◎夢の話 第483夜 通行人
夕食後の仮眠の時に観た夢です。
眼を開くと、改札が見える。
オレはどこか都心の駅にいた。
背中を壁に預け、人が行き来するのを眺めていたようだ。
「誰かと待ち合わせをしているのか」
まったく思い出せない。
「まあ、いずれ思い出すだろ」
ここは地下のよう。すなわち目の前に見えるのは地下鉄の改札だってことだ。
ひっきりなしに人が現れては、改札口に吸い込まれていく。
通行人の年恰好を見れば、今の時間帯が分かる。
高齢者が多ければお昼過ぎで、学生が多ければ朝か夕方だ。
今歩いている人はどちらかと言えば若い世代が多いから、通勤ラッシュの時間を少し越えた辺りか。
オレのすぐ前を眼鏡を掛けた40歳くらいの男が通る。
大きめのセカンドバッグを抱えて、まっすぐ前だけを見て、すたすたと改札に入って行った。
その次に通ったのは、30歳くらいの女性だ。
目が痛くなるくらい真っ赤なコートを着ている。この人はオレにぶつかりそうなくらい近くを通り過ぎ、やはり改札に入って行った。
ここではたと思い出す。
「オレは女を待っていたのだ」
そっか。それだそれだ。
その女とは半年くらい前に別れたのだが、数日前にその女から連絡があったのだ。
「会ってくれない?」
勝手なもんだ。「別れよう」と言ったのは自分なのに。
まあ、「捨てられた方」は自分を捨てた相手のことをすぐに忘れるが、「捨てた方」は長く記憶に留めると言う。
オレの方は未練のような気持ちは無くなっているのだが、さりとて「会いたくない」と言うのも癪に障る。そこで、ひとまず会う事にしたのだった。
「だが、腹が立つことに、『会ってくれ』と言った方が遅く来やがる」
約束の時刻より、もはや15分以上が過ぎていた。
次第にイライラして来る。
そのオレのすぐ前を男が通った。
40歳くらいで、大きめのセカンドバッグを抱えている。
「ありゃ。この人さっきも通ったよな」
男の姿を眼で追う。
やはり先程の男だった。
「何か忘れ物をするか何かして、一旦戻ったのかな」
だが、別の改札はかなり遠いから、戻るならここから出ている筈だ。
「まさか幽霊?」
駅は幽霊が良く出る所だ。人ごみに紛れて、ごく普通に歩いている。
自分は生前通りに通勤しようと思っている訳だが、同じ所を繰り返し通り過ぎる。
頭の中が考え事で一杯だから、自分が死んだことさえ忘れているのだ。
「ま、そんなことは滅多にないよな」
ここで撮影できればはっきりするが、駅でカメラを出すと怒り出す人が出る。
それに、人が一杯いるから、中に数人変なのが混じって居ても気にはならない。
目の前を女が通る。オレの目と鼻の先だ。
女は赤いコートを着ていた。30歳くらいで、我が強そうな表情をしている。
「ありゃ。この女もさっき通ったよな」
どうにも解せない。
改札を通ったのだもの。電車に乗ってどこかに行った筈だよ。
わざわざ2百辰眄茲諒未硫?イら出て、ここに戻って来たりするか?
「おかしいよな」
それにしても、オレの「元カノ」が来ない。
既に30分を超えて待っている。
「腹が立って来たぞ。もう帰ってしまおうか」
そんなことを考えた瞬間、オレのすぐ前を男が通った。
40歳くらいでバッグを抱えている。支払いの用事でもあるのか、がっちりと両手で鞄を握っていた。
「コイツ。絶対にさっき通った奴だ」
即座に、オレの肩を掠めて、赤いコートの女が通り過ぎる。
「何だ。こいつ」
ぶつかったことに、気づいてもいないようだ。
ここでオレの頭の中で妄想が膨れ上がる。
「あいつらは『侵略者』だったりしてな」
コピーされた「人間もどき」で、同じのが沢山いる。人間社会に入り込んで、征服の機会を覗っているわけだ。
「なあんてな」
それじゃあ、「幽霊」以上に有り得ないや。
「じゃあ、時空を超えているってのはどうだ」
あいつらはごく普通の人間で、ここを通ったのは1度だけ。ところが、その同じ場面をオレが何度も繰り返し観ているという筋だ。
「でも、タイムマシンみたいな設定は無理だよな。ここは駅の中だ。最近の流行小説はそんなのばっかりだし、それはないだろ。つまらん」
それじゃあ、物語としては、どういう設定が自然かな。
「分かった。変なのはオレの方。オレがこの場に留まって、同じ時間を反芻してるんだ」
すなわち、幽霊はオレの方だってことだな。
それなら納得する。
周りの人たちだって、まるでオレが存在しないような振る舞い方だもの。
そう考えたその瞬間、オレの頭に1つの考えが浮かんだ。
オレが待ち合わせのために道を急いで渡ろうとして、車に撥ねられるイメージだ。
この駅のすぐ上の交差点での出来事だ。
「あれから、今日でちょうど16年が経つなあ」
ここで覚醒。