日刊早坂ノボル新聞

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夢の話 第403夜 ある少年の話

◎夢の話 第403夜 ある少年の話
 火曜の朝、6時ごろに観ていた夢です。

 目を開くと、俺のすぐ前にはひとりの少年が座っていた。
 年の頃は18歳かそこらだろ。
 「僕は本当は55年後の世界から来たのです。聞いて貰えますか」
 何か話したいことがあるらしい。
 「いいよ。なんでも話してごらん」
 これから先は、その子が話した内容だ。

 僕の居た世界は、ロニーという独裁者に支配されている。
 その独裁者は、最初は改革を叫んで、第一党まで上り詰めたのだが、議会で多数を占めると、たちまち豹変し、独裁政治を行うようになった。
 その行き着く先があの戦争だ。
 核ミサイルが世界中を飛び交った。
 当然、僕の居た街にも飛んで来た。
 僕はそのミサイルが白い軌跡を残して飛んで来るのを見ていた。
 それを見ながら考えていたのは母のことだ。
 その時、僕は「ああ。母を助けたい。母の命を救えるのなら、魂を悪魔に売り渡しても良い」と考えた。
 すると、いつの間にか僕の隣に男が立っていた。
 「本当か?」
 どこかで見たことがある男だ。ああそうだ。『ゴッド・ファーザー』という昔の映画に出ていた「サル」って役の男だ。
 「そりゃ、誰だってそう思いますよ。今のこの状況じゃあね」
 あと1分かそこらで、この世は終わりだもの。

 「じゃあ、お前にチャンスをやろう。これから過去に戻って、好きな事をするが良い。母親を助けるなり何でも良い。大人なら1回だけだが、お前はまだ子供だから、3回やり直すチャンスをやる」
 男はまるで物語に出て来る悪魔が言いそうなことを言っていた。
 「いつの時でも良い。お前は8時間だけその世界に留まることが出来る。どこに行くかはお前の潜在意識次第だ。お前はそこで何でも好きなことをやると良い。それが終わったら、その先は言わずとも分かっているだろう。だが、どんな境遇になろうとも、今よりははるかにましだろ。お前も、お前の母親も、核兵器の炎に焼かれて死ぬのだから」
 否も応も無い。
 「良いですよ」
 そう答えた瞬間、僕はしゅんと意識を失った。

 気が付くと、僕は家にいた。
 テレビの画面を見ると、今は昨日、すなわち1日前の朝だった。
 「早くご飯を食べて、学校に行きなさい」
 母の声がする。
 「お母さん。僕は学校には行かないよ。お母さんと一緒に早くこの国から出ないと」
 母が近づく。
 「どうしたの?登校拒否?それとも、引きこもり?」
 にこやかに笑っている。息子のことを微塵も疑っていないのだ。
 「お母さん。明日、核戦争が起きる。だから今のうちに逃げないと。南太平洋の島とか、ブラジルとか」
 「でも、もしそうなるなら」
 母はこんな話でも、僕の言う事をきちんと聞いてくれる。
 「どこに行ったって、同じじゃない?放射能が世界中に回るもの」
 ホントだ。ダメじゃん。
 ここで僕はしゅん、と気を失った。

 次に目が覚めると、僕は空港の中に居た。
 「ありゃ。僕はやっぱり飛行機で逃げることにしたのかな」
 目の前には、僕と同じくらいの年恰好の女の子が座っている。
 母だった。母の若い頃の姿だ。
 そうなると、30年近く前に戻っているんだな。 
 「どこに行くの?」
 僕はその子に訊いた。
 「フランスよ。留学するの」
 そうだ。母は高校生の時にフランスに留学したんだった。
 「ずっとそっちで勉強するの?」
 「まだ決めてない」
 確か母は、2年間そこで過ごして、国に戻って来たのだ。
 「フランスは良いところだよ。良い大学もあるし、素敵な街もある。ずっとそこで暮らせばいいのに」
 そうすれば、核ミサイルも避けられる。
 僕はフランスがどんなに良く国かを力説した。
 夕暮れの空港で、空を飛行機が行き交っている。
 フライトの時刻が近づいた時に、母が言った。
 「私は高校を卒業するまであの国で勉強して、また戻って来るわ。だって、こうやってあなたと知り合いになれたのだもの」
 息子にとって母親が大切な存在であるのと同じように、母親にとっても息子は一番の宝物だ。母はすぐに僕を身近な存在だと気付いたが、今は男女の情と勘違いしているようだ。
 「だめじゃん」

 次に目が覚めると、僕は病院の中だった。
 「随分昔だな」
 少し歩くと、看護ステーションがあった。カウンターに近寄ると、カレンダーが貼ってあった。あれま、僕のいた時代よりも55年前だ。
 「こうすべきだ」と僕が潜在意識で思っている時代に送られる約束だったが、ここに来たのは何故だろう。
 その答えはすぐに見つかった。
 僕の居たのは小児科で、窓の向こうには、赤ちゃんが沢山並んでいた。
 その中に、「ロベルト・ロニー」という名前があった。
 「こいつは、独裁者ロニーじゃないか」
 なるほど。僕の使命は、この先の皆の運命をここで止めることだったのだ。
 僕はそのことに気づき、ドアを開けた。
 ここまでがその少年の話だ。

 「でも、お前はその部屋にいた赤ん坊を全員殺した。ロベルト・ロニーだけでなくね」
 俺の言葉に、少年が首を振る。
 「もうチャンスは1回しか残っていない。僕は確実にそれを行うしかなかった。たとえ赤ちゃんの名札が隣の子と取り違えられていたとしてもね。全員を殺したなら漏れは無い。確実でしょ」
 「でも、その結果、君は死刑になる。第一級殺人は年齢に関わらず大人と同じ扱いだから、18歳だろうと10歳だろうと、人を殺せば死刑なんだよ。後悔は無いのか」
 ここで少年が俺の目を見据える。
 「僕は僕と同じ時代の人を何億人も救った。あなたたちはこれから独裁者に服従することも無ければ、核ミサイルも見ずに済むんだ」

 奇妙な話だった。複数の殺人を犯した犯人で、はっきりした証拠があっても、死刑になる間際には「俺は無実だ」と叫ぶものだ。
 だが、この子の話はかなり違う。
 俺は牧師として、死刑囚の告解を幾度も聞いているが、こんなのは初めてだった。

 「そろそろ時間です」
 鉄格子の外から刑務官が声を掛けて来た。
 その刑務官の方を向くと、どこかで見たような顔をしていた。
 ラテン系の彫りの深い顔だった。
 その男は『ゴッドファーザー』という映画に出ていた「サル」って役名の男に似ていた。

 ここで覚醒。