◎ 夢の話 第427夜 主討ち
居間でうたた寝をしていた時に観た夢です。
瞼を開くと、大広間でオレは正座をしていた。
オレの名前は坂東角之進だ。
「ここは・・・。上月城だな」
上月城は隣の国の城だ。
ここの主は村岡という名で、オレの主君の親戚だ。
ゆっくりと思い出して来る。
「オレは京三郎さまを迎えに来たのだ」
オレの主君は十島晴吉で、京三郎さまはその三男だ。
この上月城には後継ぎの男児が出来なかったので、長女の海姫さまに親戚筋の十島から婿養子を迎えることにした。
幸い、十島には男が三人居る。その内の三男の京三郎さまを婿にすることに決まったのが、およそ1年前だ。
ところが、半年前に、十島領に流行病が広がり、十島の後継ぎの男2人が急死してしまった。長男の長之助さまと光次さまだ。
そして、あろうことかオレの主君の十島大膳もその病に罹ってしまい、今にも息絶えてしまいそうな状況だ。
そこで、急遽、オレが派遣されたという訳だ。
オレの務めは、京三郎さまを国に召還することだ。
幸い、上月の当主は健在で、今は火急の事態だから、「京三郎さまを返してくれ」と申し出れば応じてくれるかもしれぬ。
どうしても応じてくれぬ場合は、いざとなれば「京三郎さまの御代になったら、二つの国を統合する」という案でもよいことになっている。
もはや主君は判断の能力を失っているし、家老の中で生き残っているのは、最年少三十三歳のオレだけだから、オレが話を取りまとめても良いことになっている。
だが、その話を持ち出すのは最後の最後だ。
この大広間は「松の間」という名だ。
この松の間に入ってから、もはや半時以上も待たされている。
用件は書状で先送りしてあるから、当主か京三郎さまが出て、早々に決めて貰う方が有難い。
そのまま長々正座して待って居ると、ようやく人が現れた。
一人は御簾の後ろを通り、上座奥に座った。これはここの主の上月だろう。隣には小姓が一人付いている。
オレの前には、年の頃は四十半ばの侍が正対して座った。
これは秋山と言う名で、上月家の執事だ。
「坂東殿。せっかく起こし頂いたが・・・」
秋山が口を開いた。
「十島さまのご意向に添うことは出来ぬ」
「はい?」
「上月さまは三日前にお亡くなりになられた。京三郎さまは、その後を継がれる」
「この上月領でも、病が流行っているのですか?」
「いや、昭信さまが亡くなられたのは事故による。馬から落ちられて首の骨を折られたのだ」
オレは事の次第を確かめるため、秋山の方ににじり寄った。
「しかし、このままでは十島の家は絶えてしまいます。上月村岡家では女子とは言え、他に三人のお子が居られます。いずれかの方に改めて婿を貰うことも出来ましょう。京三郎さまのご兄弟は流行病にて急逝なされました。ゆえに十島の後継ぎは京三郎さまお一人なのです」
オレの話を聞いて、秋山が思案している。
秋山が御簾の向こうの京三郎さまの方に顔を向けると、その主は家臣に向かって手招きをした。それに応じ、秋山が腰を上げ、御簾の向こうに入って行った。
二言三言の言葉を交わすと、秋山が戻って来る。
「京三郎さまは、国には戻られないと申されておる」
思いも寄らぬ言葉だった。
自分一人が十島の血縁で、かつ上月村岡の婿養子でもある。話の流れは、ひとまず次の代で二つの国を統合し、子が複数生まれたら、子どもらで再分割するのが定石だ。
オレは続けてその申し出を行うつもりだったのだ。
「京三郎さま。率直に申し上げて、貴方さまはこの後二つの国を統治することが出来まする。それならば・・・」
断るべき話ではないではないか。
すると、御簾の奥から声が響いた。人づてに会話をするのがまどろっこしくなったのだろう。
「参らぬ。わしは参らぬぞ」
「はい?」
主君筋に対し、無礼なふるまいをするが、オレは思わず問い返してしまった。
御簾の向こうから聞こえた声は、十島家の三男としてオレが記憶する京三郎さまの声では無かったからだ。 (後略)
十島家の三男は、上月家に婿入りする時に、道中で随身として従っていた妾腹の侍によって、取って代わられていたのだった。
十島京三郎に成り代わって婿養子に入ったので、その男はどうあっても国には帰れない。
十島の家臣に会うと、自分が偽者だということが露見してしまう。
その男は反逆者だが、十島の遠縁の者でもあるから、家を断絶させないために活かす手もある。しかし、反逆者は反逆者なので、侍としてはこれを殺す方が道に適う。
反逆者を殺すと、主の家が断絶してしまうので、オレは悩み苦しむ。
そんな筋の夢でした。
なかなか悪くない流れなので、話として検討する価値はありそうです。
当方が夢の中の「オレ」なら、間違いなく偽者を殺そうと決断するだろうと思います。