日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第389夜 料亭で

月曜の午前9時頃に観ていた夢です。

眼が醒めると、どこかの座敷にいた。
入り口に近い方に、中年の男と並んで座っている。
「ははあ。これから接待なんだな」
尻のポケットをまさぐると、定期入れがある。
引き出して、中の身分証を見ると、オレは片桐と言う名で33歳だった。
これから誰か客が来るわけだ。
隣の男はオレの上司で、その客を接待することになる。

程なく、その「客」がやってきた。
どこか外国のビジネスマンだった。
肌が浅黒いので、アジアから中東にかけてのどこかの国だろ。

オレは英語で挨拶した。
なるほど。課長がオレを連れて来たのは、このオレが英会話が堪能だからだ。
客も2人で、いずれも五十くらいの年恰好だ。
席に座り、もう一度簡単な挨拶をした。
どうやら商談はもうまとまっており、この2人は帰国するところらしい。
早朝の便なので、この近くにホテルを取り、夕食はこっち持ちで接待をする。

ここはかなり良い方の料亭なんだな。
街中にあるのに、周囲の音が聞こえない。
建物の周りに空間があり、日本庭園なども誂えてあるのだろう。
たぶん、障子を開ければ、外には池がある筈だ。

料理が運ばれて来る。
乾杯と行きたいところだが、客たちは酒を飲まないようだ。
宗教の関係か。
料理の方は、魚料理が中心のようで、問題は無い。

食事が半ばになったところで、課長が口を向けた。
「そろそろきれいどころを呼びましょう」
仲居を呼んで、何かを伝える。
芸者が来るんだな。用意の良いこった。
すぐに襖の陰から声がかかる。
「こんばんは~」
襖が開き、女たちが顔を出す。
若い女2人だった。
片方が二十七八。もう片方は二十二三だ。

ありゃ。芸者じゃないのか。
コンパニオン?それにしては様子が少し違う。
ここでピンと来る。
ここは貸切に出来る料亭なんだな。たぶん、奥には座敷がある。
客たちのご馳走は前の前の料理じゃなくて、この子たちだ。
「ま、それくらいは当たり前だ」
その手の接待用に、N田にもU野にも外人向けの組織があるし、日本の会社の多くがそこを使って顧客にサービスを提供している。
道理で、日本出張が喜ばれるわけだ。
有名な俳優のA.〇ロンだって、それが気に入ったので何度も来日したもんだ。

女たちを見る。
年かさの方は世慣れた雰囲気だが、若い方はどう見ても素人にしか見えない。
いったいどうなってるんだろ。
「ま、オレには関係が無い。こいつらだって仕事で来てるんだし、オレがどう思おうが知ったこっちゃないだろ」

再び料理が出て来る。
今度は女たちの分も運ばれて来た。
課長がここで客に口を向けた。
「この子たちにはお酒を運んでも宜しいですか」
客の1人が頷く。
「構いませんよ。あなた方もどうぞ」
「いや。我々は」
「私たちは信仰により飲酒は禁じられていますが、あなた方にはそれは無い。なら、飲んでも平気だし、私たちも気にはしません」
「そうですか」
課長は案外あっさりと引き下がり、酒を頼んだ。

やはり場を和ませるのは、酒と女だ。
次第に、話が弾んでくる。
オレは極力抑え目にしていたが、それでも少し気分が高揚した。
すると突然、携帯電話の着信音が響いた。
マイケル・ジャクソンの曲だった。
「あ。私だ」
客の偉そうな方が電話を取った。
(マイケルかよ。信仰は大丈夫か。)
オレはそう思ったが、もちろん、表情には出さない。
客は何ごとかを早口で話すと、電話を切った。
「急用で私たちはホテルに戻ることになりました。明日は早いので、そのままそこに泊まります。では」
相棒に顎をしゃくると、2人で立ち上がる。
「え?そうなんですか。せっかく会食の場を設けましたのに」
課長がとりなすが、客たちは急いで店を出て行った。

玄関口まで送った後、課長とオレは部屋に戻った。
「金は払ってあるんだから、最後まで食べよう。おおい。酒を頼みます」
仲居に伝える。
課長とオレ、それに女2人で席を組み替え、座り直した。
「今度は気兼ねなく飲めるぞ」
「乾杯」

2杯ほど飲むと、年かさの女が課長に小声で言う。
「ねえ。私たちの分はどうなるの。もちろん払って貰えるでしょうね」
課長が頷く。
「そりゃ当たり前だろ。客が帰ったって金は払う。だが、頼んだ仕事はしてもらうぞ」
「あの客じゃなく、あなたに、あなた方に対してってこと?」
「そうだよ」
「じゃあ、前金で今払って」
「分かった」
課長は「どうせ会社の経費で落とすんだから、オレが頂いとこう」と考えたのだ。
「ここじゃあダメよ。外で渡して」
女は小さな声で話をしていたが、オレには聞こえていた。
課長とその女は立ち上がると、部屋の外に出て行った。

部屋には、オレと若い方の女が残った。
その女は酒を飲んだので、顔が少し上気していた。
(この女は、とてもこの手の仕事をしてる女には見えない。一体どんな事情があったんだろ。)
オレは生来、お節介焼きだった。
首を突っ込む必要が無いところに、刺さってしまう。
我慢しきれなくなり、オレはその女に尋ねた。
「どうしてこんな仕事をしてるの?」
これは、けして訊いてはいけない質問だ。
「こんな仕事?」
確かに蔑視的な表現だな。
「仕事をするようになって長いの?」
女が首を傾げる。
「え。わたしは学生ですよ。外国人のお客が来るから、言葉の堪能な人に通訳を頼むと言われて来たんです。ご馳走も食べられるし、とっても良いアルバイトだって・・・」

こりゃどうも話がおかしいぞ。
もしかして、この子は騙されて連れて来られたんじゃあ。
オレは席を立ち、課長を探すことにした。
襖を開くと、廊下の陰から声が聞こえる。
課長と年かさの女の声だ。
「あの子を連れ出すのには苦労したんだから。お客さんの注文が『完全な素人を』って話だったからね。私は7万だけど、あの子は15万よ。事前に約束した通り払ってちょうだい」
「ここの離れが60万で、君らが22万か。随分高くつくなあ」
「外人だと言う話だから、リスク代もあるのよ。相手が日本人に代わったからと言って、値段は変わらない」
「じゃあ、オレがあっちの子だ。片桐を黙らせなくてはいかんから、お前はあいつをこってりとたらしこんでくれ。今夜はあいつにも仕事を覚えさせる」

なるほど。ここでオレは納得した。
あの年かさの女は、若い方の女を騙して連れて来たのだ。
まあ、「素人を連れて来い」というリクエストに応えるには、それしか手は無い。
1度引きずり込んでしまえば、次からはそれを「脅し」の材料として使うわけだ。
そうなると、段取りはきっと・・・。

オレはここで座敷に戻った。
年かさの女のバッグが長卓の脇に置いてある。
オレはそのバッグの口を開けた。
「ちょっと。それは・・・」
若い女がオレを制止しようとする。

「あった。やっぱり睡眠薬だ」
ここで女の方に向き直る。
「これを君に飲ませて眠らせる。それから・・・」
オレは立ち上がって、隣の部屋との仕切りの襖を開いた。
思った通り、その部屋には布団が敷いてあった。
「こっちで君のことを犯させる段取りだったんだよ」
背後を振り返ると、その女はびっくりして目を丸くしていた。

オレは席に戻って、グラスを手に取った。
ビールが半分残っている。
そのグラスに睡眠薬を入れると、次にもう1つのグラスにも入れた。
もちろん、課長のと、あの年かさの女だった。
若い女はオレのすることをじっと眺めている。
「黙ってなよ。君のことを騙して、客に強姦させようとしていた奴らなんだから。客がいなくなったから、今度は課長が君のことを犯すつもりなんだよ」

あの2人が戻ってくる。
オレはすぐに自分のグラスを高く掲げた。
「課長。随分長く掛かりましたね。じゃあ、飲み直しましょう。まずは乾杯から」
若い女に目配せをする。
この先の手順は決まっている。
課長と年かさの女が寝込んだら、隣の部屋に連れて行く。
そこで2人とも裸にして、2人一緒の裸の写真を撮る。
もちろん、それでどうのこうのするつもりは無い。
ただ保険として仕舞って置くだけだ。
ま、十五年後くらいに役に立つ日が来るのかもしれないが、今は何かあった時の用心に証拠を残しておくだけなのだ。

前に向き直ると、若い方の女がオレをじっと見ていた。
オレはこの子のことを、初めて普通の視線で眺めることが出来た。
「この子。結構可愛いよな」

ここで覚醒。