日刊早坂ノボル新聞

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◎夢の話 第496夜 最後の応援歌

◎夢の話 第496夜 最後の応援歌
29日の朝6時30分頃に観た夢です。

目を開くと、路上に立っていた。
自分が誰で、何をしようとしているかは分からない。
とりあえず、夢では一番多い「ケンジ」としておこう。
自分のなりを確認すると、何か学生服みたいな制服を着ていた。
「オレって高校生?それとも大学生なのか」
まったく思い出せない。

進行方向に目をやると、歩道橋がある。
「ま、これを渡ってどこかに行こうとしてたんだろうな」
オレは歩道橋に歩み寄って、階段を上り始めた。
階段の上まで上ると、手すりの土台みたいなコンクリの端に女の子が座っていた。
「お。菊江ちゃん。どうしたの」
菊江ちゃんはオレの幼馴染で、たぶん同級生だ。
菊江ちゃんが口を開く。
「うん。ケンジ君のことを待ってた」
菊江ちゃんが立ち上がり、スカートの裾を手ではたいて埃を落とす。
「ケンジ君は遠くに行くんでしょ。だから挨拶しとかなきゃと思って」
ああそうだ。オレはどこか都会に行くことになってたな。そんな気がする。

「もしかして、ずっと会えなくなるれないから、今のうちに言っとこうと思ったの」
菊江ちゃんは思いつめたような表情だ。
オレはその瞬間思った。
「ありゃ。これは映画でよくある告白のシーンだ。男の子なら憧れる場面だな」
菊江ちゃんは幼馴染で親同士も仲が良い。家族ぐるみの付き合いってヤツだ。
だから、オレと菊江ちゃんは、まるで「きょうだい」みたいに育ったのだ。
そういったわけで、オレは菊江ちゃんをこれまで女性と意識したことは無い。
男の頭は幼いからな。
まあ、いつも口ゲンカばかりしていたし・・・。
だが、どうやら菊江ちゃんのほうは違っていたらしい。

「ケンジ君ね。わたし、本当はケンジ君のことが・・・」
どっひゃあ。予想通りの展開だあ。
大林ノブヒコの映画みたい。
その一瞬から、オレの菊江ちゃんのことを見る目ががらっと変わった。
突然、生身の女性に見え始めたのだ。
菊江ちゃんはテニス部か何かで、全身が日焼けしている。
中肉中背で、八百屋の娘ということもあり、さっくりとした性格だ。
「ありゃ。オレ好みのタイプじゃんか」
やっぱり、青い鳥は近くにいたわけなのか。
でも、現実はそんなに単純じゃない。
オレはつい最近、彼女ができたばかりだった。
そっちは、色白のお嬢様タイプで、性格も大人しい。
彼女としては申し分ないが、少し物足りない。

「ケンジ君。彼女のことは知ってるけど、どうしても今言っておかなきゃと思ったの」
菊江ちゃんはオレと視線を合わせないように目を伏せている。
正直、オレも心がグラグラと揺れていた。
「そう言えば、人の本意を確かめるには『手を握って話せ』と言うなあ。それは自分自身でも同じだ。オレの心を確かめるには・・・」
菊江ちゃんと手を握ればよい。
オレは両手を伸ばして、菊江ちゃんの左右の手を握った。
「菊江ちゃん」
すると、菊江ちゃんはすぐにオレの胸に飛び込んだ。
少し早とちりをしたらしい。
まあ、菊江ちゃんは普段からチャキチャキな性格で、せっかちなところがある。
ところが、そのおかげでオレはオレの本当の心が分かった。
「ありゃりゃ。オレはこの子となら、ずっと付き合っていける」
今の彼女とは互いに向かい合うような関係だが、菊江ちゃんは違う。
横に並んで歩いて行ける関わり方だ。
「こりゃ、やっかいなことになりそうだよ」
三角関係でスッタモンダしそうだ。
心の中でそう呟いた瞬間、後ろから声を掛けられた。

「すいません。これからここを大人数が通ります。向こう側から来ますので、一度降りてもらえますか」
歩道橋の先を見ると、山盛りの人だかりだった。
これじゃあ、確かに、流れに逆らって進むのは危険だ。
オレは菊江ちゃんと2人で階段を下りた。
ところが、階段の下にも人が沢山待っていた。
皆、オレと同じ制服を着ている。
その中の1人が前に進み出る。
そいつはオレの後輩だった。

「先輩。卒業おめでとうございます。我々は皆でお祝いを伝えに来ました」
この集まりは後輩たちによるサプライズお祝いだった。
オレが何も返事をしないうちに、人だかりが整列した。
「よし。まずはエールから」
サンキュー・サンキュー、ケンジさん。
それが終わると、すかさず、後輩たちは歌を歌いだす。
確か『勝利の雄叫び』とかいう応援歌だ。

誠意でやってくれているのだから、こういうのはきちんと受け止めねばならない。
オレは菊江ちゃんと並んで、じっと応援歌を聴いた。
だが、ここは6車線道路の歩道橋脇だ。
車の排気ガスがすごく、オレはそいつのアレルギーだった。
咳が出て、涙が流れる。
それを指で拭っていると、後輩たちの後ろの列の方から声が聞こえてきた。
「ギャハハ。泣いてやがんの」
オレが感動で涙を流していると思ったらしい。
「ふざけやがって」
オレはかなり気が短い方だった。

応援歌が終わり、皆が沈黙した。
そうなると、オレが何かお返しをする番だ。
まずは口上からだな。
「皆。どうも有り難う。知っての通り、俺たちの学年は全国制覇を目標に戦った。残念ながら準優勝となり夢は叶わなかったが、あと一歩のところまでは辿り着いた。オレたちの夢は皆が受け継いで、来年こそ全国制覇を成し遂げて欲しい」
「おお」という声援と拍手が巻き起こる。

「よし。その思いを伝えるために、これからオレが皆に精神を注入してやろう。1人ずつ全員にだ。よし、皆。目を瞑って歯を食いしばれ」
これなら、断れまい。これから全員をパンチしてやろう。

これがオレの性格なのよ。ザマーミロ。
ここで覚醒。
せっかく菊江ちゃんと良い感じだったのに、話が途中で終わってしまいました。
まあ、所詮は取り留めの無い夢の話です。