直ると、若い方の女がオレをじっと見ていた。
オレはこの子のことを、初めて普通の視線で眺めることが出来た。
「この子。結構可愛いよな」
ここで覚醒。